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オニ太郎に足らんかったもん

 ヒュ~~~ッと、崖の上から投げ落とされ、宙に浮いたままオニ太郎は考えた。

「わしの命もここまでか。わしの何が悪かったんじゃろうか?わしの人生の何がいかんかったんじゃろうか?」と。


 バチ~~~ッンと、オニ太郎は水面に打ちつけられ、そのまま水の底へと沈んでいった。

 幸いにも谷の底は川じゃった。それで、一命はとりとめた。ほんじゃが、そのままオニ太郎は流されてしもうた。水面に浮いたり、水の底に沈んだりを繰り返しながら、ドンブラコ、ドンブラコと川下へと流されていきおった。

 何度も何度も岩に体をぶつけ、大量の水を飲み、血だらけになりながら、どうにか川下の岸へと流れ着いた。常人じゃったら、とうの昔に命を失っておったろう。人間離れした異様な生命力が成せるわざじゃ。


 川に流されながらも、オニ太郎は考え続けた。

 岸に流れ着いてからも考えておった。ひたすらにひたすらに考え続けた。

「わしの何がいかんかったんじゃろうか?わしに足らんかったのは、なんじゃったんじゃろうか?」と。

 グルグルになわしばられた体のまま、考え続けた。

 そうして、ついに答を得たのじゃった。

「そうじゃ!力じゃ!わしには力が足らんかったんじゃ!力さえありゃあ、あの者どもを討ち倒せた。サヤを救い出せた。力が足らんかったから、わしはこんな目にうたのじゃ!この人生は、力不足がみちびいた人生じゃ!この不幸は、力不足がまねいた不幸じゃ!」

 おお、オニ太郎や。そんなはずはねぇ。誰もおめえの力不足をなげいたりはせん。おめぇは、ただ運が悪かっただけなんじゃ。それだけのことに過ぎぬ。ここまでの話を聞きゃあ、誰でもそう思うじゃろう。

 じゃが、オニ太郎は、そうは考えんかった。そうして、全身を縛っておる縄を強引に引きちぎると、スクッと立ち上がり、そのまま森ん中へと消えていきおった。


         *


 それからのオニ太郎は、まさにオニじゃった。

 おのれの力不足を嘆き、能力不足を呪い、ひたすらに体を鍛え続けたのじゃ。


 その身におった傷がまだ完全にえぬ内から、修業を開始した。

 オニ太郎の鍛え方は、それはそれは厳しいもんじゃった。とにかく、己の体をいじめるのじゃ。いじめていじめて、いじめ抜くのじゃ。そうして、そこでおった傷が癒えると、以前よりもさらに強靭な肉体を手に入れることになる。

 筋肉だけではのうて、瞬発力も身につけた。どのような速い弓矢の攻撃も避けられるようにと、野山に住む獣のごとき速さを手に入れた。速さだけではのうて、それに見おうた眼力と感覚をもやしのうた。

 目の端に獲物をとらえたかと思った瞬間には、もう体が動いておる。これは頭ん中で考えてできることじゃあねぇ。完全に感覚や感性によるもんじゃ。頭で考えんとも、自然と体が反応する。

 “獣のごとき”と表現したが、オニ太郎は実際に獣とも対決した。

 山や森に住むイノシシやクマなんぞと真っ向から対抗し、そのスピードとパワーでねじ伏せるのじゃった。


 こうして、オニ太郎は、さらなる力を手に入れた。

 これまでのように、畑仕事や山仕事に利用する力じゃねぇ。ただひたすらに、己の身を守り、敵を討ち倒すだけの力じゃ。

 オニ太郎は、この力を使って殿様とのさまを倒し、嫁のサヤを取り戻そうと考えた。そうして、それを実際に行動に起こしたのじゃ。

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