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決死のユーナー



 ケルラインは漆黒の闇の中に目を凝らして遠くを見詰めていた


 何かの息遣いを感じる。闇は濃く、深く、自身の身体すら見えない。目を開けていようが閉じていようが、この闇の中では同じ事だ

 しかし感じる。何かが居る


 闇と同化するように息を殺し、目を慣れさせていると、いつしか闇の中に赤い光が浮かび上がった。ゆらゆらと揺れていて輪郭は定かではない。海中に揺れるクラゲのような光は時折その中心に黒い物を混じらせ、浮かんでは消え、消えては浮かぶ


 目だ。根拠は無いがケルラインは思った。細くなって消え、浮かぶ時は太くなる。黒い何かを混じらせた炎の瞳だ


 目だと感じた瞬間からケルラインの背には悪寒が走っていた。奇妙なほど汗を掻き、急速に口内が乾く

 炎の目はぷっくりと膨らんでから弧を描くように変形した


 笑っている。闇の中で一つきり、目だけで


 駄目だ。ケルラインは訳も解らず目に向かって走った。頻繁に躓くのは足元が覚束ない為か、それとも全身の震えの為か

 閉じろ。目を閉じろ


 開かせてはならない。赤い光に向かって手を伸ばすケルライン



――



 「起きろ、旗手ケルライン」


 目を開いた。ぼんやりとした視界の中に、こちらを覗き込むインラ・ヴォア

 ケルラインは酷く汗を掻いている事に気付く。口腔は夢の中と同様カラカラに乾いている


 知らず荒くなっていた呼吸を抑え、無言のまま身を起こす

 頭を振ると意識は速やかに覚醒した。王城の一室であるようだった


 「どれ程寝ていた」

 「丸一日」

 「……失態だ」

 「いや、私がそう計らった」


 計らった? 何かの術か?


 思わず眉根を寄せるケルライン。が、詰問する気にはなれなかった。インラ・ヴォアがケルラインの……より正確に言えば、竜狩りの不利になるような事をする筈がなかった


 人の気配を感じたケルラインは話を置いておき、素早く周囲を見回す。ベッドの足の方で、ケルラインの傍に控えていたらしい宮廷医師の女が口をパクパクさせている


 「死の世界から戻り、最低限の休息のみで竜と戦った。お前は疲れ果てていた」

 「彼女の術を解け」

 「解った。……騒がれると面倒だったのでな」


 ケルラインは腕に巻かれた包帯や、尻に張り付けられた火傷の薬草を剥がしながら立ち上がる

 手早く肌着を身に着ける間に、インラ・ヴォアが医師に脅しをかけていた


 「魔法を消すが騒ぐなよ。私は竜狩り。敵ではない」


 口を押えられながら医師は何度も頷く。最低限の身形を整えて、ケルラインはインラ・ヴォアと向かい合う


 「ケルライン、あの少年王の代わりにまずは褒め置こう。よく力を尽くした。竜狩り騎士に相応しい働きだった」

 「インラ・ヴォア、貴公の助け無くば到底勝ちえぬ戦いだった」

 「……ふ、面映い。……では次なる戦いに備えよう。竜は待たないからな」


 インラ・ヴォアは微笑しながら一枚の巻物を差し出してくる

 確りと整形され、黒く塗られた羊皮紙だ。随分と古い形式の物であった

 ケルラインは言われるままにそれを受け取る。持ち手に刻まれた小さな紋章には見覚えがある


 「主神の聖印か。中身は?」

 「かつて聖ロロワナ戦士団は、主神の名の元に風精ビオと同盟を結んだ。これにはその時に使用した魔方陣が描かれている」

 「それならば知っている。竜狩り部隊の弓手は皆、手甲の内側にその魔方陣を刻んでいた」

 「お前達を嘲る心算は全くないが、その行為は無駄だ。風精ビオとの繋がりは絶え果てた。そして“あの”竜と戦う以上、ビオの助力は不可欠だ」


 ケルラインは決して残念だとは思わなかった。ケルライン自身、風精ビオの魔方陣は御守程度にしか考えていなかった

 寧ろ竜狩り騎士団が過去、実際に風精ビオの助力を得ていたという方がずっと驚きだ


 「どうすれば良い」


 問い掛けは簡潔だった。余分な事は聞かず、必要な事だけケルラインは得ようとした


 「北だ。サジバルの谷を越えた先、アッズワースの砦よりも尚向こう、風精ビオの祭壇はある。詳細な位置はレイヒノムの神官ならば知っていよう」


 ケルラインは思考を巡らせる。アッズワースと言えばクラウグス王国最北端の砦だ

 其処より北は魔物の地だ。北の大地から溢れる魔物達を南下させない為にアッズワースはある


 「その祭壇に羊皮紙を捧げろ。ビオは応えるだろう」

 「それだけか? 他には?」

 「ビオは人間が好きだ。特にケルライン、お前のような不器用な人間が」


 ケルラインはどういう顔をすれば良いのか解らなかった



 伝える事は全て伝えた、とインラ・ヴォアは頷く

 ケルラインは疑問を口に出す。金の目の女傑は時に言葉少なめで、問われねばそれでよしとさっさと事を進めてしまいがちだった


 「インラ・ヴォア、貴公は? その口振りでは同行しないようだが」

 「私は南に向かう。カラド黒鉄の斧槍も悪くはないが、お前にはより強力な武器が必要だ」

 「……そうか、解った。世話を掛ける」

 「水臭い。馬鹿な事を」


 ケルラインの言葉をインラ・ヴォアは鼻で笑って受け流した

 そして拳を縦にして突き出してくる。ケルラインはハッとして、拳を横に寝かせて突き出した


 縦と横の拳同士がぶつかる。公的な意味のない、騎士の内輪でのみの作法だ。縦の拳の者が目上、先輩騎士で、横の拳の後輩騎士に武運を分け与えると言う意味がある


 「武運を、旗手ケルライン」

 「共に勝利を」

 「では」


 何時ものようにインラ・ヴォアは、瞬きした次の瞬間には既に姿を消していた


 ケルラインは体を緊張に固めて息さえ潜めていた医師に落ち着くよう言い、外套を羽織って外へ出た


 首筋は未だ汗に濡れていた。長く寝ていたようだが、それでも体は気怠いままだ

 あの竜と相対した時から安眠は得られぬ物、と覚悟はあった。その通りになっただけだ


 あの目はきっとまた夢に出る



 長く、辛い戦いになるだろう



――



 クアンティン王への奏上は速やかに成った。今クラウグスは有事であり、竜狩りこそ最重要事項と定められ、竜狩り騎士ケルラインの意思と作戦は全てに優先された


 魔物の地は危険だ。怪物との戦いが予想される。かといって頭数を揃えれば良いと言う訳でもない

 北部アッズワースへと向かうにあたり、ケルラインは当然ながら少数精鋭を意識した。竜の襲来に備える中でみだりに兵を動かす事は有り得なかった


 選ばれたのは五人。軍中から志願、或いは推薦された特に士気の高い者達


 その中には、ケルラインの知己である騎士ユーナーの姿もあった


 城門にて、出発前の顔合わせに現れたユーナーは、右の頬から側頭部に掛けて大きな火傷を負っていた。耳など、特にぐしゃぐしゃになっていた


 「騎士ユーナー……」

 「騎士ケルライン。見ろこれを」


 何の衒いもなく火傷を見せつけながらからから笑うユーナーに、ケルラインも思わず苦笑する


 「名誉の負傷だ」

 「あぁそうだとも。竜の襲撃に際し、俺達の隊こそ最も早く対応したのだ」

 「備えが生きたな。怪我をおしての出撃、心より感謝する」


 掌をぶつけ合う二人


 語らいの時間を持ちたいのは互いに同じだったが、今のクラウグスには余裕が無かった


 ケルラインとユーナーは四名の兵を連れ、直ぐに馬上の人となる

 全員がそれぞれ防寒具、携帯食を備え、予備の馬二頭には野営具を背負わせた

 アッズワース方面は非常に冷える。砦を超えて向こう側となれば、積雪していて不思議でなかった



 風除けの外套をはためかせ、王から特別に差配された駿馬に早駆けさせながらユーナーが言うのは、矢張り賞賛の言葉である


 「活躍は聞いたぞケルライン! 聖群青大樹騎士団の事は未だに残念でならないが、貴公の力になれて光栄だ!」

 「皆、生きている! 比喩でなく、この中に!」


 巧みに手綱を取りながら、胸を叩いて見せるケルライン。ユーナーは大きく頷いた


 「そうか、そうだったな、聞いている! ……あぁ、そうなのだな!」

 「騎士ユーナー?」


 騎士ユーナーが更に馬の足を早め、ケルラインを追い抜く

 ケルラインは静止の声を投げ掛けた。無理に馬を走らせれば潰してしまう


 ユーナーはケルラインや兵達が訝しげな視線を向けるのも構わず、天に向かって吠えた。決意表明だった


 「主神も英霊も、今亡き父祖達も照覧あれぇ! 俺は生きた竜を見たのは初めてだし、風の精霊だって御伽噺だと思っていたが、それでも王命とあらばやるぞ! 任務とあらば!」

 「騎士ユーナー! どうした?!」

 「どんな犠牲を払おうとも! なぁ騎士ケルライン!!」


 ユーナーは癒えぬままの火傷を押えて、ケルラインの名を呼んだ



――



 一行は三日間、冷たい風の中を只管北へと向かった。休息すら碌に取らない強行軍だった

 急ぐ為に時に谷底を超え、時に茂き茨の中を進んだ。狼や一角の猛牛、或いは黒竜騒ぎに便乗して強盗や追剥、火事場泥棒を働く不逞者とも遭遇した


 その中、竜に焼かれた村落を発見した。焦げた家屋と人型の炭がそのまま放置されており、正味全滅の有様だった

 皆、言葉も無かった。話の通じる相手でないのは知っていた

 従属も、降伏もあり得ない。只管に焼かれるだけ



 竜は焼いた。女も子供も容赦しない。如何な歴史ある物でも手慰みに破壊し、如何な聖域でも無分別に冒す


 ケルラインは知っている

 ケルラインだけではない。皆知っている

 人々の健やかな営みは、対価なしには得られない


 伴侶と過ごし子を育む家屋。糧を得るための畑。祖霊を祭る為の霊地

 それらを護るために様々な外敵を打ち払ってきた祖先達が、どれ程の流血を強いられたか


 多くの犠牲の上に成り立ってきた偉大なる祖国の地が、今成す術なく蹂躙されようとしている


 「こうまで……何も残らんか……」


 ユーナーが灰と化した家屋の前に立ち唖然と呟く。位置取りや他と比較して多量の灰を鑑みるに、消し炭になる前は村の役場かゲストハウスであったと思われる


 兵士が一人離れた場所で跪き祈りを捧げた。ユーナーが歯を食いしばる位置からずっと遠く、村外れだ

 墓地であった。竜の尾に薙ぎ払われたのか、墓石は完全に破壊されて四方八方に散らばっている


 ケルラインは兵士に習い、墓所に野花を捧げて祈った。死者達の眠りが安らかであるように


 「……少し早いがここで野営を行う。竜に焼かれた場所は暫く獣が近寄らない。ゆっくり休めるだろう。明日はアッズワースまで休息を取らずに進むぞ」


 ケルラインは宣言して、同時に自らも動き始めた



 野営の準備には然程時間が掛からなかった

 村から少し離れた位置にある林には木材の切り出し所があり、幸いな事に其処は焼かれていなかった。火を起す為の木は容易に集められた

 空腹を満たす為の糧はユーナーと兵二名が確保した。切り出し所を超えた先には山があったが、彼らは其処に分け入ってあろう事か熊を仕留めてきたのである


 古木の革らしき物に超重量の巨体を載せてひいこら言いながら引きずってきたユーナー達を見て、ケルライン驚嘆と呆れを隠せなかった


 夜、満天に輝く星を見上げるユーナーに、熊肉を焼きながらケルラインは小さな声で言った


 「騎士ユーナー、余り兵に無理をさせるなよ」

 「熊の事か? ……うむ、そうだな。俺としてもあんな大物を狙う心算は毛ほども無かったのだが……」


 兵四名は皆歴戦であった。二名はケルラインと同年代。もう半分は三十を過ぎていて、ケルラインよりも年上である。内一人は十四の頃から剣を振っていて、単純な戦いの年季だけで言ってもケルラインより長い

 それに何より、忠実だった。こういった兵のみで王国の軍が組織されているのであれば、如何なる敵にも打ち勝つだろう


 今はケルラインに許された酒を互いに注ぎ合いながら談笑している。しかし焼かれた村の静寂を破る事はしたくないようで、その笑い声は遠慮がちな物だった


 「騎士ユーナー」


 変わらず空を見るユーナー。炎に照らされ影の落ちる横顔に、ケルラインは再度呼び掛ける


 旅中でずっと感じていた。ユーナーの様子はおかしかった

 竜が来たのだ。平然としていられる者など一人としていないだろう。今炎を挟んでケルラインの反対側に居る兵四名とて、酒で不安を押し殺している節がある


 しかしユーナーの振る舞いは、そういった類の物とは違う気がした。彼は視線を下してにっこり笑うと、闊達に話し始める


 「旅は辛い物だ。疲れると考える事が出来なくなって、様々な物が足りないから余裕をなくして、優しさだとか敬虔さだとかを失う」

 「……あぁ、そうだな。身体を清められないのも辛い」

 「そうなんだよなぁ。特に俺は人一倍汗を掻くからな」

 「今は寒く、この辺りは乾燥しているから良いが、以前南の湿原に遠征した時は」

 「最悪だった! 国内とは思えんぐらいだった! ……だが矢張り竜狩り騎士団に及ぶものではない。演習の一つ一つが、古参の精鋭すら根を上げる難関だそうだな」

 「それぐらいやらなくては竜とは戦えん」

 「あぁ、言う通りなのだろう。“奴”を見て俺も実感したよ」


 俺は試されているのだ、と感じた

 ユーナーはぼんやりとそんな事を言った


 黒竜は余りに強大だった。どんな鳥よりも早く飛び、頑強な鱗を見せ付けるように平然と矢を浴び、一方的に熱線を吐き掛けるのだ

 何をどうすれば勝てるのか未だに見当もつかない

 それがユーナーの本音であった


 「強敵と出会った時も人は余裕を失うんだ。普段どんなに勇壮な事を言っていても不安と恐れを隠せず、逃げ腰になる」

 「……ユーナー、貴公でもか?」

 「俺でもだ。……だが俺とて王国騎士だ。竜が怖いのではないんだ」


 去勢を張っているのではなかった。元来ユーナーは豪放で大雑把だ。ここ一番で臆病風に吹かれる男ではない


 「あの竜相手では何も出来ん。何も出来ないまま死ぬのが怖いんだなぁ」


 ケルラインは何とも言えず、熊肉の焼き加減を見た

 少し肉の具合が悪い。ユーナー、血抜きが下手だなとからかうと、彼は太い顎を擦りながら苦笑いした


 「騎士ケルライン、騎士ユーナー……」


 兵士の一人が立ち上がり、剣を抜き放ちながら呼び掛けてくる

 一番年若い兵士だが、元は森深き村の猟師で気配に敏感だ。旅中でも獣の存在に逸早く気付いていた


 「何かいるのか」


 他の兵士達も遅ればせながら剣を抜き、或いは弓に矢を番えて周囲を伺う

 ケルラインとユーナーもそれに習い、闇の中に目を凝らす


 「唸り声が」

 「狼か」

 「いえ、それが……何と言うか」


 兵士は訝しげな顔をしている。唸り声を聞いたのは確かだが、獣のそれではない、と

 口籠る兵士が異様な雰囲気を醸し出す。時は夜、闇の中から迫る物は何であっても恐ろしい


 良く解らない物であれば尚更だ


 「まるで人間の……」


 ずる、と言う湿った足音がした。ケルラインにはハッキリと聞こえた

 それは他の者も同様で、咄嗟に集合して半円陣を組み、盾を前に突き出す


 まず初めに猛烈な異臭をまき散らし、それは闇の中にゆっくりと浮かび上がった。焚火に照らされた恐ろしい形相


 頬、右腕、左足の爪先、服に隠れて見えないが、恐らく脇腹も

 肉体が損傷し削げ落ちている。ケルラインは目を疑った。死体が歩いていると言うのが正に適切な表現だった


 「な、なんだ……これは……」


 ユーナーの呻き声に反応する余裕もない


 中年の男だった。頭は禿げ上がっていて体格が良い。鍛冶師が纏う服を着ている

 しかしこの尋常でない有様はなんだ


 「レイヒノムよ……おぉ……」

 「し、死んでいるのか?」


 中年の男は足を引き摺りながら呻き声と共に近付いてくる。ケルラインはその右足が奇妙に曲がっている事に気付いた


 全身傷だらけで肉は削げ落ち、しかも折れた足で

 歩く者を生者と呼べるのか


 ケルラインは兵士を押し退けて最前列に出た。それを待っていたかのように中年の男は走り出す。闇の中にぼんやりと浮かぶ肢体は、人とは明らかに違う不自然な動きを見せている


 折れた足で歩く所か走るのだ。黄色く濁った目をギョロつかせて、おぞましい呻き声を撒き散らしながら


 明らかな危険を感じた。物欲しげに開いた中年の男の口に、ケルラインは己を害そうとする意思を感じた


 「神よ!」


 縋るように叫びながら、ケルラインは盾を突き出して体当たりした。盾と盾がぶつかり合うのは実際の戦場でも多々ある事だ。盾合わせに置いては、ケルラインは実戦でも訓練でも自分と同じ竜狩り騎士以外には負けたことがない


 ケルラインの自身と予想に違わず、中年の男は容易く転倒しじたばたともがく。ケルラインは生唾を飲み込んだ


 例えこれが何であったとしてもやるしかない。斧槍を胴に向かって振り下ろす。斧の刃が超重量を味方に付けて肉に食い込んだ


 「まだ生きている」

 「いや違う、既に死んでいるのだ」


 斧槍の刃は完全に減り込んでいるのに中年の男は未だもがいていた。斧槍を握り締め、身を捩っている


 震えるのを誤魔化せないユーナーの声。ケルラインもそれは同じだった。大きく息を吸い込んで、斧槍を再度持ち上げる


 握り締めた中年の男の手を振り払い、今度は脳天目掛けて叩き付ける。肉と頭蓋を撒き散らし、男は漸く動きを止めた


 「悪夢だ……。騎士ケルライン、騎士ユーナー、これは一体……。自分はこんな事……見た事がありません」

 「俺とてそうだ。ケルライン、貴公は?」

 「ある物か」


 対して動いてもいないのに息が上がる。余りにおぞましい出来事に手が震えた

 クラウグスの民が、同じ土に生きる、同じ血の流れた同胞が、死して尚安らかならず彷徨っているのか


 祈りの言葉を捧げようと跪いたケルラインはまたもや湿った足音を聞いた


 鎮魂の詩を捧げる暇は無いようだ。ケルラインは素早く盾を構え、密集陣形を指示する


 「まだ居るぞ! 油断するな!」

 「後ろだ!!」


 兵士が悲鳴を上げるのと新手が野営の為の大きな焚火を蹴散らして飛びかかってくるのはほぼ同時だった


 矢張り尋常の様子ではなかった。頬はこけ、左手がない。歩く死体だ

 飛び掛かってきた死体に、ケルラインの背後を護っていたユーナーが肩からぶつかっていく。一息に怯ませて直剣でもって頭蓋を叩き割った


 「まだだ!」


 ユーナーが鋭く叫ぶ。皆が己の獲物を構え直し周囲を警戒した

 敵は一斉に現れた。散らばった焚火の炎に誘われるようにして、数多の者達が襲い掛かってくる


 「こんな事があるか! レイヒノムに掛けて、我らの同胞をこのままにはしておかないぞ!」


 ケルラインの右隣の兵士が憤怒を吐き出した。彼は歯軋りしながら目の前の敵を叩く。盾で足を掬い上げ、転倒したところにメイスを叩き込む。脳漿を撒き散らし動きを止める死体


 余りに惨い仕打ちであった。服装から死体達が嘗ては何の罪科も無い無辜の民草であった事は解る

 それが静かに眠る事も出来ず、何かに突き動かされるようにしてケルライン達を狙うのだ。兵士が嘆き悲しんだとて仕方ない


 ケルラインも同じ気持ちだった。恐怖は消えていた。同胞を眠らせてやらねば、と、その思いだけが胸に満ちた



 一行は助け合い、士気高く敢闘した。死体達は痛がらず、恐れも見せず、極めて厄介な敵となったが、全員が気を吐いて総勢十近くを退けた


 最後の一体の頭部を破壊した時、ケルラインを含め皆荒い息を吐いていた。戦闘それ自体から来る疲労より、同胞達の不幸とそれを相手に剣を振る言いようのない恐ろしさに疲労を感じていた


 「皆無事か! ユーナー!」

 「問題ない! 兵も一人として欠けていない!」


 ケルラインは皆の無事を確認して、大きく深呼吸した。こんな戦闘は初めてだった


 兵士達に命じ、予備に置いておいた薪に改めて火を付けさせる。出来るだけ火勢が大きく、光が強くなるようにだ


 「不用意に動けない。また来たらこの場で凌ぐぞ」

 「切り出し所はどうだ? 籠城出来ないか」

 「夜だ。戦って判断したが、恐らくこの……その、彼らは、夜目の魔法を使った我々より目が良い。更に切り出し所は林の内部にあって視界が悪い。より不利になる」

 「……よし、二人来い! 彼らを退かせ。足場が悪いまま戦いたくはない。一人はそのまま警戒しろ!」


 そこいら中に横たわる死体を片付けようとしたが、その暇は無かった。周囲を取り囲むように幾つも呻き声が上がったのである


 ケルラインは額の汗を拭いつつ斧槍を構え直す。全員火を背にし、全方位を警戒する


 「く、来る……」


 兵士の一人が歯を鳴らした。如何に経験を積んだ勇敢な兵士といえど、死霊との戦いなどした事がない


 どんな恐ろしい魔物とだって彼等は戦える。ゴブリンだろうが、トロールだろうが、クラウグスの峻厳なる大地に育まれた戦士は恐れず立ち向かう

 だが魔物は斬れても、同胞を斬るのが平気な者が居ようか

 追い詰められた精神は崩壊しようとしていた


 「恐れるな! 我ら六人一丸となって戦えば、遅れを取ろう筈がない! 彼らの無念を感じろ! 眠らせてやらなければならん! 誰かがそれをせねばならんのだ!」


 ケルラインは覚悟と共に気勢上げる。その鼓舞を受け、全員恐れ飲み込んで力を振り絞った


 程なく次の敵は現れた。矢張り死体でしかも複数。身体に様々な傷を負い、或いは肉その物を失い、流れた血はそのまま固まり、目に生気なく、それでも動く死霊の群れ


 一斉に襲い掛かってくる敵に対し、それぞれが獅子奮迅と言うべき戦いぶりを見せる

 しかし敵は余りに多勢だった。とうとう兵士の一人が引き摺り倒され腹を食い破られる。最古参の熟練兵だ

 次々に死体達は古参兵に群がり、その肉を食い千切った。凄まじい悲鳴が上がる


 地獄の光景に、ケルラインすらここが死地かと諦め掛けた時だった


 光が瞬いた。太陽や松明の光などとは明らかに違う真白な光だ。それらはケルライン背の側から刺し、その光を浴びた死体達は急にもがき苦しみ倒れ伏した


 現れたのは白馬だった。そしてその背に跨るのは金髪の司教

 ルーベニーだ。彼女が厳かに聖句を紡ぐ度、掲げた司教杖から白い光が放たれる


 「ルーベニー司教!」


 ケルラインの呼び掛けに応えるようにルーベニーは司教杖を振る


 「アランの子らを導きたまえ。澱みを正す循環の神ウルルスン。清き森の奥から祝福を送りたまえ。シャン・ルーイ」


 一際大きく白き光が起こる。それに打たれた死体達は動きを止め、煙を吹き始めた

 火に焼かれずして肉体が燃えていく。ケルライン達は少しも熱を感じないのに、死体達はゆっくりと灰になっていくのだ


 やがて死体達が全て灰になった時、ルーベニーは全身から汗を拭きだし、白馬から転げ落ちた


 「ルーベニー司教、無事か?!」


 ケルラインはすぐさま走り寄ってルーベニーを抱き起す。ユーナーが兵士達に指示し、また自分も周囲を警戒した


 「間に合いました、ケルライン様」

 「あぁ、本当に助かった。しかし何故ここに?」

 「竜は大きな存在です。大きな存在が動けば他の様々な事も動く物。私はレイヒノムの信徒として、ケルライン様を御手伝いします」

 「この惨い有様に竜が関係していると言うのか」


 ユーナーが剣を鞘に収めながらルーベニーに近付き、跪く。感謝の言葉と祈りの言葉を同時に捧げた


 「慈悲深きレイヒノムよ、感謝します。礼を言うぞ神官殿、助かった。もう周囲には何も居ないようだ」

 「ユーナー、こちらルーベニー司教だ。数日前あの竜と戦う時に炎のブレスを弱める加護を授けてくれた。主神の御業の一端を預かる高潔な神官だ」

 「司教殿で御座いましたか。これは御無礼を。重ねて感謝いたします」


 兵達がユーナーに習うように跪き、感謝の言葉を述べる。騎士ユーナーは下級貴族の家の出で、その家も今は没落してしまっている。地方に領地を持つアバヌークであり、軍中でも一介の騎士とはいえ他とは一段違う立場を持つケルラインとは違い、司教相手には居住まいを正す


 ルーベニーは乱れた息を整えるとケルラインに礼を言い、自らの足で立ち上がった


 「竜のブレスによってこの地は焼かれ、神々の加護は破られてしまいました」

 「死者が歩くなど自然の摂理に反する事だ。この地が加護を失った為なのか」


 足元に残った灰の山を見詰めながらケルラインは憤りを露わにする


 「闇から出でた魔物、カルシャと言う悪霊が亡霊達を死者に取り付かせ、操っていたのです。普通ならば起こりえぬ事です」

 「そのカルシャは今?」

 「ここには居ません。しかし闇の中に潜み、今尚ケルライン様を狙っています」

 「俺を?」

 「ケルライン様が竜に敵と認められたからです。竜が世界を焼けばこの世に地獄が現出する。闇の世界を広げようとするカルシャは、竜を倒す希望を秘めたケルライン様が邪魔なのです」


 ユーナーが豪快に笑って見せる。兵士達の前では特に大胆不敵を装ってやる必要があった


 「流石じゃないかケルライン! 強敵に付け狙われるのは、それこそ勇者の証だぞ」

 「……この旅の障害となるならば、打ち払うのみ」

 「カルシャと対決するならば御役に立てるでしょう。どうぞ私をお連れください」


 願っても無い話だとケルラインは頷く。ケルラインだけでなく、皆同意見だ


 死者が立ち上がり襲い掛かってきたのだ。神の加護に縋りたくもなる


 それに、戦士した兵士を弔うのに、ルーベニーはうってつけだった



――



 兵士を弔い、仮眠を取り、そこからケルライン達は強行軍に強行軍を重ねた。ルーベニーはただの神官ではなく従軍の経験があるようで厳しい早掛けによく耐えた


 アッズワースに到着したのは夕刻だった。王都にも引けを取らない巨大な城塞都市で、鍛冶場からの物か幾筋も煙が立ち上っている

 どうやら戦闘があったらしく幾つものゴブリンの死体が転がっていた。それを処理するため火を掛けて回る者達に、ケルラインは声を掛けた


 通行証を提示すると、ケルライン達はすぐさま城塞司令官の所に通された。城塞司令官トリニトは経験豊富な指揮官で、アッズワースや王都のみならず、クラウグスの現状をよく理解していた



 「成程、竜に対し機敏な動きだ。これならクラウグスはまだまだ持ち堪えるな」


 たっぷりと蓄えた顎髭を撫でながらトリニトは呟く。トリニトはアッズワースで魔物達と戦いながら、しかしそれだけに腐心している訳ではない

 どんな情報でも欲しがり、クラウグス全体の事を考えている。ケルラインは先を急ぎたいのが本音だったが、こういった指揮官とは情報を共有しておきたかったし、強行軍にも限界があった


 「何分こちらの方は魔物達の事もあり中々情報を集められん。正直助かる」

 「お力になれたのならば幸いです」

 「しかし風精ビオの祭壇か。石像と祭祀場があるのは把握していたが……。難しいな。竜のせいか魔物達の動きも活発だ」

 「竜に打ち勝つためならば、例えどんな犠牲を払ってでも」


 ユーナーが堅い声音で言う


 「……うむ。その話、信用出来るのだな」

 「クアンティン王陛下はそう判断されました」


 でなければ貴公らが此処に居る訳もないか。トリニトは事実を再確認するように頷いた


 そして、ケルライン達を見回す。歴戦の竜狩り騎士一、豪胆な騎士一、経験豊富な兵士三、高位の聖職者一


 「アッズワースからも人を出そう」


 トリニトは即決した。ケルラインに他の者には無い何かを感じていた

 この男達の作戦は必ず成功させねばらない。そう思わせる何かをケルラインやユーナーは放っていた


 「宜しいのですか?」

 「風精ビオとの同盟、これは重要な事だと判断した。ならば成し遂げてもらう。どんな犠牲を払っても、だろう? 貴公らを支援するのは至極当然ではないか」

 「……感謝します、トリニト殿」


 ケルラインが頭を下げた時、トリニト配下の騎士が激しくトリニトの私室の扉をノックした


 「トリニト様! トリニト様!」

 「入れ」


 入室してきた騎士は即座に跪く。見れば顔は蒼褪め、声は震えている


 「北に異様な集団が! ゴブリンやオークの中に、人が混じっているのです!」

 「人が魔物の群れの中に?」

 「しかも……その、何と言いますか、その集団は」


 トリニトが早く話せと促す


 「申し訳ありません、他に表現が見つからないのですが……それらは、どう見ても死んでいるのです。死体が歩いているとしか思えません」


 ケルラインとトリニトの視線がぶつかる。唸るトリニトに、ケルラインは即座に申し出た


 「貴公らの話にあった悪霊カルシャの手勢か」

 「トリニト殿、戦列に加わる事をお許しください」


 よく言ってくれた、とトリニトは獰猛に笑った。部下達に矢継ぎ早に指示を出しながら部屋を出るトリニト

 ケルライン達はその後ろに続く。ケルラインが振り返って兵達の顔色を確かめたが、皆緊張している物の怖気づいた様子はなかった



 城塞は急激に慌ただしくなった。が、混乱している様子は無い。突然の魔物の襲撃に慣れた北部最前線の拠点であるから、その練度も推して知るべしと言う物だ

 例え相手が全く訳の分からない死者の群れだとしても、アッズワースを守る為に死力を尽くすことに代わりはない


 アッズワースの城壁の上に出れば、日の沈みかけた谷合をゆっくりと進んでくる集団が確認出来た


 遠目にもその異様な様子が解る。目算でも五百は居るのに、ざわめきは無く、足音は少なく、気配もない

 そしてトリニトの配下の報告通り、小鬼や二足で立つ巨大な猪面の中に人間らしき影が混じっている


 虚ろな瞳が鈍く輝く。闇の落ちかけたアッズワースに、不気味な光を宿した目が幾つも幾つも爛々と

 死者の群れが歩く様はこの世の終わりを連想させた。豪胆老獪な司令官トリニトと言えど、話に聞くだけでなく実際に歩く死体達を目にしては、心胆の冷えを止めようがないらしい。一瞬、言葉を失う


 しかしすぐさま己を取り戻した


 「アメデュー! 状況は!」


 トリニトの怒声を聞きつけて一人の女騎士が現れた。突然の敵襲に最低限の装備だけで飛び出してきたのか兜は無く、蜂蜜色の髪を風に靡かせている


 「集団は魔物と人間の混成! 斥候の報告によれば魔物も人も皆一様に生気なく、中には大きな傷を負った者、手足の欠損した者も居り、異様な気配であると!」


 蜂蜜騎士アメデューの報告にトリニトは鼻を鳴らした


 「弓隊準備急げ! アメデュー、貴様の男はどうした」

 「ティタンならば傭兵隊を纏めています」

 「ここへ呼べ。……どうした兵ども! 素早く動け!」


 ケルライン達は行き交う兵士達の中から一人見繕い、矢を要求した。敵は多い。矢玉は幾らあっても足りないだろう

 兵士が要求を聞き入れるとトリニトに向き直って指示を仰ぐ。全く勝手の解らない要塞で自由闊達に戦えるほど、ケルラインは優れた戦士である自信が無い


 「トリニト殿、我らは?」

 「少し待て……、あぁ来た」


 ケルライン達の前に騎士アメデューが傭兵らしき赤い革鎧の男を連れて現れる

 若いが頬や腕などに傷を持ち、戦いの予感を前に眼光が鋭い。歴戦の風格がある


 「此奴らは騎士アメデューと傭兵ティタン。アッズワースで最も成果を出す二人だ。貴公らはこの二人の元で戦え。現場の指揮は騎士アメデューが取るだろう」


 トリニトの宣言に疑問を感じたのは当然騎士アメデューだった


 「司令官殿、どなたです」

 「王都より重要な任務を帯びて参った騎士ケルラインとその配下の者達だ。アッズワースより尚北に用があるのだが、こんな様子では目的地に向かえんのでな」

 「手を貸してくださると? ……宜しいのですか。使命を帯びた者がそんなみだりに」

 「化物があぁも居ては仕方なかろう。それに侮れた物ではないぞ」


 トリニトはケルライン達をちらりと見やって、周囲にも聞こえるように言った


 「歴戦の竜狩り騎士に、竜の炎を微塵も恐れぬ騎士、そして軍中叩き上げの精鋭古参兵が三名だ。加えて司教ルーベニーはあの死霊どもを浄化することが出来ると言う」

 「成程、それは期待出来そうです」


 アメデューはにこりともせず言う

 朴訥な気性を感じた。自分が余り器用な方ではないのをケルラインは自覚していたから、アメデューのそういった態度は有難かった

 アメデューに習ったわけではないが、ケルラインもにこりともせず言う


 「任務の為ここで死ぬことは出来ない。死力を尽くして、とは言えないが、全力で戦うことを誓おう」

 「それだけ聞ければ十分。私は騎士アメデュー。これは私の家来ティタン」


 ティタンは寡黙で、僅かに頭を下げただけだった。傭兵が騎士に対して、と考えると言うまでもなく無礼な態度であったが、敵が眼前に迫った要塞でどうこう言う暇は無い


 「騎士ケルラインだ。こちらは騎士ユーナー。それにルーベニー司教」

 「弓は?」

 「自前の物が。ただ矢は欲しい。先ほど……」


 兵士が声を掛けてくる。少し前にケルラインが矢を要求した兵士だ

 一抱えほどの矢束を三つ担いでいる。ケルラインは労いの言葉を掛けた


 「うむ、準備できた」

 「話の早い人のようだ。こちらへ」


 全員で駆け出す。歩く死体達は更に近付き、城壁の上からそれぞれの顔が解る程度にまでなっている


 ケルライン達はアメデューに従い、アッズワース城壁の東側へと向かった。そこにはアメデューの隊が既に集結しており、敵の異様な気配を感じとりながらも恐怖を噛み殺し、戦いに備えていた


 遠くからトリニトの大喝が聞こえる


 「良いかぁ! 奴らはこの世の物ではない! 邪霊カルシャの操る死者達だ! 奴らを倒すには頭を砕かねばならん! 邪霊カルシャは竜を助け、クラウグスを滅ぼそうとしている! 竜を倒す為、まずは邪霊を打ち払う!」


 その大喝を聞いたアメデューは訝しげな顔をした


 「邪霊……? 如何な魔物とも戦って見せるけれども、この世の物でない存在とはどう戦えば良いのか……」


 傭兵ティタンがケルラインをジッと見詰める。ケルラインが今攻め寄せる死者の群れと関係あるのでは、と勘付いたようだ


 「騎士ケルライン殿。奴らは“ちゃんと死んでくれる”んですね?」

 「トリニト殿の言葉通りだ。頭を潰せば動かなくなる」

 「なら十分です」


 会話も少なく、ケルライン達は弓に矢を番え、城壁の凹窓から身を乗り出す

 敵に飛び道具は無い。一方的に射掛ける事が可能だ

 しかし敵が頭を潰さねば止まらない事を考えると決して楽観出来る状態ではない


 ケルラインの隣で弓を構えるユーナーが、凄絶に笑った


 「騎士ケルライン、竜狩り騎士を傍らに置いて戦うなど、この旅の最中だけだろうな。この機会、楽しませて貰うぞ」

 「楽しいだけではいかんな、緊張感が無いと。騎士ユーナー、首を競うか。少ない方が王都に戻った時、クアンティン王に酒を強請るのだ」

 「クアンティン王に? ぶわはは! わははは!」


 任務成功の褒美に酒を要求する。与えられるならともかく、強請るのは騎士然とした行いでは無い。クアンティン王にそれをするとなればこれは相当の覚悟が要るだろう

 

 ケルラインの軽口に周囲の兵達までもが一緒になって笑った。同時に兵達は緊張を解き解し、余裕を手に入れる


 指揮官が悠然と、大胆不敵に構えていなければいけないのはこれだからだ

 兵達には、自分達を駆り立て、安心させ、生き延びさせてくれる勇者が必要なのだ


 「弓、構えぇぇぇい!!」


 トリニトの怒号

 アメデューが鼓舞する


 「天界の神々も照覧あれ! クラウグスの戦士達、敵が何であろうと恐れるな! 戦士の誇りを忘れるな! 諸君の活路は決死の勇戦の先にこそあるぞ!」


 兵達が咆えた。ケルライン達もまた


 ケルラインの構える二人引きの弓がギリギリと悲鳴を上げる。引きに通常の二倍の膂力が必要とされる強弓で、矢張り竜狩り騎士以外でこれを扱う者は余りいない。ケルラインの身近では剛腕で鳴らすユーナーぐらいだ


 「死しても諸君の戦いは歴史に刻まれる! 主神レイヒノムはここにおられる司教ルーベニー殿の目を通して、諸君の勇敢さお確かめになるだろう! 勇者は天に上り、英霊の座に加えられよう!!」

 「おぉ! 主神の導きを!」

 「クラウグス万歳! 祖国の為に!」

 「民草の為に! 万民の正義の為に!」


 皆口々に叫ぶ。恐れを吹き飛ばし、その身に神と勇気を宿らせ、戦いに挑む


 ケルラインも叫んだ


 「偉大なる王国、偉大なる王陛下万歳! 主神と英霊達の加護ぞあれ!!」


 死者達の群れは要塞の直ぐ傍にまで近付いていた。弓の射程内である

 戦の火蓋を切って落とすのはやはりトリニトの怒号だ


 「撃てぃ!!」


 矢の雨が死者達に向かって降り注ぐ



――



 ケルラインとユーナーの強弓は奇しくも同じ敵を狙いその胸を貫いた。鏃は死者達の先頭を行く一際大きなオークの肉を裂き、肋骨を圧し折り、その背中から飛び出したが、矢張り倒れない


 如何に強い生命力を持つオークとは言え、胸を突き破られれば倒れる物だ。それが何事も無かったかのように平然と走り続けている。想定内ではあったが、決してうれしくない現実を目の当たりにして、ケルラインとユーナーは同時に眉を顰めた


 「ケルライン、厄介だな!」

 「数撃てば頭にも中る!」

 「騎士としては嘆かわしい戦法だ!」


 他に手は無かった。場に居並ぶ弓手達は躍起になって矢を降らせる

 鏃が風を裂く男が間断なく響いていた。石を運びそれを落す者、煮え滾った油を用意する者、それらの怒号が風鳴りに混じって聞こえてくる


 矢張り頭に命中させなければならないと言う条件が事態を厳しい物にしていた。そも、頭に命中したとしてそれが必殺になるかどうかはまた別だ


 頭蓋は骨の中でも特別硬い物だ。それは魔物でも同じだろう

 頭に矢が命中しても肉を貫いた先で頭蓋骨の上を滑り頭が潰せない事もある


 降らせる矢の数に対し、倒れた敵の数は微々たる物だった


 指揮を執りながら矢張り矢を射かけていたアメデューが一体の死者を見て驚愕の声を上げる


 「馬鹿な、四肢のみで城壁を登って来る!」


 騎士アメデューの驚きは、全員の驚きだった。見れば城壁に取り付いた死者が俊敏な動きで城壁を登り始めたのである


 積み上げられた岩の隙間にボロボロの指や爪先を突き込み、見る者の不快感を煽る不自然な体捌きで見る見る城壁上のケルライン達に近付く死者


 ケルラインは近くで唖然としていた兵士から一抱えもある岩を奪い取り、思い切り投げ落とした

 狙い違わす城壁を登る死者の頭部に命中する。死者は力を失い落下したが、それで脅威が取り除かれたわけではない


 後に続く死者が次々と、矢張り城壁を登り始めたのだ


 「弓矢も梯子も盾もなく、攻城戦を挑んでくる訳だ」


 唸るような声でティタンが漏らす。アメデューが即座に対応策を考え指示を飛ばす


 「油がもっと必要だ!」

 「まだ準備が……」

 「沸かさなくて良い! あるだけ持ってきて城壁丸ごと濡らすようにぶちまけるのだ! 早く!」


 ケルラインは己の配下の兵にも油と岩を運ぶよう命じた。最初は敵に城壁を登る手段が無いと侮ったが、そうでないのならば話は別だ

 落とす物がもっと必要だ。それと、火


 「火だユーナー! 死んでいようが肉の身体である以上、火には抗えん!」


 聞くが早いかユーナーは松明を一本と、油壺を引っ手繰ってくる。それと負傷者の治療の為に準備されていた布切れ


 騎士アメデューの指示で城壁に油を垂らすのとは別に、どんどん油の入った鍋を投げさせた

 その間にケルラインは矢に布切れを巻き、油壺に浸す。後は松明に近付ける


 火矢だ。それを油を浴びた死体達に射掛けた。途端に燃え上がり、その周囲をすら巻き込んで焼き尽くす炎

 これは使える。ケルラインは次の油を要求する


 その時、騎士アメデューは敵の驚異的な能力に舌を巻いていた


 「城壁を油で濡らしても登ってくる」


 騎士アメデューは険しい顔で弓を構える。アメデューの配下達も震える身体を叱咤しそれに続いた。怪物が群れを成して這い上がってくる様は、異様に輪を掛けて異様な光景だった


 城壁上の弓手は必死になって無数の矢を放ったが、とうとう撃ち漏らしが城壁上へと到達した

 人間の死体に兵士の一人が腕を掴まれ、引きずり落とされる。仲間の仇討とうと直剣を構えて体当たりした兵士は、胸を貫かれても怯まない死体に喉首を食い破られて返り討ちとなった


 「頭を潰せと言われただろう!」


 ティタンが其処に滑り込んだ。赤い革鎧に赤い防塵マントを装備した傭兵は、長剣の切先を下に構えて死者に突進する


 踏み込み、肩口をぶつけると共に顎下から長剣を突き込んでいた。ティタンの長剣は顎を貫き、軟口蓋を断ち割って、そのまま脳天から突き抜けた


 そのまま死体を蹴り落とすティタン。騎士アメデューの方を一度見やると、すぐさま次の敵へと視線を戻す


 「ここは俺が捌く!」

 「ティタン、頼む! ……怯むなお前達! この場を死守せよ!!」



 余りに長い時間、アッズワース防衛戦は続いた。あっという間に日は落ち、無数の松明と火矢で放たれた死者を燃料とする篝火のみが光源となる


 最初五百に見えた死者達は、何時しかその数を増しているようだった。幾ら打ち払っても終わりの見えない死者達の攻勢に、アッズワースの精鋭達の士気も少しずつ減衰していく

 一人死に、また一人死に、じりじりと犠牲は増え続ける。人は戦場で死ねば手厚く葬られ戦神に慰撫される。山野の獣に襲われれば山の神に抱かれて眠る。病や老いで死ねば家族を傍で見守る霊となる

 なら、この悪魔どもに食われて死んだら、どうなるのだ? 無為な己の思考にケルラインは思わず震えた



 ケルラインが汗だくになりながら岩を投げ落としていた時、神の御業の一端を用いて城壁に上り詰めた死者を打ち払っていたルーベニーが声を上げる


 「ケルライン様! 今、邪悪な意思を感じました! 要塞の中からです!」

 「詰まり、どういう事だ!」


 ルーベニーが応える前に悲鳴が上がる。それはケルラインの背の方からだった

 思わずケルラインは振り返り、階段まで走った。下を見下ろせば、鎧を着た歩く死体が一人の兵士に襲い掛かる所だった


 遅れてそれを確認した騎士アメデューが震える声で言う


 「葬儀を待つ……アッズワースの……戦死者だ……」

 「おのれ! 悪霊カルシャだか何だか知らぬが、戦士達の遺体までも弄ぶのか!」


 ユーナーが憤怒の感情を爆発させて駆け出す。ケルラインは逡巡して、配下三人ともにその後を追わせた


 暫し米神を押えて息を整える。下らない考えに没頭する刹那の時間が欲しかった


 「……俺を狙ってきたのであれば、すぐさまアッズワースを離れビオの祭壇に向かっていれば、こうはならなかった……?」

 「遅いか早いかです。アッズワースはクラウグスの重要拠点。カルシャはここを攻める為ならば素早く行動したでしょう」


 汗で額に髪を張りつかせたルーベニーが悲痛な顔で後悔の言葉を吐いた


 「アッズワースの戦死者が操られる事は予測するべきでした。私の責任です、ケルライン様」

 「……そんな場合ではない。ルーベニー司教、ユーナー達を頼む」

 「しかしそれは……。ケルライン様も一緒に」


 ケルラインは周囲を見回した。兵士達は明らかに動揺している。騎士アメデューもだ


 昨日までの戦友が、見るに堪えない姿に変わり果てて襲い掛かってくるのだ。無理もない


 ケルラインはここを離れる訳にはいかないと判断した


 「駄目だ、ここを守る。ルーベニー司教はユーナー達と共に要塞内を抑えてくれ。ルーベニー司教に宿る神の御業であれば出来る筈だ」

 「私ならば、最悪の場合ケルライン様だけでも御守する事が出来ます」

 「俺はそんな事は頼んでいない!」


 言いながら、ケルラインは城壁を登ってきたオークの死体の膝を斧槍で叩き割った

 巨体がぐらりと傾いだ隙に、今度は頭部へと斧槍を叩き付ける。倒れ込もうとするオークの死体に体当たりし、城壁から突き落とした。それに巻き込まれて二、三体の敵が落下し、更に落下地点に居た敵が押し潰される


 「なりません、ケルライン様を御守します! ケルライン様が死んでは、誰が竜狩りの旗を掲げるのです! 誰が風精ビオと同盟を?!」

 「アッズワースが落ちればクラウグスは押し込まれる! 竜と戦う為の力その物が失われるのだ! ここは何としても死守する!」


 竜と戦う為、今王都には続々と戦士達が集い始めている

 アッズワースは北の護りの要。ここが失われればそれらも無駄になるのだ。抑えを失った魔物達は北方の至る所に散らばり、クラウグスの国土を蹂躙するだろう。それらを収束させる為に多くの物が犠牲となり、結果竜と戦う余力を失う


 故に退けぬ。それに、とケルラインは考える

 俺が死んだからなんだと言うのだ。もう既に大勢死んでいる。多くの戦友達、無辜の民草が、無念の内に散って行った

 今更俺だけが命を惜しめるか!


 「そして……! そして! 俺が死んでも俺の後に続く者が必ず居る! そうなれば俺は戦友たちのようにドラゴンアイの紋章旗に宿り、その者を助けるだけだ!」


 ケルラインはらしくなく、ルーベニーに怒鳴り付けながらアッズワースの門を見遣る

 門は敵の攻勢に対しよく持ち堪えている。だが内側に出現した死者達が門を抑える隊を襲えば、容易く破られてしまうだろう


 時間は無い。ケルラインはもう一度ルーベニーの名を呼んだ。ルーベニーはケルラインがどうしても意思を曲げないと悟り、悲壮な顔で俯いた


 「主神の御加護を……。お願いですケルライン様、最も重要な使命を見失わないで下さい」

 「その心算は無い。だが、生き残るかどうかは主神の導き次第だろうな」


 ルーベニーは金の髪を振り乱し、走り去った


 アメデューには死力を尽くせないと言ったが、事此処に至っては前言を撤回するしかない

 ケルラインはベルトに下げた革筒からドラゴンアイの紋章旗を取りだし、斧槍に括り付ける


 戦友達よ、力を貸してくれ


 「どうした騎士アメデュー! 次なる指示を出せ! 敵を倒すのだ!」

 「……あぁぁ! 咆えろ兵ども! 気力で押し返せ! 二番隊! 要塞内の援護に行け! コンショ! もう一度油の準備を! 一歩も引くな! 良いか?! 一歩もだ!」


 女とは思えない声で叫んだアメデューの気迫が乗り移ったか、兵士達も咆哮でそれに応えた


 皆疲れ果てた体を気力で支え、満身に闘志を漲らせて戦闘を続行する


 「ティタン、私の傍に居ろ! 潜り抜けてきた敵はお前が倒せ! アッズワースの戦士隊こそクラウグスで最も実戦を経験した部隊だ! クアンティン王の御名に掛け、如何なる敵も、如何なる苦境も撥ねかえせ!!」


 必死の防戦だった。敵は人間ではない。降伏も交渉もあり得ない

 何よりここが落ちればクラウグスは窮地に追い込まれる。自分達の戦いがそのまま祖国の未来に直結している

 誰も彼も戦うしかなかった。絶望の夜に向かうしかなかったのだ


 ずん、と地響きがした。それは一度だけではなく、断続的に響き、しかも近付いてくる


 死体を燃料にして燃え盛る篝火にその地響きの主が照らし出された

 夜の闇の中、橙色の炎の為に解り辛いが、夜目の魔法の助けもあって把握できる。土で汚れた灰色の肌。常軌を逸して太い脚、高い背丈、膨らんだ腕


 そして鈍く光る生気のない単眼


 一つ目の巨人。ケルラインすらも度肝を抜かれた


 「ジャイアントだ! 巨人の死体すら操るのか地獄の悪霊とやらは!」

 「馬鹿な! 酒飲みの駄法螺では?!」


 ジャイアントが本当に存在するなど誰も思っていなかった。伝説の、御伽噺の存在だと

 竜を知るケルラインでも、巨人は知らなかった。しかし人間の三、四倍はあろうかと言う背丈とみっちり肉の詰まった四肢は確かに其処に存在し、アッズワースの門に向かって歩いてくる


 「あの巨体では門が破られる」


 外に巨人、内に嘗て味方であった死霊たち。激しい攻勢は続き、今こうしている間にも城壁を死体達が登って来る


 進退窮まった。ケルラインは腹を括った


 「死の覚悟のある者、五人来い!」


 突然のケルラインの言葉に兵士達は顔を見合わせる。何より指揮官はケルラインではない、アメデューだ


 ケルラインは言葉を続けた


 「巨人を倒す!」

 「ケルライン殿、可能なのですか」


 アメデューが難しい顔で問い掛けてきた。可能であれば、藁にだって縋りたい心境の筈だ


 「解らん。だがやらねばアッズワースが落ちるだけだ」

 「……確かに、その通りです」


 話す間にも敵はやってくる。矢での応戦を潜り抜けてきた死体。今度はゴブリンだ

 ケルラインは飛び掛かってきたゴブリンの死霊に蹴りを放つ。死霊はその一撃で折角登ってきた城壁を逆戻りする事になった


 「誰も来ぬなら、俺だけでも行く」

 「俺が行こう。許せよアメデュー」

 「ティタン……」


 最初に名乗り出たのは傭兵ティタンだった。腕前はこの防衛戦の中で見せてもらった

 この男と一騎打ちとなれば自分も危ういだろう。ケルラインはティタンを歓迎する


 ティタンを皮切りに、次々と兵士が名乗り出てくる。皆それぞれにアメデューに謝罪の言葉を述べた


 アメデューは辛い心境だろう。指揮官でなければ、アメデューが一番に名乗り出ていたに違いない。そういった気性の女だ


 「ティタン……ケルライン殿……、不甲斐無い私を許してほしい」


 歯を食いしばるアメデューに慰めの言葉は掛けなかった。そういった物を欲しがる人間には見えなかったし、時間も無かった


 城壁の門直上位置ではトリニトが難しい顔をしていた。矢も投石も、巨人に対してそれほど効果を発揮しない。同様に、油と火も巨人は意に介していなかった


 「騎士ケルライン……?」

 「トリニト殿、縄を」

 「どうする心算だ」

 「……自分でも解りませぬ」

 「死ぬ気か」


 話す内に、巨人が門に体当たりを始める。門は大きく震え、城壁までもが揺れた

 内側から門を押える隊は必死だ。ケルラインは城壁から巨人を見下ろして大きく息を吸い込む


 「誰か、縄を持て! 急げ!」

 「ケルラインに縄をやれ! ジャイアントはケルライン達に任せる!」


 トリニトの部下が縄を持ってくる。ティタンはそれを凹窓の出っ張りに巻き付けさせた

 同じ作業をもう五回。計六本の縄。

 ケルラインとケルラインに続くティタン達は、各々縄を握り締めた


 そして城壁から身を乗り出す。片手で縄を握り締め、そろり、そろりと下に降りていく。鎧を含めた自重を保持するのは相当の苦労だったが、そんな事を言っている場合ではない


 巨人は頭を振り乱し、不気味な雄叫びを上げていた。ケルラインは一定の距離を降りるとそこで一度停止し、ティタン達に目配せした


 この高さからなら、落ちても死ぬまい

 どうせ死ぬにしても、戦死が良い。墜落死なんて格好が悪くてどうにもならない


 さぁ行こう。全てに執着せず、ただ眼前の敵のみを見て


 「お前達! 今まで得た物、培った物、全てここで捨て去れ! 一歩も引き下がらず戦えば、祖霊達は我等を温かく迎えて下さるだろう! ……跳べぇぇぇッ!!」


 ケルラインは城壁を蹴り、とんだ。それに続くティタン達

 六つの影が上空から巨人に襲い掛かる。それぞれの獲物と共に体当たりしていく


 ケルラインは巨人の頭部にカラド黒鉄の斧槍を叩き付けた。しかし致命傷には至らない

 ティタンは背に。兵の一人は首元に。もう一人は膝に。残りの二人は巨人の振り回した腕に吹き飛ばされて地面を転がった

 兵士二人は運よく大きな傷を受けなかったようだ。門の周囲は巨人の攻撃の巻き添えを避ける為か死者達が居らず、それが唯一の救いだった


 巨人が低い雄叫びと共に身を捩る。ケルラインと兵士達は吹き飛ばされ、地面を転がった。ティタンだけが辛うじて背に突き立てた剣を支えに取り付いている


 ケルラインは地面に叩き付けられた痛みを堪えて立ち上がった

 門の傍の壁に設置された松明が巨人の姿を照らし出す。矢張り目に生気なく、肉体には傷があり、凝固した血液が赤黒くなって張り付いている


 盾を備えた左手で炎の宝剣を抜き放ち、竜狩りの旗と一体になった斧槍を巨人に向けて突き出す


 「ティタンを救え! 竜狩りの旗に続け! この旗の下にこそ勝利はあるぞ!!」


 ケルラインは体を振り回す巨人に向かって走る。四人の兵もそれに続く

 地面に向かって振り下ろされた巨人の腕を掻い潜り、ケルラインは太い右膝に炎の宝剣を突き刺した


 クアンティン王から貸し与えられた火の魔法の剣は途端に赤熱を放った。肉の焦げる臭いがする


 兵士が一人巨人の腹にぶつかっていった。直剣を抉り込むように突き、その臓腑をかき回す

 巨人の反撃は熾烈だった。背に纏わりつくティタンを一旦放置し、自らの腹を抉った兵士を殴り飛ばした


 吹き飛ぶ兵士に巻き込まれ、ケルラインは倒れ込んだ。兵士を揺り起こそうとしたが、その顔面は陥没して原型が解らなくなっていた。確かめるまでもなく、絶命している


 「ジャイアントめ! ここはアッズワース、人間の地だ! クラウグスだぞ!」


 残った三名の兵士が罵声を投げつけながら槍を構えて巨人を取り囲む。注意を分散させようと言うのだ


 「膝を狙え! 体勢を崩して頭を割る! 良いか、互いを信じろ! 巨人の動きを読み、動ける者が動くのだ!」


 ケルラインもそれに加わる。巨人に攻撃を受けそうになればさっと引き、他の者が素早く膝の裏側を狙う


 決して焦らず、逸らず、自棄にならず、心臓が口から飛び出しそうな程早く、大きく鳴るのにも耐え、戦い続ける


 ティタンは揺れ動く巨人の背で何とか頭に辿り着こうと必死になっていた。時折思い出したように短剣で背中を突き刺すのが鬱陶しいらしく、巨人はそれにも注意を裂かれた


 ケルラインが隙を狙ってもう一度巨人の足元に駆け寄り、火の宝剣を突き立てる。先ほどと同じ右膝だ


 とうとう巨人は体制を崩した。兵達はここぞとばかりに巨人の頭を狙い、一斉に槍を突き出す


 ――そして軽々と打ち払われた。剛腕の一振りで兵達は薙ぎ倒され、一人は逃げる間もなくその五指に捕まり巨大な顎に頭を食い千切られた


 「化物……め……」


 吹き飛ばされたのはケルラインも同じだ。城壁に激しく叩き付けられ、激痛の為声も満足に出せない

 咳込みながら漸く立ち上がると、隣にティタンが吹き飛ばされてきた。地面に叩き付けられた拍子に頭を打ったようで少なくない量の出血が始まっている

 背中の邪魔者を追い払った巨人は更なる追撃を加える。先程薙ぎ倒された兵士の一人は足を折られたようで逃げ切れず、握り拳によって叩き潰され、全身の骨を砕かれた。もう一人はそれを救おうとしたが、結局適わずしかも巨大な拳の痛打を受ける事になった


 場が崩れれば一瞬だった。残るはケルラインとティタンのみ


 「(死ぬか? ここで?)」


 死ねたら楽かもな


 ケルラインはぐわ、と大口を上げた


 「うおあぁ!!」


 悲鳴とも雄叫びともつかない絶叫を上げながらケルラインは巨人に向かって再び走った

 ケルラインを捉えようと巨人が腕を繰り出す。ケルラインは転がるようにして前方に飛び込みそれを避ける


 そして炎の宝剣でもって、巨人の右膝を斬りつけた。これで三度目

 炎の宝剣の魔力は凄まじく、右膝は黒焦げになっている。巨人は今度こそ自重を支えきれなくなり、地に倒れ伏した


 すぐさまケルラインは止めを刺そうとする。ティタンも出血にも構わず立ち上がり、それに続く

 巨人は足掻いた。倒れ伏しているとはいえその巨体が駄々っ子のように暴れ回ればそれだけで脅威だ

 ケルラインは盾を構えるもまたもや吹き飛ばされ、今度はアッズワースの門に激突した。度重なる激痛と疲労に意識が遠退き掛ける


 ティタンもまた地面に倒れ伏していた。長剣は半ばで折れ、完全に気を失っている

 巨人はその隙に立ち上がろうとしていた。ケルラインは歪む視界の中にその様子を確認し、よろけながらこちらも立ち上がる


 「(もう一度、もう一度だ。何度でも立ち上がり戦うのだ)」


 そうだ、インラ・ヴォアが言ったように

 命ある限り。いや、例え


 命絶え果てたとしても


 「主神と……英霊達の……加護ぞあれ……!」


 インラ・ヴォアよ、済まない。ケルラインは声に出さず、遠くで違う戦いをしているのであろう銀髪の戦友に詫びた

 絶体絶命の危機だった。目の前には巨人。そしてその後ろには無数の死者達が犇めいている

 生き残る様子が想像できない


 だからインラ・ヴォアよ、済まない。だが俺が死んでもお前がいる。竜狩りの戦いを続ける事が出来る。俺はそう信じる


 「(例えここで死したとしても、魂だけはお前の元に舞い戻り、戦友達と共にお前を助けよう)」


 ケルラインは体をぐらつかせる巨人に向かって斧槍を突きつける

 そして決死の覚悟をもって駆け出した。その時淡い青の燐光がドラゴンアイの紋章旗から湧きだし、ケルラインを包み込む


 巨人の腕を打ち払い、黒焦げの右膝を叩き割る。手首返す事で斧槍の向きを変え、今しがた膝を割る為に繰り出したのとは全く逆方向に向けて刃を叩き付けた


 大きく傾ぐ巨人の身体。ケルラインは雄叫びを上げて巨人の破れた腹に斧槍を突き込む

 先に散った兵士が残してくれた蟻の一穴だった。腹と下半身に大きな傷を受け、巨人は完全に足を止める


 巨人が腕を振り上げる。ケルラインは盾を構える。腕が叩き付けられるのに合わせて、盾ごとそれに打つかっていった


 再び、青の燐光が瞬く。ケルラインは弾き飛ばされたが、すぐさま起き上がる


 一人は怖い。一人は心細い

 ケルラインは悟った。人は一人で戦うようには出来ていない

 だから、力を貸してくれ。生ける者も、死せる者も

 俺は無駄死にではないのだと思わせてくれ


 「ケルライィィーン!」


 上空から降ってくる者が居た。聞きなれた声が今は何よりも心強かった


 ユーナーだ。ケルライン達が使用した縄をユーナーも使い、飛び降りてきたのだ


 散々に傷を負わされ、碌に動けない巨人は、落ちてくるユーナーを見上げるしかなかった


 ユーナーは凄まじい形相で雄叫びを上げながら直剣を逆手に持ち

 そのまま巨人の頭へと激突した。分厚い肉と硬い頭蓋を突き破り、脳を破壊したのだった


 「……ユーナー!」


 ケルラインは戦友の名を呼んだ。ユーナーはおまけとばかりに巨人の頭蓋から剣を引き抜き、もう一度突き刺す


 剛腕で鳴らすユーナーだ。それが満身の力を結集して行った攻撃を阻むなど、崩れた肉と割れた骨には土台無理な話だった


 そして巨体は倒れた。ユーナーは地面に投げ出され、大の字に寝転びながら凄まじく荒い息を吐いた


 「ユーナー!」

 「……くっくっく、酒を強請るのは、貴公だぞ、ケルライン……」


 巨人を倒した。人知を超えた怪物を打ち破った。これは竜を倒すのと同じような事ではないか?

 ケルラインは信じられない気持ちだった。絶望に引き攣って強張っていた顔面が、意識しない内に苦笑いの表情を作っていた


 「……あぁ、そうだな。生きて帰れたら、厚かましくもクアンティン王陛下にお願いしようではないか。俺の首を掛けてな」

 「大丈夫だ。王は若くして優れた見識を備えておられる上に、慈悲深い御方だ。……死出の旅の送り酒ぐらい、許してくれよう」

 「あ……? ユーナー? 何を言っている……?」


 大の字に寝そべるユーナー。彼の身に着けたサーコートの首元が変色しているのにケルラインは漸く気付いた


 溜らずユーナーに縋りつき、抱き起す。手甲の指の腹に付着したそれはどう見ても血液だった


 凄まじい量の出血だった。ユーナーのサーコートを引き剥がし、露わになった首元を見ると、鎖骨の辺りに大きな穴が開いていた

 ひゅーひゅーと奇妙な音がする。ひょっとして、息が漏れているのか?


 ケルラインは言葉を失う


 「カルシャが出たのだケルライン。奴は恐ろしく俊敏で、しかも力が強かった。……だが、竜ほど恐ろしくは無かった。だから俺の命は奴を退けるのに使おうと思った」

 「……カルシャ、か」


 やっとの思いで吐き出した言葉にケルラインは歯噛みする。こんな事を言いたい訳ではない

 今までも、竜との戦いで戦友を看取った事はあった。何時もこうなのだ。勇者を送るのに相応しい言葉を導き出すのに、酷く苦労する


 「俺と司教殿でな。だから見ろケルライン。カルシャを討ち果たす事までは出来なかったが、死者達は皆元の物言わぬ骸に戻ったはずだ。……大殊勲だ。そうだろ?」


 ケルラインは言われて気付いた。戦いの音は止み、人の上げる鬨の声が聞こえる

 力に満ちた雄叫び。勝利を満天下に宣言し、誇る為の声が


 凄まじい勢いでアッズワースに攻め寄せた死体の群れは、今や全てが倒れ伏しピクリとも動かない


 ケルラインが何も言えないでいると、背後で門が開き始める。首だけで振り返った先にはルーベニーが居た。それに続くように、トリニト


 ルーベニーはケルラインの隣に膝をつくと、ユーナーの傷口に手を当てる


 「ケルライン様、御無事で。……では、ユーナー様の魂を安らかに……」


 ケルラインは目を剥いた。己の耳を疑った程だ

 ケルラインにユーナーを看取るのではなく殺せと言っている。何故だ、とケルラインが問う前に、ルーベニーは話し始める


 「ユーナー様はカルシャの呪いの針を受けてしまいました。このまま息絶えれば人の血肉を求める魔物へと成り果てるでしょう」

 「残念だが本当のようだケルライン。部下もカルシャにやられたが、真っ黒な血を吐いて起き上がり、私に襲い掛かってきた。……ユーナーもそうなるだろう」


 すぅ、とケルラインは深呼吸する。空を見れば心が落ち着くような気がした

 天は良いな、とケルラインは思った。天は常に変わらない。矮小な我ら人間が如何に悩み、もがいていたとしても、まるで意に介さず其処にある


 「ユーナー、俺は誇らしい。貴公ほどの勇者の尊厳を守る役目を与えられた」

 「あぁ」

 「何か、あるか」


 既にユーナーは体力の限界にあるようで、眠るように目を閉じながら呟くように言葉を発していた


 「無い。どうせ、なぁ、ケルライン。これから先も共に戦うのだ」


 それきり口も閉じてしまう

 ルーベニーの差し出してきた装飾の施された短剣を握り、ケルラインは祈りを捧げる


 「そうだな。俺としたことが……すっかり失念していた……」


 ケルラインはユーナーの胸当てを取り除き、短剣を出来るだけ優しく滑り込ませた


 ユーナーの肉体が二度痙攣し強張る。するとその身体が青い霧の如き光に包まれ、燐光が瞬く

 光はユーナーの身体を離れ、空中で人型を成した。人一倍鍛えられた上半身に、太い首、太い顎の大柄な騎士の姿


 人型は自らの胸を叩いたかと思うと形を失い、ケルラインの傍らに転がるカラド黒鉄の斧槍へと吸い込まれていく。正確には、斧槍に括り付けられたドラゴンアイの紋章旗にだ

 ケルラインは一言も発さず目を閉じ、俯いていた


 友よ


 「ケルライン様……」

 「任務は成し遂げる。“どんな犠牲を払おうと”」

 「はい」

 「有言実行は騎士ユーナーの美点だな」

 「……はい」


 気付けば周囲をアッズワースの戦士たちが取り囲んでいた

 皆大小様々な傷を負い、疲れ果てた表情でいる。たった一夜の防衛戦で力を極限まで使い果たしていた


 トリニトが剣を抜いて、アメデューを顎でしゃくる。意識を取り戻したティタンに肩を貸していたアメデューは自らもトリニトに習い剣を抜くとそれを天へと掲げた


 「死した者達に」


 その場に居た全ての物は目を閉じ、刃を天へと掲げ、祈った



――



 夜明けと共にルーベニーはアッズワースを旅立った。神の戦士である神殿騎士達を呼集し、取り逃したカルシャを追うらしい

 ルーベニーは最後までケルラインの身を案じていた。有難いと同時に申し訳なくもある


 どれ程自重するように言われても、そう上手く行かない物だ



 今ケルラインは傭兵ティタンの案内を受け風精の祭壇へと到着した。レイヒノムの神官ならば場所を知っているとインラ・ヴォアは言っていたが、アッズワースの事はアッズワースの人間の方がより詳しかった


 ケルラインは赤羽鳥の像に魔方陣の羊皮紙を捧げる。長い間人の手が入らず、朽ち果てた祭壇の中で、風が唸った



 ケルラインは耳を塞いだ。祭壇は切り立った崖の上に作られており、周囲の谷間を風が走り、不思議な音を作り出していた

 その風の音が痛いほどに鼓膜を叩いたのだ。耳を塞ぎ、歯を食いしばったケルラインはその時、全く別の何かを聞く


 「……声、か? 風精ビオなのか?」

 「―――!」


 誰かが何かを叫んだような気がして、ケルラインは後ろを振り返る。其処にはティタンと護衛の兵達が居り、ケルラインと同様に耳を塞いでいる


 彼等ではない。ではやはり、風精ビオだ


 「風精ビオ! 古の盟約を結び直したい! 我等の前に姿を現したまえ!」


 風が鳴いた。そうとしか表現出来なかった


 そしてケルラインは耳元で不思議な声を聴く。男のようにも女のようにも聞こえる声だ。高いようで低く、低いようで高い、今まで聞いた事も無いような声を


 「風は何処にでもあるだろう。私は何時も君の前に居るのだ、人間」

 「……! ではそのままで構わない! インラ・ヴォアの助言によりここへ来た! 我が名はケルライン・アバヌーク! 全く新しき竜狩りの騎士!」


 次の声は背後から聞こえてきた。耳元で囁くようだった声が背後に回り込み、悪戯小僧のような笑い声と共にケルラインを囃し立てる


 「インラ・ヴォア! あの哀れな女はまだ竜狩りなんて続けているのか! 本当にでしゃばりで、お節介な、鬱陶しい子だな!」


 ケルラインはすぐさま否定の声を上げる。インラ・ヴォアは同盟と言った。ならば立場は対等の筈だ


 「本人の居ない場所で侮辱するのは卑怯だと思うが?!」

 「え? 人間は陰口が大好きだと思っていた。違うんだな」

 「少なくとも俺は好かない!」

 「そのようだな、人間。……実はずっと見ていた、君の事は」


 声がまたもや移動する。今度はケルラインの真正面。強い風が巻き起こりケルラインに吹き付けたが、ケルラインは必死に前を睨み付けた


 赤羽鳥の石像に亀裂が入る。それはあっという間に石像全体に広がり、とうとう音を立てて崩れ去った


 中から出てきたのは赤羽鳥そのものだった。赤い尾を持つ風の鳥。風精ビオの化身であった


 「人間は目に見える物しか信じられない不自由な生き物だ。だから面と向かって話そうじゃないか」


 風が止む。風精ビオを讃え上げるかのように山に、谷に吹き付けていた風が嘘のように無くなる


 ケルラインは嘴で毛繕いするビオにゆっくりと近付いた。ビオは紅玉石のような美しい瞳を瞬かせる


 「……風精ビオと言うのはどういった存在かと思っていたが」

 「思っていたよりもちっぽけでがっかりしたか? 卑近的な存在で済まないが、神々のように勿体付けて、出し惜しみして、出不精なのは好きではないんだ」

 「いや、そうでは無いが、喋る鳥と言うのを見た事が無かった」


 日頃ケルライン達が一心に祈りを捧げる神々に対し、よくもまぁ言ってくれる物だ


 しかし風精ビオは超常の存在だ。全く未知の相手なのだ。咎める言葉をケルラインは持っていない


 「手を貸してほしい。竜を打倒したい」

 「……あぁ、そうだね。君はその為に態々こんな寒い所まで来たんだ。困難を打ち払い、険しい山野を超えて。友の死をも」

 「既に大勢死んでいる。このままではもっと死ぬだろう」

 「解っているとも。全て昔と変わらないままだ。恐ろしき物が飛び、人間は右往左往し、……そして勇気を振り絞って、戦うのだよな」


 ビオが鳴いた。ビオが鳴くと言う事は風が鳴くと言う事だった

 止んだ風が勢いを増して吹き付ける。思わず身を屈めるケルライン達を尻目に、風精ビオは天高く舞い上がった


 「ならば人間! 古臭い盟約を今再び思い出し、加護を授けよう! 竜と戦う全ての戦士の矢に風精ビオの加護を! 竜は思い出す筈だ! かつて人間と力を合わせた、自分達を酷く痛めつけた怖い存在が、未だ生き残っている事を! 自分達が絶対強者でなど、ありはしないと言う事を!」


 響く声だけを残しビオは飛び去っていく。追う術は無い。ケルラインには翼は生えていない


 ただ見送るしかなかった。ケルラインは目を閉じ、ユーナーを思った


 「任務を果たせたのか、俺は」


 神ならぬ人の身では、ビオの言葉をただ信じるしかなかった



――



 王都へと帰還し王への拝謁を許されたケルラインは、任務の成功と騎士ユーナーがどれ程勇敢であり、また滅私の心を持ってクラウグスへ尽くしたかを伝えた


 クアンティンは頷き、アッズワースとユーナーの勇戦を讃えた。ユーナーの働きは特に認められ、クアンティンは特別な名誉を考え、授ける事を明言した


 ケルラインは続いてユーナーの死に様を彼の家族と原隊に直接報告したいと申し出た。竜への対抗策を練る為時間は幾らあっても足りなかったが、その程度の事はしたかった


 クアンティンは目を伏せ、許可しなかった。正確には不可能だと告げた


 「騎士ユーナー所属していた隊は竜の現れた日に全滅した。生き残ったのは騎士ユーナーだけだ。また騎士ユーナーの家族も、竜に殺された。全てを失って尚、騎士ユーナーは騎士ケルラインを助けるための旅に志願したのだ」


 クアンティンの厳かな言葉にケルラインは瞑目した


 食い縛った歯の隙間から、嗚咽の漏れる思いであった。震える声でクアンティンに酒の下賜を願い、クアンティンはそれを受け入れた



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