龍宮城に別れを告げる
ある日、オニ太郎はこう言った。
「龍王様、わしゃぁ、地上に戻りたいんじゃが。もっともっと世界を見て回りたいんじゃ。そんで、わしより強いもんと戦いてぇんじゃ」
それを聞いて、龍王様はハ~ッと1つ大きなため息をついてからゆっくりと答えた。
「いつかそう言うと思うておった。ついに、その日が来てしもうたか…」
龍王様は、悲しそうにそのお顔を左右に振ると、こう続けた。
「オニ太郎よ、お前のコトはまるで息子のように大事にしたつもりじゃ。いずれは、わしの後を継いでくれれば…と、そんな風にさえ考えたものじゃ。どうじゃ、その気はないか?」
オニ太郎は、それに対してハッキリとこう断言した。
「わしゃあ、もっと強うなりたいんじゃ。もっともっと強いもんと戦って、自分の腕を磨いてみたいんじゃ!」
その言葉を聞いて、龍王様は諦めた。
「そうか。やはり、そうか。どうやら、決心は固そうじゃ。よっし!よいじゃろう。では、カメの奴に地上まで送らせよう」
「ハッ!ありがとうございます。このご恩は一生忘れませぬ」
オニ太郎が珍しく礼を言った。
「そうじゃ、地上に戻るにあたって、何か武器を取らせよう。好きな物を持ってゆくがよい」
龍王様にそう言われて、オニ太郎はパッと目についたもんを手に取った。それは、大きな貝の殻でできた棍棒じゃった。
「これがええ」
「そんな物でいいのか?他にも、伝説の斧やら、切れ味のよい名刀やらいろいろあるぞ」
「はい。こんなもんがええんです」
そう答えたオニ太郎の手に、大きな貝殻でできた棍棒はピッタリと握られとった。大きさの割には軽く、丈夫じゃった。まるで、最初からそこにあったかのように、実にシックリときた。
それから龍王様は、思い出したようにこうつけ加えた。
「そうじゃ。もし、地上で我が娘乙姫に出会うようなことがあれば、こう伝えてくれ。『父は、いつでもお前のコトを思うておる。辛くなったら、いつでも帰ってくるがよい』と。浦島という若者についていったはずじゃ。いや、今はもう若者ではないか。年老いた老人の姿をしておるじゃろう」
「わかり申した。必ずお伝えしましょう」
そう答えると、オニ太郎は意気揚々と龍宮城を出ていった。広い世界へと出て、まだ見ぬ強敵と戦うために。期待に胸をふくらませワクワクとしておった。
そうして、来た時とおんなじように大きなカメの背中に乗せられて、海の上へと運ばれていったのじゃ。




