青年となったオニ太郎
オニ太郎は、じさまに育てられ、村のもんにやさしゅうしてもらって、スクスクと成長していった。もうその体は少年のもんではなく、立派な青年となっておった。
山の中を隅から隅まで歩き尽くし、川やら沼やらで泳いで、泳ぐのも上手うなっていった。
もちろん、畑仕事も欠かさんかった。畑仕事だけじゃねえ。村のもんに頼まれれば、なんでも力を貸した。
「オ~イ、オニ太郎や!山に木を切りに行くけぇ、ちょいと力を貸せや!」と言われりゃあ、すぐに返事をして飛んでった。
「ホ~イ!わしゃあここじゃ!すぐに助けに行っちゃるわ!」
そうして、人の何倍も働くのじゃ。なにしろ、“オニの子”と呼ばれたオニ太郎じゃ。それはそれは立派な体格をしておる。背丈は2メートルを超え、その筋肉は鋼のごとし。まるでプロレスラーじゃ。
ぶっとい丸太を1人で平気で運びおる。力だけでも普通のもんの何倍もあるじゃろう。その上、体力も持久力も抜群じゃ!激しい運動をしても息切れ1つせん。長い道を使いに頼まれても、平気で往復してくる。もしも、現代でマラソンランナーにでもなりゃあ、世界記録に迫るええ記録が出せたじゃろう。
そんなじゃったから、暮らしには困らんかった。
特別金持ちというわけにゃあいかんかったが、それでもじさまと自分の分の食いぶちくらいは余裕でかせいできた。
オニ太郎は、体格に見合って、それはそれはよう飯を食う奴じゃったが、それでも食い物に困ったことなど1度もない。飢饉の時でさえ、遠くの村に働きに出かけて、どうにか食料をもらってきた。なにしろ、人の何倍もよう働くのじゃ。仕事に困ることなんぞあるはずがなかった。
*
そんなある日のコトじゃ。
オニ太郎が、いつものように畑でクワをふるっておると、遠くからじさまの声が聞こえてくる。
「オニ太郎や~い!」
その声を聞いて、オニ太郎が答える。
「ホ~~~イ!」
ところが、じさまは耳が遠くて、オニ太郎の声が聞こえないらしい。
またもや、じさまの声が聞こえてくる。
「オニ太郎や~い!」
オニ太郎は、先ほどよりもさらに大きな声で答える。
「ホホホ~~~イ!」
それでも、じさまの耳には届かない。
さらに、じさまの声が辺りに響き渡る。
「オニ太郎や~い!一体、どこへ行ったんじゃ~?お前に頼みたいコトがあるんじゃ~!」
それで、オニ太郎はあらん限りの大声を出して返事をした。
「ホホホのホ~~~~~イ!ここじゃ!ここじゃ!じさま、オニ太郎はここにおるぞ~~~い!」
ようやく、じさまの耳にもオニ太郎の声が届いた。
「なんじゃ、オニ太郎。こんな所におったんか。おるなら、サッサと返事をせんかい」
あんなに何度も大声を張ったのに、じさまときたら、よっぽどもうろくしとったんじゃろう。そろそろ自分の死期が近いことも知っとったんかもしれん。
じゃが、オニ太郎はそんなコトは気にせんかった。
ただ、こう答えただけじゃ。
「じさま。なんぞ、用かい?」
「そうじゃ、そうじゃ。オニ太郎よ。お前さん、見合いをせんか?」
「見合い?見合いとはなんぞや?」
「見合いっちゅうのは、お前さんの結婚相手を見つけることよ」
「結婚!?わしゃ、まだそんなんには早いわ。じさまの面倒も見にゃいけんことじゃし」
「そんなコトは気にせんでええ!オニ太郎。お前さんには、お前さんの人生があるんじゃから」
「ほうか…他でもないじさまのすすめじゃしな。よっしゃ!わしゃあ、1つその見合いとやらをやってみるわ!」
「そうじゃ、それでええ」と、じさまもホクホク顔で答えた。
こうして、オニ太郎は見合いをすることになった。
オニ太郎も、もうそういう年齢になっておったのじゃ。現代に比べれば、結婚もまだ早かった時代とはいえ、立派に青年と呼べる年齢に達しておった。
それに、何ごとも早いにことしたことはねぇ。