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スピリットヘブン  作者: 嵩宮 シド
Infinite Hope(1st Season)Ⅲ
62/70

Dreamf-15 明かされし嘘(A)

       1




 連日、ビーストの出現。

 もはや夏休みなど決め込むことも出来なくなりSSCーースカイベースの乗組員は研究施設の防衛ラインを整えていた。

 ビーストはまるで回収された石版に引き寄せられるように出現している。

 I早々に解析を完了させ、処分するようIAアジア支部から命じられており、研究施設のスタッフ総動員で石版の解析を進めさせている。

 対応の速さはさすがと言うべきか。

 だが、まるでこうなることを見越していたのではないのかと、吉宗は疑っている。

 旅館にあるカフェスペースでゆっくりしながら、考えている。

 考えてしまうのだ。そうではないのかと考えてしまうと――

 直感だが、どうも処分という命令はアジア支部の総意ではない気がする。

「まさか、あの男が関わっとるわけやないやろうな」

「……? どうしたんですか、あの男って」

 独り言を横で聞かれていたようで、その聞き主であるSSC響光孝(ひびきみつたか)チーフが吉宗の気を察しにきた。

「ん、ああ、何でもない。それより響、一般住民への説明はどうや」

「そちらは各チームの隊長、IA特捜チームに任せてます」

「そうか。で、あいつのほうはどうや」

「あいつ……? 天ヶ瀬のことですか」

「ああ」

「天ヶ瀬なら、旅館の自室で休んでます。連日の戦闘で少し疲れたんでしょう」

「そうか」

 うなずき、吉宗は席から立ち上がった。

「コマンダー、どこへ?」

「円のとこに決まっとる。女一人も守れん空けもんがって叱ってくるわ」

「はあ」

 そう言い残し、カフェを後にした。

 後ろから響が突いてきていないということを確認すると、吉宗は懐から携帯を取り出して連絡先からIA特捜チーム班長である、杉森柳の携帯へと電話をかけた。

 いつもより長いコール。

 説明会の最中のためか、やはり間をあけるべきか。

 留守番電話にメッセージだけ残しておく。


「杉森、頼みたいことがある。手が空いたら掛け直してくれや」



       2




 考える。

 目の前の霧を取っ払うように。

 三年前の事故。

 死んでしまった自分自身ではその時その場の状況を知っている訳ではない。

 だから考えられるのは自分が轢かれる直前の記憶と、ニュースと新聞の記事で知ったこと。友里から聞けばいいのだが、友里に自分の死に様どうだったなどと、聞けるわけがない。今日はふとしたことで想起させてしまったようだが。

 思い出す。

 例えば、何故円はトラックなどに轢かれに行ったのか。

 絶対に助からないと知っていて。

 それは――――

「ん?」

 人の気配がする。そしてトントンとドアをノックする音。襖を開けていたのでノックが聞こえやすい。

「どうぞ」

 答えるとドアが開かれ、

「おお、おったんか」

「コマンダー」

「入ってもええんか」

「ええ、どうぞ」

 空いているイスを指すと、吉宗は靴を脱いでそちらの方へと向かって円と向かい合うようにイスを動かして腰掛けた。

「で、どうや。心持ちは」

「良くないです」

「やろうな」

「絶対に巻き込みたくなかった。僕の戦いに」

「巻き込みたくなかった……。そういうんやったらもうすでにお前さんの幼馴染みは何回もビーストにおそわれとるやろ」

「そうじゃないんです。今回のビーストは、明確に僕を狙ってきた。皆がすぐに出撃って行かない今は、僕が何とかしなくちゃいけなかったのに

。なのに……」

 円は強く、

 握り拳を強く――

「もっとキツく言っておけば良かったんです。あんなんじゃ、絶対にダメだったんだ。ビーストとの戦いはもうそこらの紛争の銃撃戦なんてレベルじゃない。人間なんか近寄るだけでほぼ確実に死ぬのに。それを、友里に……」

「でも死んでへんかったんやろ?」

「それは結果論で、もし、あのときカイトの技のパワーがもっと高かったらその余波を友里が受けていたのかもしれない。そうなったら絶対に……」

 握った拳が震える。

 友里が死んでしまう。そのただシンプルなことを考えるだけでゾッとする。

「僕がもう少しだけでも、強ければ。強ければカイトが出てくる前に倒せた」

「やが、ストレンジブレイズウェーブやとこの敷地に壊滅的な被害が出とったかもしれん。ビーストはあんななりやけど、エネルギーはとてつもない。見た目以上にもたらす被害は絶大や。倒しても、生かしても。それを体よくコントロールして被害を押さえて倒す。それも、俺たちの仕事や」

「仕事とか、そんなじゃなくて。じゃあ仕事だから別にこれ以上強くなる必要ないって、それは違うでしょ。強いビーストが出てきたらそれを倒せるぐらいの強い武器を作る。現に、僕の技を使った武器だって開発中じゃないですか」

「強くなるななんて誰も言ってへんやろ。何かをなすために強くなる、大変結構。やけどな、そのために強さを目的にするんは無しや。ええかーー」

 と、吉宗は立ち上がり、円の頭をガシリと掴んで顔を間近まで近づける。

「たとえ強さが全てやとしても、その強さに捉われんな。ええな、その強さに理由を持て。その理由を目指して、強さを求めえや」

「強さの理由?」

「はあ……」

 吉宗は溜め息を吐いて円から顔を離し、

「それはお前が何回も言うてるやろ」

「…………?」

「それが僕の強さや、言うてたやんけ。『皆の笑顔を守る』んやろ」

「……っ」

「理由としてはそれで十分やないか。何でそれを強くなる理由にせなあかん。お前はカイザー……櫻満カイトのようにはなんな」

「カイト?」

「ああ。あれの果てはあいつにとってどっちに転んだところで碌なもんやない。強さを追い求めるっちゅうことはその覚悟が必要なんや。もっとも、あいつを見るからにそんな覚悟とっくに出来とるようには見えるけどな。けどお前はそれだけはするな。お前自身、天ヶ瀬円っちゅう自分自身の価値を正しく理解せえ。お前の命、俺も預かっとるんやからな」

 とんっと円の胸を小突いた吉宗。

「ほな、言いたいこと言い終わったし俺は研究所戻ってスカイベースの様子見てくるわ」

「あの」

「ん?」

「何で、僕にそんな気を掛けてくれるんですか?」

「ん? 俺は誰か一人を優遇しとるつもりはないで? ただお前が幼いからなんとちゃうか? ほかの奴は隊の歴長いし、ええ大人や。言われんでも全員分かってるんや」

「分かってない人は?」

「そいつは人間として終わり。年貢の納め時、そろそろ来るんとちゃうか?」

「…………」

「聞きたいことは以上か?」

「あ、ええ……」

「うん、ほなな」

 そうして、吉宗は部屋から出ていき、個室には円一人――

 となる所、ドアを開けて、部屋から出て行く間際、吉宗は立ち止まり円の方に振り向き、

「あ、そうや」

「ん?」

「沙希が呼んでたぞ。なんでも渡したいもんがあるって」

「渡したい物?」

「さあ?」

 沙希が円にとって悪い事はしない。

 それがどんな形であれ、円にとっては役に立つことばかりである。

「分かりました。後で行きます」

「おう、分かった」

 と、吉宗は今度こそ、円の部屋から出ていった。

「今の言い方変だ……」

 年貢の納め時。

 そろそろ来る。まるで、その相手がいるような言い方だったではないか。

 吉宗は何か隠している。

 円たちが前線で戦っているところの裏で何かが起こっている。それが表に出てくるときが近いと、何となく察知できた。




       3




 ただ黙って、

 黙って、里桜は、友里の口から発せられた言葉を聞いていた。

 今自分が知っていること全てが、里桜に吐き出された。

 一緒にいた円が、いつも話している幼なじみの天ヶ瀬円であるということ。円はスピリットという超越した存在で、恵里衣も円と同じスピリットであるということも、

 今日昨日と連続して流れてきた避難警報は全てビーストの出現によるものであるということ――

 何もかも。

 話し終わった後、友里は自信でも気づかぬ間に涙ぐんで嗚咽を漏らしていた。

 そしてひたすら、

「ごめん、ごめん……ッ」

 それを繰り返していた。

 何に――誰に謝っているのか。

 円を裏切ったこと。

 恵里衣を裏切ったこと。

 SSCの皆を裏切ったこと。

 目の前の親友(里桜)を裏切っていたこと。隠し事をしていたこと。

 そしてそんな醜いことをしていた心に、弱い心に。

「ぅ……ぐ、ぅ……っ」

「友里……」

 そんな友里を起こることも、罵る事も無く、里桜は優しく友里の顔を自分の胸に埋めさせて涙を受けとめた。

「辛いよね。分かるよ私。友里、ごめんね。ごめんね」

 ひしと抱きしめ、友里の耳元でささやいてくれる里桜に、涙が止まらない。やっと重荷が軽くなったと、悪いことをしたのにむしろ安心していた。

「その秘密、私も一緒に背負うから。抱えるから。友里一人で頑張りすぎないで」

「ぅぐ……っ。ありがとう、里桜……っ」

 抱きしめられ、

 友里も強く抱き返す――

「ダメだよ」

「「……ッ!?」

 そんな二人の間に割ってはいる、そしてよく聞き慣れ、聞きたくない少女の声。

 瞬間、病室であったはずの空間がブラックアウト――そして断崖連なるどこと知らぬ高山帯へと姿を変えた。

 自分が寝ていたベッドはいつの間にか小さい岩へと姿を変えていた。

 境域ではない。

 間違いなく――

「友里、君はいけない子だ」

「あなたは……ッ!」

 先ほど出入り口が合ったほうからこちらへと歩み寄って来た。香々美鈴果――

「ダメに決まってるだろ。円に迷惑掛けるなよ」

「そんな……だって」

「君はもう引き下がれない所へ来た。そして、一線を踏み越えた。口を開いた者は、罰されなければならない」

 そうして取り出す、

 黒い異空間の穴から、長身の拳銃を。

 そして銃口を、こちらへと向ける。

「君を殺すのは実に容易い」

「――――ッ!?」

「この引き金一つで、君を殺して見せる。が……」

 普段不敵で不気味な笑いを浮かべる鈴果の表情が険しい物へと変わり、足下の岩を勢いよく踏みつぶして見せた。。

「僕は今、機嫌が悪い。友里、君には最大限の恐怖を、そして後悔を与えて殺してやるよ」

 その銃口が向けられるは、友里――

 ではなく、里桜。

「……ッ!?」

「里桜!」

 突然、自分にねらいを向けられた里桜は固まったまま。

 友里の呼びかけにすら答えない。

(もしかして、私の時のように!?)

 鈴果の力で動けなくなってしまったのか。

「やめて鈴果ちゃん! 里桜は関係ない!!」

「関係はあるさ。君が喋った」

「でも――ッ!」

「君が招いた悲劇だ。大丈夫、君もすぐに送るさ。天国もちょっとはにぎやかになっているさ」

「いや……ッ! だめ!」

「じゃあ、里桜だっけ。先に行ってきなよ」

 銃口に黒弾。

 友里の胸がドクッドクッと強く鼓打ち、

 喉元に大きな物がつっかえるような感触と、

 ドッと冷や汗が噴き出してきた。

 鈴果へ、里桜へ、

 里桜へ、鈴果へ、

 友里の目があちらこちらへと泳ぐ。

 そんな友里の表情を見たかったと、鈴果は口元を歪ませる笑みを浮かべ、

 トリガーを――

「やめてぇぇえええ――ッ!!!!!!!」

 友里の絶叫をよそに、

 引いた。

 打ち出された黒弾は刹那のうちに里桜へ――

「ぐッ――!」

 その胸に被弾し爆裂し、

 里桜の姿が硝煙の中へと消えた。

「あ……っ!? り、里桜……ッ!!」

「はあ、スピリットならこんなのじゃ倒れないんだけど、人間だからね」

「里桜っ、里桜!!」

 喉元につっかえ、

 グッとこらえていた恐怖、

 後悔、

 自分の弱さゆえに、

 犠牲、

 悲劇が引き起こされ、

 噴きだしてきていた冷や汗すらも引っ込む程に、

 逃げ出す事の望み絶たたれ――絶望した。

「あっ……うっ、ぐっぅ――」

 声にならない嗚咽――

 否、嗚咽にすらならないうめき声が声が漏れ、涙がただ流れ出してきていた。

 爆発し、里桜を飲み込んだ硝煙が薄くなっていく――


「そうね、人間ならたぶん死んでた」


「え……っ?」

「――なッ!」

 友里だけではない。

 鈴果も、その言葉に驚愕の表情を浮かべていた。当然の話――

 その言葉を発した言葉の主が、

「り、里桜……?」

 だったからであった。

「何だと……?」

「分かるでしょ、あんたなら。私も、同じ」

「ああ、そういえばいたね。存在は確認されてるくせに姿は誰も知らない奴が」

 考えれば、不自然な所――小説や漫画で言うところの伏線はあった。

 一つ、

 それは、円の誕生日が近くなった日。

 仁舞大路通りでニ体のビーストグランゼルとマグリドラの襲撃に遭ったその翌日。

 学校の保健室に里桜につれられ、ベッドの上で眠る寸前、里桜は「ごめんね」と言っていた。

 友里にはその言葉の意味が、その時分からなかった。

 その意味の答えを考えるで、

 二つ目、

 それは友里の円の事を紹介した際、何故あっさりと同姓同名の人物でああると信じてくれたのか。

 里桜は友里がそんな事で嘘をつくはずがないと返してくれていたが、実際それは、事情がその時に分かったから。

 三つ目、

 里桜はよく一緒に友里といるのだが、何故ビーストが出現するさいには一緒にいなかったのか。

 里桜が逃げていたというわけではない。いつも里桜が友里を引っ張ってくれていたのだ。里桜が友里をビーストの出現しない方へと誘導していたのだとしたらそれは必然、里桜の前にビーストが出現しないという事象が引き起こされる。

 二つ目と三つ目を踏まえ、一つ目に考えたことを踏まえると、「ごめんね」という言葉の頭には「一緒にいてあげられなくて――」という言葉がつくはずだ。

 何故一緒にいなかったことを謝るのか。どうにか出来たからである。里桜が円や恵里衣と同じ、スピリットであったから。

 そして一つ気になることが、生まれた。

「何で……っ、里桜……?」

「ごめん、友里。私、ずっと秘密にしてようって思ってた」

「秘密?」

「だってさ――」

 里桜は自分の掌を見詰め、

「恐いじゃん。こんなのって」

 そして握り拳。

 里桜の声も震えている。

「こんな、あり得ない力を得てさ。想像してみてよ、友里。まず、何が怖いと思う? 私は、まず友里が怖くなった。ううん怖くなったのは、私の事を知った友里の反応――その想像。どれだけ人間のふりしても、いざ目の前で怪獣(ビースト)相手に戦ったらなんって思うかなって。私だったら今までのように接することが出来ないって、その手に掴まれたら自分の腕が折られちゃいそうで、何が琴線になって手を下ろされるのかなって思うんじゃないかって。そんな目に友里を合わせる。そんな目で、友里に見られるって。そう思ったら怖くって。だから、もう絶対使わないし使わないようにして行こうって。今まで通り普通の女の子――友里の親友として生きて行こうって。私自身が、スピリットになった事すらも忘れるぐらいに」

「里桜……」

「でも、秘密にするっていう事は逃げるってことなんだよね。「秘密は女を美しく着飾る」って言うあれは、怖いことから逃げてるお姫様みたいだなって。だからなんとなく友里の気持ちが分かった。秘密を抱えるって言うのは、きついんだよ。いつも、なにが拍子でバレるのかって恐怖もあるし、秘密にするってなら小さい事でも譲れない理由がある。その理由のせいで、バレるのがもっと怖い。時間が経てば経つ程どんどん大きくなって、それは本当にバレたくない人の前だったら首を絞めてくる。いっそバラしちゃえって」

 それはまさに、先ほどの友里である。

 秘密がバレる――バラすとは、

 SSCの皆を裏切る、

 恵里衣を裏切る、

 里桜を裏切っていると明かす、

 そして、円を裏切る、

 という事だ。

 聞き迫ってくる里桜に圧されるような形で、友里は折れた。隠しきれない、と――バラしちゃえ、と。

「それで、バラしちゃうってもっと逃げてるように思えてそれも怖いんだよね……」

「…………」

「でも、私思ってたのと違ってた。秘密にすることが逃げるってことなら、口にするって言うのは立ち向かう事だって。自分の秘密と向き合って生きていくって。友里、あんたのおかげで、私は立ち向かえた」

 握った拳を自分の胸に当て、鈴果を真っ直ぐと見る。

「友里が自分の抱えてる秘密に立ち向かったように、私も私の秘密に立ち向かう。私がスピリットだって事と!」

「ふん……」

 鈴果は「まあいいか」と、トリガーを引き――里桜に向かって黒弾を撃ってきた。

「ハァッ!!」

 スピリットであるが故、その黒弾が目で捉えられているようで片手で弾き飛ばした里桜。

「友里は殺させない。――私が守る!!」

 短い気合と共に地を蹴り、瞬間、

 鈴果と里桜がぶつかりあった。

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