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日本一の男と3匹の獣

 それは、ある晴れた日のコトじゃった。

 瀬戸内の海はその日もおだやかで、空にはおてんとさまがサンサンと輝いておった。

 オニ太郎ら島の住民は、いつもと変わらん平和な時間を過ごしておったのじゃ。


 そこへ1艘(いっそう)の舟がやって来る。

 鬼ヶ島(おにがしま)の連中が乗船する軍艦とは違う、貧相ひんそうな舟じゃ。釣り人が沖に出て釣りをするのにするようなチッポケな舟じゃった。

 島民たちは、徐々に近づいてくる舟を目にし、口々にこんな風につぶやいた。

「なんじゃ、ありゃあ?」

「ようあんなこまい舟で、こがいなとこまで来れたもんじゃ」

「まさか、敵じゃあるまいて」

 じゃが、それが敵じゃった。

 真の強者きょうじゃというものは、見た目やら道具やらにはこだわらん。おのれの力のみで、世界を切り開いてゆく。

 そういう意味では、オニ太郎によう似とった。


 チッポケな舟に乗っておったのは、1人の若い男じゃった。まだ、20歳(はたち)かそこらじゃろう。

 それと、3匹のけもの。イヌと、サルと、それにキジじゃ。

 鬼ヶ島のもんらは、油断しとった。じゃから、「それが敵じゃ」と気づいた時には、もう遅かった。その時には、すでに敵の侵入を許しておったのじゃ。

 じゃが、そうでのうても、結果は一緒じゃったろう。1人の男と3匹の獣は、それほどの手練てだれじゃったのじゃ。


 舟が、もうすぐ岸に着く…と思った瞬間じゃった。

 視界からキジの姿が消える。

 一瞬の内に、はるか上空まで上昇しておった。そこから「キエエエエエエエエ」という鳴き声と共に、一揆に急降下してくる!

「アッ!」と思った時には、もうやられとった。

 舟の上には、すでに残りの2匹の獣と男の姿もなく、いつの間にやら岸の上をかけておった。

 皆が上空を見上げておる内に、岸に飛び移っておったのじゃ。


 シャッ!!


 空気をる音がしたかと思うたら、もう斬られとった。それほどまでに男の刀さばきは素速かった。

 男だけじゃねえ。イヌのきばにかかったもんも、サルのつめにやられたもんも、みなその動きについていけんかった。防御態勢を取っても、その隙間すきまをかいくぐって、的確に急所を突いてくるのじゃ。

 その中でも特に速かったのはキジじゃった。

「動いた!」と思った瞬間には、もう攻撃が到達しておる。守る暇も、ける暇もありゃせんかった。


 バタバタと人が倒れてゆく。一方的な惨殺ざんさつじゃった。

 油断しとったということもあったじゃろう。武装しとらんかったということもあったじゃろう。じゃが、いずれにしろ戦闘能力の差は歴然じゃった。

 その様子を遠くから眺めておったもんらは、あわてて城壁の中へとかけ込んでいった。

 鬼ヶ島は、イザという時のために、高く強固な壁で守られた城を建設しておった。敵が攻めてきた時にゃぁ、この城の中に立てこもって戦うのじゃ。

 じゃが、これまではそんな必要は1度もなかった。そのような状況におちいるコトがなかったのじゃ。それが、今回は違っておった。


 島民は、皆、あわてふためき城の中へと逃げ込んでゆく。そうして、城壁の門を固く閉ざしてしもうた。

 その様子を悠々(ゆうゆう)と眺めながら、こう宣言してくる若い男。

「やあやあ、われこそは日本一にっぽんいちの男、桃太郎なるぞ!この島にオニ太郎というやからがおるじゃろう。オニ太郎よ!素直に姿を現すがよい。正々堂々と尋常に勝負しろ!そうすれば、他の者の命は助けてやろう」

 そう!

 この若い男こそが、かの有名な桃太郎じゃった。桃から生まれた桃太郎。3匹のお供を連れ、この鬼ヶ島へと攻め込んで来たのじゃ。

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