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世の荒くれどもがやって来て

 オニ太郎の開いた「オニの道場」には、今日も人が大勢やって来る。

 そん中には、素性すじょうの知れんもんや、素行そこうの悪いもんもいっぱいおった。けんど、オニ太郎は、そんなコトは気にせんかった。誰でも彼でも気軽に受け入れた。

 そんなじゃったから、最初は気性きしょうの荒かったもんらも、オニ太郎の影響を受けて多少はおとなしゅうなった。それでも、元が元じゃから、そう大きくは変わらん。


「町のもんに迷惑かけんなよ。悪さをしたら破門じゃぞ」と、オニ太郎は弟子たちに普段からきつう言うとった。じゃから、オニの道場に通うあらくれどもは、なるべく悪いことはせんようにしとったが、それでも酔った勢いじゃとかオニ太郎の見とらん所で、町のもんらに悪事を働くこともあった。

 それでも、やさしいオニ太郎のことじゃ。そんな時、すぐに破門にしたりはせず、「しゃーないな。ちゃんと、迷惑をかけたもんらに謝ってこい」と言うて許してやるのじゃった。


 オニ太郎は、入門を希望してきた荒くれどもと一緒に飯を喰い、酒を飲みかわした。

 そうする内に、段々とオニ太郎の方も、弟子たちの気持ちを理解できるようになってきた。みな、根っからの悪者じゃぁなかった。

「誰しも、最初から悪いもんなんかおりゃぁせん。生まれながらに悪人じゃったわけじゃぁない。皆、なんらかの事情があって、しょうがなくこんな風になってしもうたんじゃ」

 そういう風に考えるようになった。

 オニ太郎自身もそうじゃった。これまで一生懸命マジメに生きてきたが、「見た目が悪い」とか「他の悪い人間に痛い目にあわされた」とか「運が悪い」とかいった理由で、何度も酷い目におうてきた。それで人間不信にもおちいったし、いつ性根しょうねが曲がってもおかしゅうなかった。

 けんど、オニ太郎自身はそうはならんかった。相手の方が悪い場合には容赦せんこともある。じゃが、根本的にはやさしい人間のままじゃった。

 そんなオニ太郎じゃったから、周りのもんらからも好かれる。そのやさしさが徐々に浸透もしてゆく。そうやって、ますます人望は厚くなってゆくのじゃった。


         *


 そんなある日のコトじゃ。

 悪いことに、その年は天候が荒れ、おてんとさまが顔を出さん日が何日も続いた。おかげで、作物はあまとれんで、世は飢饉ききんとなった。

 そんな中でも殿様やら商人やらの金持ちは、くらん中に山のように喰いもんを積んでおった。喰いもんだけじゃのうて、金銀財宝をかき集めておるもんまでおった。

「今年は作物のできがわるかったけえ、いつも以上に年貢を上げさせてもらう」

 そう言うて、農民がお上におさめる米やら麦やらの量は、いつもの年よりも増えてしもうた。

 これには、一般市民からも不平がもれる。なにしろ、死活問題じゃ。喰いもんいうのは、生きるか死ぬかに直接関わる。普段はおとなしゅうしとるもんらまで、「一揆いっきを起こそう!」などと物騒なことを考え始めた。


 オニ太郎のもとに集まったもんらも同じじゃった。

「なんでわしらが、こがぁに苦労せにゃいかんのじゃ!」

「ほうじゃ!ほうじゃ!聞いた話によると、商人の家には喰いもんが山と積んであるそうじゃ。それも、わしらが懸命に働いて育てた米やら麦やらじゃ」

「こりゃ、おかしいで!ちったぁ、わしらにわけてくれりゃぁええのに!」

「おっしゃ!こうなったら、1つ金持ちどもんとこ行って、喰いもんをもらってこようや!」

 弟子たちは、口々にそんな言葉を吐き出す。


 さすがのオニ太郎も、その勢いを止めることはできんかった。

 ついに、荒くれどもは、金持ちの蔵を襲い始めたのじゃ。

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