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[第七話]カラオケの花

「見て見て〜たけ!ここがカラオケのお部屋?これが、まいく?っていうモノ?あ、あの大きなスマホみたいなの、なーにぃー?」


「おいおい...あまりはしゃぐなよ」


今日は、まるおと2人でカラオケに来ている。


なぜこいつとカラオケに来ているかと言うと、

意外なことにも、まるおは音楽がかなり好きだ。


最初は音楽というものを認識さえしていなかったが、俺がスマホから色々な曲を聴いているところを何度も耳にして、「歌」というものを覚えていった。

耳も生えてないはずなのに一体どこから聴いているんだか...


覚えた歌を、昼夜時間問わず、俺の近くで大声で歌うもんだから、昼寝も夜寝もできやしねぇ。


少しは静かにしろと叱ったが、まるおは「やだー!思いっきり歌いたいよー!!」なんて駄々をこね暴れて、俺の大事な枕の上に土をばら撒いたため、今日カラオケに行く代わりに普段は静かにしとく、という条件でここに来た。


ここは駅から少し離れた寂れたカラオケ屋だ。

駅近にも大きなカラオケ屋があるのに、わざわざ、こんな寂れたカラオケ屋に来たのは理由がある。


このカラオケ屋は、かなり古くからあるお店で、店内はお世辞にも綺麗とは言えない。店内のセキュリティも昔のまま更新されておらず、この店には監視カメラがない。

そう、つまりこの「監視カメラのない寂れたカラオケ屋」なら、まるおが歌っているところもバレないため、このカラオケ屋を選んだ。


ドアの中央部分には、透明な部分があり、外側から中の一部が見えてしまうようになっているが、それもすでに対策済み。

俺のコートをドアにひっかけ、外から中が見えないことを確認したのち、俺は歌の準備を始めた。


まるおのために、仕方なく来たと言ったが、俺も歌うのは、かなり好きな方だ。昔は友人とよくカラオケに来ていた。


さあ、これからは、久々の楽しいカラオケの時間だ。


まず、一曲目はまるおの番。

まるおは、マイクをぎゅっと握り、口を大きく開いた。



「ああああああ、あいじでるぼくのごのこえでぇええんえんえんええ」


(ああああくそ!!そうなんだよ、そうなんだよこいつ!!いつもそうだけど、マジでリズムも音程も終わってるんだよ!頭が割れそうだぁぁああ)


音程、リズム感...こいつの音楽を成績表で評価するなら間違いなく5段階評価の「1」、いやもはや「-5」に値するレベルの歌だ。

まあ、まるおは音楽の授業なんて受けたことがないのだから、この結果は当然と言えば当然なのだろうが...


この狭い密室で、大音量で聴くのは俺の寿命に響きそうだ。

俺はまるおにバレないように、そっとマイクの音量下げた。


「うおおん、うおうお!YEAH!いえい!!あー!!」


すまし顔で歌いながら、全く音楽と合っていないリズムで腰(というか、茎)をくねくね動かしている。

たまに俺の方を見ながら「どう?うまいでしょ?」と言わんばかりのドヤ顔ウインクをかましてくる。

...カラオケでここまで殺意が湧いてきたのは初めてだ。


まるおが一曲歌い終えてマイクを置いたところで、俺はまるおに話しかけた。


「お前さ、全体的に音程もリズムもボロボロだけど、サビが特に酷いぞ。この曲のサビの音程とリズムはこうだよ」

俺はその場でサビ部分だけアカペラで歌ってみせた。


まるおも、俺を見て真似して歌ってみたが、やはり音程もリズムも合っていない。


「違う、音程はもっと高い。もっと高くださないと」


「うーん難しいなぁ。だってそんなに高い音でないよー」


「それは最初から高い声で歌ってるからだ。この歌はサビで高くなるから、AメロやBメロで高くしてたらさらにサビであげなくてはいけない。

最初から低いトーンで歌っていれば、そこまで難しくない、歌いやすい方の歌だぞ。

それかもしくは、サビで1オクターブ下げて歌うかだな」

 

「Aメロ?Bメロ?オクターブ?うーん、うーん、難しいよお...」


まるおは頭を抱えてうーん、うーんと唸り始めた。


「音程が難しいなら、まずリズムを取れるようになったらいい。ほら、ここにメトロノーム持ってきたから、この音に合わせて体を揺らして見ろ」


今日のためにわざわざ買った、小さい電子メトロノームをかばんから出して机に置いた。

電源ボタンを押してテンポを決めると、メトロノームは規則正しいリズムを刻み始めた。


まるおはリズムとはまったく違うテンポで体をくねくね動かしている。


俺はリズムに合わせながら手拍子を始めた。


「はい!はい!このリズム!!おい、ズレてるぞ!」


「うーん、うーん...」


「はい!はい!全然ダメ!ずれてる!次ずれたらお前の根っこを一本ずつ引きちぎるぞ!」


「僕の根っこになんの恨みが!!??」


まるおは必死にリズムを掴もうとしているが、なかなかメトロノームと合わない。

何度も何度も練習して、まるおは少し疲れた顔をしていた。




“それってさ、たけるが「優しさ」で注意してるんじゃなくて、相手の出来ないところを注意して満足してる、ただの「自己満」でしょ?”


ああ、くそ。最近、人と関わることなんてろくに無かったから、思い出すこともなかったのに、こいつ、まるおと暮らしてから嫌でも昔の言葉を思い出すようになってきた。


俺より勉強ができなかった友人。

俺より歌が下手だった友人。

俺より運動ができなかった友人。


俺は元々、才能があってなんでも「できる」タイプじゃなくて、「努力してできる」タイプだった。

勉強も、歌も、運動も、最初はむしろ誰よりもできなかった。俺はそれを努力でどうにかした。


だから、俺の友人にも教えたかった。「できない」ことが「できること」になる楽しさを。


“できないままでもいいでしょ。出来るようにならなければいけないって、それはただの君の押し付けでしょ?”



・・・、そう、かもしれない。

俺は、自分ができることは、出来ない相手にどうやってやるか教える、それが他人のためになると思っていた。

でも、それは間違いで、別に「できないまま」でもいいのかもしれない。



音楽は自由だ。別に自分が音痴だったとしても、気持ちよく歌えればそれでいいじゃないか。


「なあ、まるお。色々言ったけど、好きに歌うのが1番だから、あまり気にしないでくれ...悪かった」


まるおからの返事はない。ただメトロノームの規則正しい音だけが部屋に響いている。


「...まるお?」


...怒らせてしまっただろうか。

不安になりながらまるおに目を向けると、

まるおはメトロノームのリズムに合わせて体を上下に揺らしている。


「みてみて〜たけ!!これが“リズムに合わせる”ってことなんだね!すごいよ!リズムと合うと、こんなに楽しいんだね!!!」



「......!!そう、そうだろ!俺も練習して出来るようになったんだけど、出来たらめっちゃ気持ちいいんだよな!!


出来ないままでもいいかもしれないけど、練習してできた瞬間がたまらないっていうか...この気持ち分かる!?」


俺は興奮してとても早口になってしまった。


...ああ、まずい、こんな言い方じゃ、まるで俺の意見の押し付けになってしまう...


俺は不安気に顔をそっとあげて、まるおの顔を見上げた。


「うん!!!わかる!!めっちゃ楽しいね!!」

まるおはキラキラした笑顔で、リズムに合わせて楽しそうに踊っている。


...あぁ。

自分の楽しい気持ち、嬉しい気持ち。

これを共感してくれる「誰か」がいると、こんなにも楽しいんだな...


「よし、次は俺が歌う...ってあれ?曲の予約がすでに20件入っているんだが...」


「え?それは僕が全部入れたよ!たくさん歌いたいもん!!」


「...俺の分も考えろ!!!」


三時間で予約していたカラオケだったが、俺たち2人の歌いたい曲が尽きなかったため、その日はフリータイムに変更になった。


久々に歌い尽くして、家に帰った後は疲れ果ててすぐに爆睡していた。

次の日、起きた時間は昼の12時だった。


俺が目を覚ました時にはもう、すでにまるおの花びらが一つ、なくなっていた。



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