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スピリットヘブン  作者: 嵩宮 シド
Infinite Hope(1st Season)Ⅲ
54/70

Dreamf-13 海と水着と古代の贈り物(A)

       1




 ――IA日本支部科学技術研究所――

 フロリダにあるウォルト・ディズニーワールド二つ分もある敷地を有し、新潟の海岸から伸びる人工島にまで敷地が飛び出しており、敷地の端から端まで行くのにバスが出ているほど大きい。

 敷地内には一般市民の住宅街など生活空間もあり、日本国内では唯一IAが所有する敷地に一般人が出入りする事が出来るところでもある。

 そんな施設の発着ドッグには巨大な空中要塞が着陸しており、施設の従業員が号令と共に次々と乗り込んでいく。そんな彼らとすれ違うように要塞から降りて来たのはキャップをかぶった老眼鏡をつけた七〇代の老人。

 彼こそが、この空調要塞を拠点とする防衛軍、SSCの司令官(コマンダー)吉宗正嗣(よしむねまさつぐ)である。

「お久しぶりです、コマンダー」

 そんな彼に声をかけたのは、開発部門第一班班長である相良桜子(さがらさくらこ)であった。

 口元にほくろがあり、人相が整った美女である。

 いつも研究に明け暮れて目の下にクマがある、というようなイメージを持つがそんなイメージなど、桜子の前では意味は無い。

 人と会うと知るとしっかりと身だしなみを整えてくるあたり、女性としての最低限の嗜みを忘れていないようだ。

 ただ、研究室から直接出てきたためか着替えは済ませておらず、着崩れて少し汚れがある白衣のままであった。

「うん久しぶりやな、相良班長」

「もうやめてくださいって。班長ってつけるの」

「何でや。そな言うたらお前さんやって俺の事コマンダー言うやんけ」

「それは昔からです。沙希ちゃんが来る前は私が、SSCのアドバイザーだったんですから」

「よう覚えてる、うん」

「コマンダーはこれからも私のコマンダーですから」

「それはありがたい」

 かつての部下と上司の会話。

 SSCも、沙希が来るまで桜子には大分助けられたものだった。

「こっちです」

 そう、桜子に案内される形で施設の中へ。

 様々な生体認証によってロックを解除していき、さらに奥へ。進んでいる廊下はどんどんと人気が少なくなっていく。

「円が海に落ちた探査船からもって帰ってきた奴、どこまで解析が進んどる」

「今手が尽くせるところまでは出来てます。そちらこそ、例の物は?」

「ああ、こいつか」

 桜子に言われ、吉宗が懐から取り出したのは小さな石板状の石。

 これは、円がビーストの犠牲者となった家族の娘から貰ったという化石だ。

 SSC現アドバイザーである沙希・エマーソン曰く、「探査船が持ち帰った石板と、円が少女から貰った化石、この二つは全く同じ石質の物で出来ている」らしい。

 そもそも探査船とは何か。

 IAは対ビーストのほか世界各国の宇宙開発機関と連携して宇宙開発に力を入れている。そのうちの一つとしてJAXAが立ち上げた深宇宙探査計画に、IAの防衛軍が普段使用するエネルギーを無人宇宙探査船に使用することで今までたどり着くことが出来なかった深宇宙へと打ち上げることが出来るようになった。

 その探査の末、深宇宙にてある反応があった。それが件の石板であった。どうやら自然物ではないらしく、何者かによって加工された形跡があることから、採取され――

 そして先月末。半年の旅の末、日本海沖に探査船は着水。

 石板は回収されて現在解析が進められている、とのことだ。


「おお、これか」


 施設の最深部。

 決して一般に公開される事も無い。そして決して表に出る事の無いであろう物の研究解析を行う場所。

 強化ガラス越しにある解析機の台上に立てられている。大きさは小さな子供と同じ程度だろうか。

「んん、思ったよりも寂しいな」

「問題は大きさじゃないですよ、コマンダー」

「まあ、そうやな」

「じゃあ、さっきのやつお借りしてよろしいですか?」

「ああ。円には話通しとる」

 と、吉宗は相良に化石を渡した。

「それで」

「ん?」

「この化石の持ち主の、天瀬円君は、いまどこにいるんですか?」

「ああ、あいつか。あいつやったらな――」

――――




       2




「成し遂げたな、俺たち」

「はい」

 雲川と円、ケイスは海をを眺めて海岸で仁王立ち。

 三人、無事に水着に着替えられた。

 一部、トラブルはあったが…………。

「泳ごう」

「はい!」

 夏はまだ始まったばかり――。

「お待たせー!」

 と、意気揚々と海へ飛び出そうとしてきたところ、海岸の入り口の方から自分たちに向けられたであろうその声。

 振り向くと、眩しい光景が。

・一人目――。

 先頭に居るのは天然の金髪をポニーテールで結び、活発さが見える顔立ちの円と同い年程の少女であった。

 その身に纏うのは、夏の日の下に自らのプロポーションを堂々と露わに――そしてシンプルな三角水着(ビキニ)であった。パーソナルカラーであるのか水着の色はライトグリーンのワントーンカラーが、尚その肌の明るさを強調している。金髪に緑は似合うのだ。名は、鈴木里桜(すずきりお)

・二人目――。

 先頭出る里桜の後ろで一切円らと目を合わせようとしない、炎よりも赤く長いツインテールをした十三歳程の少女。こちらもまた、パーソナルカラーである赤を基調として花柄模様のワンピースであった。里桜とは違って、露出は控え目であるが、細身で身体のラインがいい彼女ならではの似合い方である。もっとも、その似合い方も、浮き輪に体を通している事からどう見ても幼いように見えてしまっている。そんな彼女の名は、桐谷恵里衣(きりやえりい)

・三人目――

 歳は里桜や円よりも少々年上ほどだろうか。翠色の瞳に何故か似合うピンク色の髪の毛。ウェーブのかかったようなくせ毛のあるセミロングの髪の毛を後ろで束ねている少女であった。水色のベイズリー柄のクロスホルたービキニで、南国を思わせる模様のパレオを腰に巻いている。頭には黄色いガーベラの髪飾りを挿している。名は――沙希・エマーソン。

「そしてそして、大本命だぞ、天ヶ瀬君!」

「ふわあっ!?」

・四人目――。

 里桜に引っ張りだされるように一番前に突き出されたのは、ストロベリーブラウンの色がかかったセミロング、ハーフアップの髪型をした少女であった。だが他の三人とは違って水着姿では無く薄めのパーカーを着ていた。名は、園宮友里(そのみやゆり)

「って、友里はそれいつまで着てるのさ」

「だ、だってぇ」

 すこし呆れ気味の里桜は小さく溜め息を吐く。それでもなお、友里は恥ずかしがってぬごうとしない――

「その水着は飾りじゃないでしょ」

「いやでも――ひゃっ!?」

 ので、すぐさま沙希が友里を取り押さえた。

「ちょっと、沙希さん!?」

「友里ちゃん、ここは頑張りどころだよ?」

「え、ええ!?」

「里桜ちゃん!」

「ナイス、沙希さん!」

「ちょっ、いやぁああ!!」

 友里の悲鳴など、知らぬものであると、

 そして沙希とのチームワークを見せるがごとく、里桜は友里のパーカーのチャックを開け、後ろから沙希がパーカーを引っぺがして放り捨てた。

「あっ……」

 円、言葉を失う。

 出るところと引っ込むところがしっかりとしたグラマスでスレンダーな体型。その良いところを全面に押し出す白色のホルタービキニであった。トップスの縁にはフリルがついてレースのスカートタイプのショーツというスタイルで、同い年の里桜のとは違ってこちらは可愛らしさを全面に押し出してきている。が、胸元の金色のチャームがほんの少し、扇情的であった。

「ハッ……!」

「ん?」

 円らの視線に気づき友里はまるで借りてきた猫のように両腕で自分の体を抱く形で身を縮込めた。

 それがむしろ、友里の豊満なバストを際立たせていることは、彼女自身、当然気付いていなかった。

「ゆ……友里?」

「は、はいッ」

 それを直接言うと、また「デリカシーがない」などと言われかねない。

「大丈夫か?」

「……大丈夫。……あの、円?」

「ん?」

「えと、似合ってる?」

「ああ、似合ってる。すごく、ホントに」

 正直、どんな格好をしても目のやり場に困る程には。

「…………」

 円のその言葉に呆気を取られて友里はゆっくりと両腕を下ろす。

「あ……っ」

 それで友里の体が全て見えてしまうと、なぜ思いつかなかったのか。友里の真白い肌が日に当たり、へそや鎖骨によって肌に薄ら影が見え、弾力のあるたわわな二つのふくらみの谷間は友里の呼吸ごとに長くなり短くなり、金色のチャームが僅かに揺れる。

(やばい……っ)

 とっさに――

 思わず円は自分の口元を隠した。

 うっかり鼻の下が伸びて変な顔になっていないか、無意識に気になったからだ。

 それがのぼせて出そうになった鼻血を抑えようとしているように見えたのか、

「お、天瀬君、欲情したな? 友里に」

「なっ……!」

 友里の両肩を抱いて顔をのぞかせて怪しい笑みを浮かべる里桜。

「隠す必要ないよー? さすが友里だよねぇ、天瀬君の好みがよく分かってるぅ」

「なっ、にぃ!?」

「ちょっと、里桜!?」

 ならば、友里は自分でコーディネートしてそれをあろうことか自分で恥ずかしがっていた、という事となる。円が好みそうなものを着てみたけどいざ本人を前にすると恥ずかしくなってしまったという感じだろうか。

 そう考えると、

(友里ってこんなあざとかったか?)

 目のやり場どころか、友里をみる事すら出来ない。海で遊ぶ前にノックアウトされてしまう。

「そんなんじゃないって」

 と、里桜へ――

「そんなんじゃないから!」

 なぜ円に対する言葉がそんなキツいのか。

 そうして、友里はチーム・ゴールドの隊員たちが遊んでいる所へと駆けて行く。

「あ、友里! ったく、照れ隠しで怒るなんて!」

 と、里桜は「待ってよー」といいながら友里の後をついて走っていく。

「変態」

「……っ!」

 夏の浜辺でさえ、その一言はあまりにも冷たいものだった。

 恵里衣が放ったものだ。この少女はいつにも増して辛辣である。言葉も口数も最初から少なかったため、いつもより不機嫌なのは間違いないがっどうやら一連のやりとりでその不機嫌さが増したようだ。

 恵里衣の赤い瞳で睨まれては言葉を発することも出来ない。ましてや蔑まれては口を出すごと徐々に嫌われる一方である。

 そんな、状況をくみ取ったのか、

「恵里衣ちゃんっ」

「え……っ」

 そんな彼女の腕を掴んだ沙希は、

「私たちも行こっ」

「え、ちょっとーー」

 恵里衣を引っ張って友里達の方へとついて行った。

 ようやく楔から解かれた円は大きくため息を吐いて置いてけぼりを受けていたであろうケイスと雲川の方を見やるーー

「うぇっ」

 至極、満足しているようである。

 まるで、仏や神様に出会っていたかのように、

「神よ……」

「仏に感謝だな」

 ケイスは十字を切って祈りを捧げ、

 雲川は手を合わせて、

 そう、しばらく雲川とケイスは放心していた。




       3




「なあ鷹居リーダー」

「なんだ、本木キャップ」

「夏は良いな」

「ああ」

 パラソルを開き、デッキチェアを二つ並べてそれらに仰向けに寝そべっているのは、SSCチーム・エイト隊長(キャプテン)本木大吾と、SSCチーム・イーグル隊長(リーダー)の鷹居一晴であった。

 大柄な筋骨隆々とした体格をした本木と、細身で引き締まった体つきをしている鷹居。お互い、今日は肌を焼くのだと海に来たのにずっとこうしている。

 日光が眩しい為か、サングラスを着けている二人。

「華がある」

 と、鷹居。

 彼ら二人が見る先、浅瀬で女性隊員で構成されているチーム・ゴールドとアドバイザーや円の友人たちが波打ち際でビーチバレーをしてはしゃいでいる。

 夏の海での、男ならではの楽しみ方である。水着の美女を遠くから眺めて品定め。

「本木キャップ。誰を見てる?」

「何の話だ」

「とぼけるなよ。本命、いんだろ」

「まさか……。まさか、な」

 と、本木の目はチーム・ゴールド隊長である志吹の方に向けられる。

 二の腕辺りまでまで伸びる茶色いストレートの髪の毛をポニーテールに結んでいる。

 アスリート質がある体型は、軍に所属している女の体つきはどんなだと聞かれたら志吹の姿を思い浮かべて語ってやれば大体あっている。着ている水着は三角トップにショートパンツの脚ぐりがホットパンツのように浅く男性用の下着のようにほぼ水平にカットされているボーイレッグのビキニであった。色は落ち着きのある深い青色が基調となっており、トップには赤が主体のエスニック柄が描かれている。

 年甲斐もなく、他の女子陣並にはしゃいでいる。

 本木も、しばらく志吹のそんな所を見ることもなかったので見とれていた。

「彼女は確かあんた(本木キャップ)と年近いんだったな」

「ああ。って言っても、あいつはオレよりも三つぐらい下だがな士官学校時代からの仲間だ――」

「なるほど、志吹隊長か」

「…………」

 これ以上口を聞いてやる必要はあるまいと、閉口する本木。

「おいおい、人の恋沙汰を冷かすほど、ガキじゃねえよ俺は」

「…………」

「はあ~あ」

 鷹居、大きく溜め息を吐き出す。

 そこまで怒らなくてもと思うが、それともよぽどつかれたくない所だったのだ。

(こりゃモノホンかもな)

 という事で、この件で本木を弄るのはただのいじめっ子がするようなことだ。今後はよしておくことにする。

「しかしま、若い衆はなぁ、なんっていうか……」

 と、鷹居の目はチーム・ゴールドのメンバーたちと遊んでいる沙希や園宮友里らの方に向けられる。

「瑞々しいなぁ」

「なにやってんですか、お二人は」

「あ?」

 と言って、本木と鷹居の隣に居たのはSSC最高戦力――10人目の光の戦士(スピリット)、天ヶ瀬円だった。

「ああ、ちょっとあそこにいるのを品定めって所だ」

「品定めぇ?」

 と、円も鷹居と本木が見ている方向を見やる。

 その視線の先、

「なんっつう命知らずな……」

 見た瞬間、円は苦笑い交じりにそう口にした。鷹居は一体何のことだと首を傾げる。確かに、チーム・ゴールドのメンバーにはバレたくないが……。

「そういえば、よくあいつが来る気になったな」

「あいつ?」

 ここでようやく、本木が口を開いた。

 むろん、鷹居には開くつもりは無いだろうが。

「クリム――いや、桐谷恵里衣がな」

「僕が誘っても「来ない」って言ってたんですが、友里が誘ったら行くって言いまして。でもホントに来るとは……」

「なんか嫌われるような事したのか?」

「そんなの、いつもされてますよ」

「そうか、ロリコンって奴か」

「やめてください、風評被害。全然違いますから」

 円は絞り出されるように発せられた苦し紛れな声を発する。

「お前さんの幼馴染のお友達には、お前の事教えてるのか?」

 と聞くのは、鷹居であった。聞いた話によると園宮友里は円の事も話していたそうだ。もちろん、スピリットになって日々異形の獣と戦っているという事では無く、中学二年の頃に交通事故で命を落とした幼馴染としてだ。

「ええ、教えてますよ」

「マジか」

 という事は、機密情報が一般人にまた一人知られたという訳――

「漢字違いの同姓同名として、らしいですけど」

「そうなのか。てか、それで良く納得したな、彼女」

「友里が言うなら嘘は無いだろって」

「って事は、お前は園宮友里を寝取ったってことか」

「そもそも一度も寝てないから」

 呆れ気味に大きなため息を吐く円。年頃の少年ならば本木や鷹居のように際どい話を振られると慌てふためく物であると思っていたが、円はただ呆れてため息を吐くだけ。精神が歳以上に大人なのか、それとも所詮はそんなものはラブコメだけの物でフィクションなのか。

「その傷……」

 その時、円がぼそりと口にする。

 円の目線の先には、本木の腹に刻まれた大きな傷跡が。

「ん? ああ、これか」

 間違いなくその傷は金属生命体との戦いでつけられた傷であった。

 鮮明によみがえる。本木は敵の攻撃をその身で受け止めて円に勝機を与えたのであった。

「あの――」

「戦士の勲章だ」

「え?」

 誇らしげに腹の傷を指でなぞる本木。

「気にするな。戦場に出れば、大きな傷は一つや二つ、付くもんだ」

「キャップ……」

 危うく、夏の海で暗い話題になりかけた。本木の戦士な対応のおかげか、円にも笑顔が戻った。

「お前もあいつらと遊んで来い」

 と、本木は波打ち際で遊んでいる女子陣を指した。




       4




 しかし、思った以上にハードになってきた。

 さすがいつも戦場の最前線で戦っている人たちだ。友里自身なんかよりもよっぽど運動神経が良い。それは、この遊び(ビーチバレー)でも発揮されているようだ。

 だが、ようやく一ポイント取り返してこちらのサーブ。

 対戦カードは友里&恵里衣ペアVS里桜&志吹ペア。

「よーし、ばっちこーい!」

 敵側へと回っている里桜が手を振ってくる。最初は一緒にペアになろうと誘ってくれたのにいざ試合になると敵側へと回った。

「うぅ、裏切者ぉ……」

 なんとしても、ここいらで今までの分も含めて仕返してやりたいところだ。

 サーブを打つのは恵里衣。

 ぽんっと軽くあげて小さく飛び上がり、

「ハッ」

 ボールを上からたたきつけるイメージでボールを打つ――

「あれぇ」

 間の抜けた声を漏らし、彼女の手はボールの下の空を叩く。

 思いっきり空ぶったためか恵里衣はバランスを崩して浜辺に倒れ込む。

「もう、しょっぱい」

 倒れ際に海水が口に入ったようで、すっぱい表情を浮かべる恵里衣。

 ぺっぺっと口の中から海水を吐き出す。

「だ、大丈夫? 恵里衣ちゃん」

「うーん」

 駆け寄ってきた友里に手を差し伸べられてそれを掴み、引き上げられて立ち上がる恵里衣。

「こんなはずじゃ……」

 と、ビーチボールを拾い上げて両手でボールを持って縦に一回転させる。

 聞くところによると、恵里衣はビーチバレーは初めてであるらしい。

「初めてじゃ難しいよ」

「でもテレビで見たのだとこんなだし」

「テレビはテレビだって」

 友里は恵里衣がもつビーチボールを受け取り、

「皆と合わせようなんて思わなくてもいいから。ちょっとずつ慣れていこ。最初はこんな感じでさ」

 と、友里は下からボールをしたからすくい上げるようにポンとかるくボールを真上にサーブし、

「はい」

 落ちて来たボールをキャッチして、それを恵里衣に渡す。

「うん……」

 受け取った恵里衣は頷きを一つ。

 今回はいつにも増して素直な恵里衣。連れてくるのもちょっと無理やり気味だったかもしれないと、そして案の定送迎の車の中ではちょっとふて腐れ気味であった。

 だからムキになって反発されるかもしれないと思ったがそんな事も無かった。

「すみませーん、もう一回サーブしてもいいですか?」

「ええ、構わないわよ」

 友里の要求に志吹の了承も得られたので、恵里衣はもう一度サーブを行える。

 今度は上からスイングするフローターサーブでは無く、下から打ち上げるアンダーハンドサーブで打った。

 今度は空ぶらなかった。

 ボールが前では無く、後ろに飛んだのはさすがの友里も予想外だった。




       5





「ってか、雲川とケイスはどうした?」

「ああ、あの二人は「魚介類をとっ捕まえて今日の夕食のおかずにする」らしいですよ」

「旅館も取ってんだぞ」

「たぶん、帰ってくる事はないようです……」

「あいつら……」

 曲者揃い――と言うより、子供揃いのチーム・エイトをまとめるにはそれ相応に大人な精神を持っていなくてはいけない。だがそろそろ鉄拳を――特にトラブルの嵐を巻き起こしてくるケイスには――振り下ろす必要があるようだ。

「円、旅館に行く頃にアイツらを引きづってでも連れて帰って来い」

「え――いいっ!?」

「いいか、分かったか」

 サングラスをずらし、円の目を真っ直ぐと見る本木の視線。

 本木自身がどんな目をしているのか。だが今自分自身の心情を考えるとよっぽど強い睨みだったのだろう。

「はい、わかりました」

 円の声も、心なしなのか力が無かった。

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