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平太とオニ太郎

 平太へいたとオニ太郎は、よいコンビじゃった。

 2人でタッグを組んで、世の強者つわものどもを次から次へと討ち倒していった。平太が強いもんを探してきては、オニ太郎が戦う。もちろん、連戦連勝じゃった。とにかくオニ太郎は滅法めっぽう強かったのじゃ。

 そんなじゃったから、2人の名はすぐに世間に広がっていった。特に、オニ太郎の名は「天下に知れた暴れ者」として近隣きんりんでは知らんもんはおらんようになっておった。


「平太よ、平太。もっと強いもんはおらんのか?わしを超えるような、わしの心を震え上がらせるような力を持ったやからはおらんもんか」

 オニ太郎は、いつも平太に向って、そうたずねておった。

「そうは言われても、オニ太郎様。オニ太郎様の名は、この辺りじゃみんな知っております。もちろん、その力の強さも。そうして、もう誰もかかってこんようになってきました」

「ほうか、ほうか。それじゃあ、どうしようもないな…」

「オニ太郎様、この辺でちょっと考え方を変えてみてはいかがですか?」

「考え方を変える?どのようにじゃ?」

「そうですね。これまで、オニ太郎様は人を倒すことばかりに力をそそいで参りました。これからは、その力を“人を育てること”に使ってみてはいかがですか?」

「人を育てる…とな?」

「そうです。もしかしたら、オニ太郎様が育てた者の中から、オニ太郎様をもしのぐ力を持つ者が現われるやもしれませぬ。それこそが、オニ太郎様の望みではありませぬか?」


 オニ太郎は、平太の言葉を聞いて少しの間、思案した。

「人を育て、その者と戦う。そういうのもありかもしれんなぁ」と、ボンヤリと考えた。

 そうして、意を決してこう答えた。

「おっしゃ!やるぞ、平太!わしゃ、やってみせる!強いもんがおらんのなら、その強いもんをわしの力で育てちゃる!」

「そうです!その意気です!オニ太郎様!」

 こうして、オニ太郎は平太のすすめで、町の片隅かたすみに道場の看板をかかげたのじゃった。


         *


 オニ太郎の始めた道場は、上々の評判じゃった。なにしろ、アレだけ野良のら試合で知名度を上げたオニ太郎じゃ。「弟子入りしたい!」というもんは、後から後からやってくる。

 「オニの道場」という看板を道場の門にかかげると、すぐに最初の弟子入り希望者がやって来た。

 オニ太郎は字が書けんかった。平太も字が書けんかった。じゃから、看板の題字は近所の寺の坊主にいくらかの金を握らせて書いてもらった。それが、たいそう立派な字じゃった。ミミズがくねるような文字ではあったが、勢いがあって見るもんに迫力を感じさせた。まさに、オニの気迫じゃ。確実に、払った金額以上の価値はあった。

 その後も、1人、2人…と、弟子入り希望者はやって来る。アッという間に、道場は人でいっぱいになり、手ぜまになっていったのじゃ。


 この頃になると、オニ太郎も酒の味というもんを覚える。

 グビグビと一息に酒を飲み、ガツガツと豪快に喰い、ねむうなるとそのまま道場の床にゴロリと寝転がっては、そのままグゥグゥと寝込んでしまうのじゃった。

 オニ太郎は、ほんまによう喰い、よう寝る奴じゃった。その上、力も強く、酒まで飲むようになってしもうた。まさに“豪傑”という言葉がピッタリじゃ。

 ただし、頭の方はあまり回らん。人にもだまされやすい。じゃが、その辺は平太がよう立ち回ってくれた。何か困ったコトがあれば、「平太!平太!こりゃ、どうすりゃええんじゃ?」とすぐに平太を頼った。

 平太の方も嫌な顔1つせず、「へいへい。ああ~、オニ太郎様。こりゃ、たいしたコトはありません。オイラにまかしてくだせぇ。すぐに、どうにかします」と、大抵の問題は即座に解決してくれた。


 そんなじゃったから、2人のコンビはますます上手うまくいき、事業は拡大していった。

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