[第八話]四枚の花
「まるお...お前、花びらが、4枚に...」
「これー?朝になったらね、1枚落ちてたよ!」
まるおは、たいして気にしていないといった表情で、落ちた花びらを一枚拾って、「ほら!」と言ってこちらに差し出してきた。
俺はその花びらをみて、あのヒゲ妖精の言葉を思い出した。
『その花は、花びらが5枚あるじゃろう。その花びらに命...というよりは、“寿命を吹き込んだ”と言えばわかりやすいかのぉ?
花びらは1ヶ月経つと1枚散る。つまり、5ヶ月の命じゃな。ふぉふぉふぉ、だいぶ長く楽しめるじゃろ?』
そうか...そういえば、こいつと出会って、もう1ヶ月たっていたのか。
こいつといるのも5ヶ月の辛抱、と思っていたが、すでに残り4ヶ月。
まるおのわがままを聞くのも、人目から隔離するのも大変だったが、この調子ならなんとかやっていけそうだ。
「ああーー!!時はながーーれーーすぎさりーー、過去はいつのまにかーー」
「おい!!だから家の中で大声で歌うな!」
まるおはマイクを持っていないのに、まるで”エアーマイク”を持ってるかのごとくポーズをして、気持ちよく歌っている。
「だってね、カラオケすっごく楽しかったから!!歌うの楽しいよー!そうだ!今日もカラオケ行こうよ!」
「おいおい勘弁してくれよ...俺は金欠なんだよ...」
はあ、とため息をついて、まるおの意識が何か別のものに行くように、俺はテレビをつけた。
まるおは音楽同様テレビも好きで、気になる番組がやっていれば歌も止めるだろう。
案の定、まるおの興味は歌からテレビへと移った。
「ねえねえ、このテレビでやってる、ぼーりんぐ?この遊び楽しそう!」
テレビでは地元特集の番組が放送されており、地元の遊び場としてボーリングが紹介されている。
大勢の人がピンを倒して騒いでいる映像が流れている。まるおにとっては初めての光景。当然、興味深々だ。
「お前の非力さだと、多分、ボーリングの球は持てないだろうな」
その言葉を聞くと、まるおは少しむっとして、そばにあったエアコンのリモコンに駆け寄った。
両手(というか両サイドの茎)でリモコンを持ち上げ、「見てみてー!」とこちらに“重いもの、僕、持てますよ”アピールをしてくる。
...リモコンとボーリングの球を同じ重さだと思っているのだろうか...
「あ!!」
俺はリモコンをヒョイっと持ち上げると、それにぶらさがってるまるおが「あはは!!なにこれ!浮いてる浮いてるーー」とのんきに楽しんでいる。
「俺だったら片手で簡単に持てる軽さだな。このリモコンですら片手で待てないお前には、ボーリングは無理だぞ」
「そっかぁ...そんなに重いんだね...それならボーリングは無理かぁ...」
...まあ、仮にものすごい軽い球があったところで、ボーリングは、あまりにも人目につく場所だから連れて行けないけどな、ということは心にそっとしまっておこう。
テレビではボーリングの特集か終わって、次は地元の小さなふれあい動物園の紹介動画が流れる。
「たけー!見て〜、色んな生き物がたくさんいるよ!僕、会ってたくさんお話ししてみたい!!」
「お話しする前に踏み潰されて終わりだろうな」
「い、いやだよそんなのー!!」
まるおはムンクのような表情で叫んでいる。
このふれあい動物にそこまで凶暴な動物はいない。
が、まるおの体からしたらウサギもモルモットもかなりでかい動物のはずだが、なぜ踏み潰されると危機意識がないのだろう。どこまでも呑気なやつだ...
しばらくするとふれあい動物園の紹介は終わり、今度はプラネタリウムの紹介が始まった。
「プラネタリウムかぁ。やっぱいいよな、こういう静かで綺麗で落ち着いたところ。ここなら一緒に行ってやってもいいぞ?」
「え、これ何が楽しいの?」
「............まあ、風情がないお前には、プラネタリウムの良さが分からないかもな」
「風情があれば楽しいんだね!その“風情”は、どこで買えるの?」
「...」
ダメだ、こいつと真面目に話そうとすると脳が感じたことのない疲労感に襲われる...
「あ、そういえば僕ね、植物園に行きたい!こないだ別のテレビ番組でやってたの!」
...植物園、か。
植物園なら、平日であれば人もそこまで多くない。
前に花屋に行った時と同じように、バックの中にまるおを入れて、その隙間からのぞいてもらえばそれで十分楽しめるだろう。
ボーリングや動物園よりはマシだな。
「まあ、わかったよ。いつかな、そのうち一緒に植物園に行ってやるよ」
「やったー!」
まるおは、さながらスケート選手のように、綺麗な一回転ジャンプしながら喜んでいる。
喜ぶといつも踊ったり、跳ねたり、分かりやすいやつだ。
「だから、今日は我慢して大人しく家にいろよ」
「うん、分かった!大人しく家で歌っておくね!!」
「え?」
「あーーー君の声はーーーーもうとーどかなーーーいーー!!!!!」
部屋中にまるおの大きな声が響き渡り、俺はとっさに耳を塞ぎながらこう叫んだ。
「全然大人しくねーだろ!!」




