桃太郎vsオニ太郎
オニ太郎は吠えた。
仲間を殺され、怒り狂った。
「またか!またなのか!どこへ行っても、こうじゃ!わしの一生は呪われとるんか!」
そう叫ぶと、他の者たちの制止を振り切って、城の外へと飛び出していこうとした。じゃが、その必要はなかった。桃太郎と3匹の獣は、悠々と城壁を越えて敷地内へと入ってきたのじゃから。
キジは、何もありゃせんかのように軽々と城壁の上空を飛んできた。
サルは、城の壁を登ると、中から門を開けた。そうして、イヌと桃太郎を中へと引き入れた。もちろん、そんなコトせんでも、桃太郎やイヌにとって、この程度の壁を越えることなんぞ、どうということもなかったじゃろうが。
オニ太郎の配下のもんらは、敷地内に侵入した1人と3匹を止めようと必死になったが、まるで相手にはならん。軽くひとひねりされ、次から次へと倒されてゆく。
そうして、ついにオニ太郎が飛び出してゆく。
「うおおおおおおおおおお!!!!!許さんぞ!貴様ら、絶対に許さんぞ!」
雄叫びを上げながら拳を振るうオニ太郎。
じゃが、相手はそりゃあ強かった。思った以上の能力を持つ敵に、オニ太郎は苦戦した。
イヌの牙は、オニ太郎の肉をえぐる。
サルはトリッキーな動きで翻弄し、その爪でオニ太郎の皮膚を裂く。
キジの動きはあまりにも速く、オニ太郎でさえその動きを目でとらえるのに精一杯じゃった。
じゃが、中でも特に強かったのは桃太郎じゃ。どうにか、キジの動きを読みカウンターパンチを喰らわせ、イヌを蹴り飛ばし、サルをとっつかまえて羽交締めにしたオニ太郎じゃったが、桃太郎だけはどうしようもなかった。
「なんじゃ、こいつは!?こんなに強い奴に出会うたのは、生まれて初めてじゃ!」
そう!
桃太郎は素で強かった。どの能力が突出して凄いというわけじゃあねぇ。全てが高レベル。パワーも、動きも、技のキレも、全てがオニ太郎に勝っておった。
素手で戦っておったオニ太郎が、ついに鉄の棍棒を取り出してくる。トゲトゲがいくつもついたデッケエ鉄の塊じゃ。
そんなもんをブンブン振り回して向ってゆく。一撃でも当たりゃあ、骨は砕け散り、脳ミソは飛び散るじゃろう。
じゃが、桃太郎はその攻撃を平然と避けた。どんな強力な攻撃も、当たらなければどうというコトもねぇ。
「どうした?どうした?そんもんか?噂に聞いた鬼とやらも、大したコトはねぇな。そんじゃ、今度はこっちから行くぞ」
そう言うと、桃太郎は手にした刀を振るってくる。桃太郎の育ての親、じさまとばさまから受け継いだ日本一の名刀じゃ!
けんど、実はその刀は名刀でもなんでもなく、ただのなまくら刀じゃった。それを桃太郎が己の気の力で、切れ味の鋭く、威力も高い名刀へと強化しておったんじゃが、そんなコトをオニ太郎が知るはずもねぇ。
それに、桃太郎にとってもその刀は、大切な刀じゃった。じさまとばさまが与えてくれた、たった1本しかねぇ大切な刀じゃ。それは何にも勝る宝刀であった。
そんな思いを乗せて刀を振るう桃太郎。
大切な者を守ろうとする思い自体はオニ太郎も一緒じゃったが、今のオニ太郎では駄目じゃった。完全に怒りに身をまかせ、自分を失っておった。そのような状態で勝てるはずがねぇ。
対して、桃太郎の方は冷静沈着。一見すると、感情的でお調子者のようにも見えたじゃろうが、それすら桃太郎の作戦じゃった。
なんでもねぇボロ船で近づき、釣り人のフリをして、いきなり先制攻撃を食らわす。
その後は、相手をののしったり挑発したりして、冷静さを失わせる。その一方で自分は冷静に戦い、着実に敵にダメージを与えてゆく。
そういうコトを全て頭の中で計算して行える。そのような賢さと度胸を持った若者じゃったのじゃ、この桃太郎という人間は。
最初から勝負になんぞ、なっちゃおらんかったんじゃ。
オニ太郎が負けることは決まっておった。少なくとも、今のオニ太郎じゃぁ…




