みんなみんな生きているんだケダモノなんだ。
ぼくは庭を独りで歩いていた。
他のみんなはお姉ちゃんのところにいる。
お姉ちゃんは病気なのだ。とても重い病気らしくて、死んじゃうかもしれない。
今はお家で家族に看病してもらっている。
ぼくはお姉ちゃんを看病することもできないし、なんとなくお家にいるのも居心地が悪かったのでお家からでた。
風が強い。木枯らしと呼ばれる風だとぼくは思った。
蔵を見つけたので、ぼくは近づいた。
蔵の重そうな扉は開いていて、中に入ることができた。
ぼくは面白そうだと思って、迷わず入った。
蔵の中は薄暗くて、埃っぽかった。
なんだか、壺とかがたくさん置いてあった。
うろうろ歩き回っていると、蔵の床にノートが落ちているのに気付いた。
ぼくはノートを開いた。ぼくだってある程度成長したし、お父さんやお母さんが教えてくれたから、文字を読めるようになったのだ。でもぼくぐらいの歳で文字が読めるというのは、珍しいらしい。
そこに書かれていたのは、一匹の猫のお話だった。
◇ ◇ ◇
あるところに、人間のタロウと猫のタマが暮らしていました。
タマは元々野良猫だったのですが、飢えて死んでしまいそうになっていたところを心優しいタロウに拾われ、それからずっと楽しく暮らしていました。
タマは普通の猫ではありませんでした。タマは人間の言葉を話し、理解することができるのです。人間の言葉や文字を理解することができる猫は珍しくないのですが、話せる猫はとても少ないのです。
タマが言葉を話せるため、タロウとは時々ケンカしたり、ある時はタマがタロウの悩みを聞いてあげることもありました。
タロウにとって、タマは唯一無二の大切な存在でした。
しかし、タマは年老いた猫でした。死期が近づいていたのです。
猫は死んだ姿を人間に見せないと言われています。タマもそうでした。
自分の死期を悟ったタマは、ある日、タロウに気付かれないように家を抜け出しました。
しかし、長い間一緒にいたタロウは、タマが抜け出したことにすぐに気付きました。
タロウは家を飛び出し、タマを探しました。
空風がタロウの体を冷やします。それでもタロウはタマを探し続けました。
タロウの頭の中ではある疑問が浮かんでしました。
――何故、タマは僕の前からいなくなったのだろう?
タロウも死期が近づいた猫の習性は知っていましたが、それでも納得できませんでした。
タロウとタマは家族同然でした。タロウはタマが死んでしまった時は、自らの手で埋葬しようとしていました。それがタマに対する恩返しだと思っていました。
タロウは町中を何時間にも渡ってタマを探し続けました。
そしてやっとタロウはタマを見つけました。タマはよろよろと、森の近くを歩いていました。とても弱っているようでした。その森は野良猫がたくさん住み着いていることが知られていました。タマを拾ったのも、この森の近くでした。
タロウがタマに駆け寄ろうとすると、タマは遂にバタッと倒れてしまいました。
「............タマ!」
タマにタロウは駆け寄ります。
タマは生き絶えていました。
タロウは人目も憚らず泣いてしまいました。
タマとの思い出が何度も何度もフラッシュバックし、涙が止めどなく流れました。
やっと涙が止まり、タロウはタマを埋葬しようとしました。
すると、森の中から三匹の野良猫が現れました。
一匹がタロウに言います。三匹とも、タマと同じように話すことのできる猫でした。
『それは俺たちのものだ』
「え?」
そして、三匹の猫はズルズルとタマの亡骸を引きずって森の中に入っていきます。
タロウは思いました。
――そうか。この三匹はタマの昔の仲間で、タマを埋葬しようとしてるんだ。
タロウは三匹の後についていきました。
森の奥の奥の深いところに、タロウと三匹の猫は行きました。
『よし、始めようか』
一匹の猫がそう言い、他の猫は頷きました。
そして、三匹の猫は――
タマの亡骸を――
――喰べ始めました。
「............なっ!?」
猫たちは牙を使って、タマの肉を喰いちぎり、タマの亡骸を自らの胃袋に詰め込んでいきます。
一匹はタマの腹を――
一匹はタマの足を――
一匹はタマの首を――
むしゃむしゃと、がつがつと、ばくばくと、喰べ続けました。
猫たちの口はタマの血液で赤く、赤くなっていきます。
タロウは、動くことができませんでした。
金縛りにでも遭ったように、動けませんでした。
しかし頭の中は、ぐるぐると混乱していました。
猫たちは、相変わらずタマを喰べ続けます。タマの体は骨が見えるほどになっていました。
三匹に躊躇いはありませんでした。
「............君たちは、何を、しているんだ?」
やっと、やっと、タロウは猫に訊きました。
『何を?』
「そうだよ!! 何で君たちは、タマの体を――?」
すると、猫たちはは何てこともないように答えました。
『『『お腹が減っているからだよ』』』
三匹は同時に答えました。
「お腹が減っていたら、君たちは仲間を食べるのか?」
『確かに、これは仲間だったさ。でもね、死んでしまったからね』
「死んでしまったら、君たちは仲間を食べるのかい?!」
『そうだよ。だって死んだなら、これは食べ物なんだよ。お肉だよ。君も喰べないかい? 美味しいよ』
そう言って、猫たちは、またむしゃむしゃと、がつがつと、ばくばくと、タマを喰べ続けました。
タロウはその場から逃げ出しました。
おしまい。
◇ ◇ ◇
へえ。
ぼくは感心した。
猫は死んだ仲間を喰べるのか。
ぼくはノートを床に置き、蔵からでた。
するとお兄ちゃんが近づいてきた。ぼくを探していたらしい。
お兄ちゃんが、お姉ちゃんが死んでしまったことをぼくに伝えた。
『おい、姉貴のところへ行くぞ』
お兄ちゃんがぼくに言った。お兄ちゃんはぼくと違って、話すことができるのだ。
ああ。
ということは今から、ぼくはお姉ちゃんを喰べるんだろうな。そう言えばお腹が減っていた。
――ぼくも、お姉ちゃんも、お兄ちゃんも、みんなみんな、猫なんだから。
一応の補足説明です。蛇足に相応しい駄文。
《ぼく》や《お兄ちゃん》、《お姉ちゃん》はみんな猫です。《お家》というのは猫にとっての《家》であり、あえて《一人》ではなく《独り》を使ってみたり、猫だと届かないから床にノートを置いてみたりしてます。さらに猫が話すことができたり、文字を読めるのはというのは特殊な設定ですが、童話内で説明がされています。屁理屈みたいですが、すいません。
そして最後に猫をこよなく愛している人、そして嫌な気持ちになった人、ご容赦下さい。