鬼ヶ島
オニ太郎の率いる軍団は、瀬戸内の島“鬼ヶ島”に拠点を移した。
周りを海に囲まれとったけぇ、そう簡単に攻め込まれたりはせん。その代わりに、自分たちから攻めに行くにも不便じゃった。
そこで、オニ太郎は船を造らせる。船といっても、小型のボートのようなモノじゃありゃあせん。人が何十人も乗れるようなデッケエ船じゃ。まさに、軍艦よ。
そりゃあ、現代の軍艦に比べりゃあチッポケなもんじゃった。けんど、当時としては最新鋭の技術を導入した恐ろしい船よ。そういうのを何隻も建造して、本土に攻め入っては、お宝をかっぱらってきたもんじゃ。
おかげで、オニ太郎の配下のもんの造船技術はメキメキと向上した。仮に失業したとして、いくらでも雇い主はおったろう。そのくらい卓越した技術じゃった。殿様やら商人やらは、そんなオニ太郎らの持つ技術を垂涎の思いで見とおったもんよ。
「どうにかして、あの造船技術を盗めんもんかのう?」
「ほうじゃ、大金を積んで引き抜いちゃろう」
「そうじゃ、そうじゃ、それがええ!いくら高度な技術を持っておろうとも、金の力には勝てんはずじゃ!いくらでもええ!金を積んで奴らを雇え!」
金を持っとるもんらは、そんな風に話しておったが、無駄じゃった。
なにしろ、オニ太郎は充分な報酬を技術者らに支払っとった。それだけじゃねぇ。オニ太郎のもとで働くのが楽しかったんじゃ。
どんな仕事も、どんな高級取りも、仕事の充実感には勝てはせん。いかに大金を積まれようとも、最高の環境の整った職場から抜けようと思う理由にはなりゃせんかった。それほど、オニ太郎んとこは居心地がよかったんじゃ。
“自分たちで世界を変えとる”という熱い思いと満足感があった。
オニ太郎は、海賊や山賊まがいのことをしながらも、家族思いじゃった。過去の辛い経験からか、自分では家族を作ろうとはせんかった。が、他の者たちには嫁を取り、子供を作ることを推奨した。
そういう意味では、みんなが家族みたいなもんじゃった。
「腹は空かせとらんか?」
「病気はしとらんか?」
「不便はしとらんか?」
「何か困ったコトがありゃあ、遠慮なく相談せぇ」
いつもそんな風に皆に言って回っとった。
おかげで人望は厚かった。だれが、このようなもんを裏切って、敵方に寝返ろうとするじゃろうか?
*
そんな風にして、鬼ヶ島では平和な時間が過ぎていったのじゃ。
時折、思い出したかのように敵が攻めては来るが、そんなもんは皆、蹴散らした。
鬼ヶ島では、独特の時間が流れてゆき、独自の文化が形成されていった。皆、そこでの生活を楽しんでおった。
そりゃあ、あこぎな手段で大金を儲けたもんらに鉄槌をくだそうと、船やら屋敷やらに攻め込みに行くコトはある。じゃが、それ以外の時間はノンビリとしたもんじゃった。
漁をしたり、野菜を作ったりして、和気あいあいとして過ごしておった。
海で捕れた貝やら魚やらエビやらを焼いて、ようバーベキューをしたもんじゃ。もちろん、当時は“バーベキュー”なんて言葉はありゃせんかった。“ただ焼いて喰う”それだけの行為じゃ。現代風に言えば、そういうコトになる。
オニ太郎は幸せじゃった。
皆も幸せじゃった。
誰もが、「ああ~、この時間がいつまでも続けばええ。このまま暮らして、寿命を迎える。それが最高の人生じゃ」
そんな風に思っておった。
じゃが、世の中、そう上手くはいきゃぁせん。
幸せな日々にも、いつか終わりは来る。




