オニ太郎vs武士の軍団
さて、殿様の住む城にたどりついたオニ太郎じゃったが、城の門は固く閉ざされておって、とても中に入れそうにもない。
こんな時、賢かったり、機転のきいたり者であれば、いろいろと策略を練って城の中へと潜入するのじゃろうが、残念ながらオニ太郎はそういうのが苦手じゃった。
何も考えずに正面突破あるのみ。
巨大な木の門をドンドン、ドンドンと叩いてはこう叫ぶばかりじゃ。
「返せ!返せ!サヤを返せ!わしの嫁を返さんかい!!」
驚いたのは、城に住む者たちじゃった。
「何ごとか!?」と飛び出してきて、すぐに城の前に現われた不審者を発見した。
瞬く間に臨戦態勢を整えたのじゃった。
「出合え!出合え!狼藉者じゃ!皆の者、武器を取って戦うのじゃ!」
比較的平和な時代じゃったとはいえ、そこは一国の主の住む城である。戦場で武勲を上げた手練が何人も住んでおった。
そうして、手に手に刀や槍や弓矢を持って、オニ太郎へと向ってきたのじゃった。
城の巨大な門は開かれ、中からウジャウジャと武士の群れが現われて、オニ太郎へと襲ってくる。
「なんじゃ、コイツは!?たった1人で城に攻め込んでくるなんざ、まともな頭の人間がすることじゃあない!」
「狂人じゃ!狂人じゃ!頭のトチ狂った狂人がやって来たのじゃ!」
「ええい!なんでもええ!殿様に刃向かう者は、たとえ誰であろうとも許すわけにはいかぬ!斬れ!斬ってしまえ!」
城の中から現われた武士たちは、口々にそのように叫んでは、オニ太郎へとかかってくる。
ある者は遠くから矢を放ち、ある者は中距離から槍で突き、またある者は手にした刀で斬りかかってくる。
いかな強靭な肉体を持ったオニ太郎といえども、これにはひとたまりもない。アッというまに全身が傷だらけになってしもうた。
それでも、オニ太郎は前進をやめんかった。前へ!前へ!と進み続けたのじゃ。
「嫁を…サヤを返せ!」と叫びながら。
じゃが、そんな反抗も、ついに限界を迎えた。
さしものオニ太郎であろうとも、多勢に無勢。しかも、相手は日頃から鍛錬を重ねた武士たちである。そこら辺の素人とはわけが違う。1人1人が戦闘のプロフェッショナル。
最後には、とっつかまって、縄でグルグル巻きに縛り上げられてしもうた。
「ようやく観念したか!この野郎が!」
「まったく手こずらせおって…」
「それにしても、なんという奴じゃ。ドデカイ図体をしておる。それに、アレだけ刀で斬られ、矢を受けたというのに、まだ生きておるとは。恐ろしい奴じゃ」
「まるでオニのような奴じゃのう」
「そうじゃ!オニじゃ!コイツはオニじゃ!」
武士どもは、口々にそのような言葉を発した。
そうして、身動きのできなくなったオニ太郎は、そのまま殿様の前に突き出されてしもうたのじゃった。
*
殿様の前に突き出されたオニ太郎。
さっそく、このように言い渡される。
「なんじゃ、この気味の悪い者は」
「殿、狼藉者にございます。愚かにもたった1人で、この城へと攻め込んで参ったのであります。『嫁を返せ』などと申しておりますが。いかがなさいましょう?」
「ええい!知らん!知らん!余は、このような者は知らぬ!さっさと処刑してしまえ!」
「はっ!おおせのままに!」
こうして、オニ太郎は、あわれその一生を終えることとなる。
全身を縄でがんじがらめに縛られたまま、近くの谷へと引きずられていくと、崖の上からポイ~ッと投げ捨てられてしまったのじゃった。