オニの復讐
オニ太郎が森で修業を始めてから、9ヶ月近くの時が経過しておった。
その間に、オニ太郎はガチガチに鍛えられた鋼鉄のごとき体を持ち、素早さは森に住むどんな獣にも負けんようになっとった。その眼光はギラリと鋭く光り、その口はサメのごとき歯を生えそろえ、生の肉を喰ろうた。
本物のオニの誕生じゃ。
真の鬼と化したオニ太郎は、さっそく殿様の住む城へとおもむく。
今回は前とは違い、闇夜にまぎれて侵入した。ほとんど音もなく、城の石垣を登ってゆくオニ太郎。
城壁の上に立つと、その鋭く光る眼で見張りの兵を発見する。
次の瞬間にはもうサッと城壁を降り、城の敷地内へと立っておった。そのまま、ほとんど音もなく見張り兵へとちかづいてゆく。そうして、背後からガッと兵をはがいじめにすると、その大きな手で兵の口をふさいでしまった。
「静かにせい。わしが『ええ』というまでは決して声を出すな。一言でも余計なコトを口にすれば、その瞬間にお前の首の骨をへし折るぞ。ええな?」
オニ太郎にそう言われて、兵はコクンと1つ大きくうなずいた。うなずきながら、ブルブルと全身が震えておった。そのままションベンまでもらした。
じゃが、オニ太郎はそんなコトは一切気にせず、ただこう質問をしただけじゃった。
「この城におなごどもの住んでおる部屋があるじゃろう?殿様が自分の気に入ったおなごを集めて住まわせとる部屋じゃ。もしかしたら、部屋ではのうて建物かもしれん。いずれにしても、妾となったおなごの住んどる場所じゃ。そこが、どこか知っとるか?」
背後からガッチリとした丸太のような両腕に抱えられ、巨大な手で口をふせがれたまま、兵士はまたもコクンと1つ大きくうなずく。
「よっし!わしをそこまで案内せい」
オニ太郎にそう言われて、ようやく兵士は解放された。
…と思った瞬間、物凄い速さで両の腕を後ろに回され、縄で縛られてしもうた。
これでは、反撃しようと思うても、反撃しようがない。無論、そんなコトをしたところで、戦力の差は歴然。一瞬にして、オニ太郎の前に叩きのめされてしまうじゃろう。
オニ太郎に捕縛されてしもうた男は、素直に歩いて進んでゆく。
男の案内に従って慎重に歩みを進めるオニ太郎。
「もしかしたら、罠かもしれん。この男は、他の兵や武士たちのもとに案内しようとしてるのかもしれぬ」
そう思いつつ、オニ太郎は常に警戒をおこたらんかった。
しばらく進むと、男は1つの建物の前で静止した。
「ここか?」とオニ太郎が尋ねると、男は小さくうなずいた。
「本当じゃろうな?嘘をついておったら殺す。間違っておっても殺す」
そこで、男は初めて声を出した。
「ほ、ほんとうじゃ!嘘は言うておらん!」
「声を上げるな。黙っておれ」
オニ太郎が押し殺したような声でそう言うと、男は飛び上がって驚き、再び口を閉ざした。そうして、そのまま2度としゃべらんかった。しゃべりとうてもしゃべれんかった。突然、オニ太郎が拳を上げ、声を上げる暇もなく男の頭にゴツンと1つゲンコツを食らわせたからじゃ。
そのまま男は、ウ~ンと伸びて倒れてしもうた。
「もしかしたら、死んでしもうたかもしれんな。手加減したつもりじゃったが。まあ、ええ。死んでしもうたら死んでしもうたで、それだけのコトじゃ。運がなかったとあきらめるんじゃな」
オニ太郎は、小さくそうつぶやくと、男に案内された建物の中へと侵入していったのじゃった。