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オニ太郎、修練の日々

 オニ太郎はみずからをきたえた。

 次から次へと突っかかってくる強者つわものどもを相手にし、自分からも強き者を求めて旅を続けていった。人里離れた土地を歩き、誰にも会わんような時も、日々の鍛錬たんれんは欠かさんかった。

 ほとんど1日の休みもなく、気をゆるめることもなく、ひたすらに、ただひたすらに力を求め続けたのじゃった。


 そんなじゃったから、一般人との力の差はますます開いてゆく。

 そんなオニ太郎を「雇いたい!」と思う者もおったが、オニ太郎自身がそれを望まんかった。望めば、用心棒やらなんやらで仕事はいくらでもあった。

 けんど、オニ太郎がその気にならんのじゃから、どうしようもねぇ。


 相変わらずオニ太郎は生来せいらいのやさしさは持ち合わせておったが、それでも、これまでの経験から人間不信におちいっとったんじゃ。根本的に人を信用できんようになっとった。


 そもそもオニ太郎は、あまり金を必要とせんかった。そんなもんのうても生きてゆけた。

 眠くなりゃあ、その辺の軒下のきしたでも、木の上でも、どこででも寝れた。腹が減りゃあ、山や森のけものを殺し、川や海で魚やら貝やらをってらった。

 まだいくらでも自然の恵みがあった時代じゃ。今みたいに、日本中どこへ行ってもアスファルトの道路やら建物ばかりの時代じゃあねぇ。獣も魚も、豊富におった。捕って喰ったからといって、誰に文句を言われるもんでもねぇ。


 オニ太郎は自由を謳歌おうかしておった。

 常にひとりぼっちじゃったが、そんなんは気にならんかった。メキメキと上がってゆく能力に喜びを感じ、自らの力に酔いしれ、それだけでもう充分に幸せじゃった。


         *


 そんなある日のコトじゃ。

 1人のコソ泥と出会でおうたのは。そやつの名は、平太へいた。にぎやかな往来おうらいで他人の財布さいふをスッたり、留守の家に入っては金やら物やらを盗んで生きとるケチな野郎じゃった。

 なぜだか、そんなコソ泥の平太にオニ太郎は気に入られてしもうた。平太はケチな野郎じゃったが、人を見る目だけは本物じゃったのじゃ。一発でオニ太郎の資質を見抜いた。

「コイツは金になるぞ。いいや、それどころじゃねぇ。大物おおものになりおる!オイラの目には狂いはねぇ!」

 平太は、そう確信した。そうして、オニ太郎に近づいていったんじゃ。


 もちろん、オニ太郎の方は、そんな平太にゃ興味はねぇ。オニ太郎が興味を持っとったんは、強いもんだけじゃった。どこをどう見たって、ヒョロッとして、背は低く、弱そうな奴じゃ。オニ太郎が歯牙しがにもかけんかったのは、当然のコトじゃ。

 ところが、平太の方は、そんなもんは気にせんかった。

「オニ太郎様!オニ太郎様!」と、ヘコヘコとし、いつも後をついて回った。

 ここでオニ太郎の生来のやさしさが出る。こんな風に下手したてに出る相手を無下むげにできん性格なのじゃ。

 最後には「しゃーないな。好きにせい」とあきらめて、平太がついて回るのを許してしもうた。

 じゃが、オニ太郎の方もまんざらでものうなっとった。つきうてみると、平太も意外とええ奴じゃった。人様の物をくすねるクセだけは相変わらず直らんかったが、大きな悪さをするような奴じゃあなかった。

 それすら、生まれながらのもんじゃぁねぇ。平太を囲んでおった環境がそうさせたのじゃ。親もなし、貧しい暮らし、周りの人間たちからも冷たくされる。これじゃあ、平太がこんな風になってしもうたのもうなずける。

 オニ太郎は、そういうもんにやさしゅうする。

「オイ!平太、飯は喰うたか?飯は?」

「ホレ、これをやる。これを喰え」

「平太!あんまり人様に迷惑をかけんなや。どうしても困ったら、わしに言え。金ならどうにかかせいできちゃる」

 そんな風に声をかけて、何かと面倒を見るのじゃった。


 そんなじゃったから、平太の方もますますオニ太郎になついてゆく。そうして、オニ太郎のために強いもんを探してきては紹介するようになっていったのじゃ。

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