[第六話]命名の花
「そういえば、お前、まだ名前ないだろ。なんて呼ばれたい?」
「え?名前?」
園芸店に行ってから数日後。
俺は毎日こいつとだらだらと過ごしていたが、こいつの名前がないばかりに毎回“花”と呼んでいることに違和感を感じた。
普段、人と喋る時に「おい人間」なんて言うことはもちろんない。
俺がこいつに「おい花」と呼ぶことに違和感を感じるのも、同じ理由だ。
こいつは馬鹿でアホだけど、普通の花と違って言葉を話せる上に、感情をしっかり持っている。
一つの知的生命体と認めて、名前くらいつけてやってもいいんじゃないか。
「名前っていうのは、まあ...花ならお前以外にもたくさんあるだろ?
人間も同じ、何百人も何億人もいるんだよ。それをみんな「人間」と呼んでいたら、区別がつかないだろ?
だから、一人一人に名前をつけているんだ。
俺の名前は華原たける。呼ぶ時は“たけ”でいい。みんなからもそう呼ばれていた。」
「...たけ!たけ!いいね!名前!楽しいね、あれ、僕の名前は?」
「だーかーら、それを今からきめるんだって。なんて呼ばれたいんだ?」
「うーん...何がいいかなぁ〜...」
花は頭を抱えながら、うーんうーん、といい、しばらくずっと考え込んでいる。
まあ、名前というものに対して知識がないんだ。
どんな名前にすればいいか迷うのも当然だろう。
俺もこいつに相応しい名前を考えようとした時、一つの天才的名前がひらめいた。
「そうだな、ゴミのそばに生えてたから、ゴミ臭なんてどうだ?草なだけに最高だろお?」
こいつにはいつもデスクを土で汚されたり、夜中にベッドの横で大声で歌われたり、ゲームのコントローラーを破壊されたり...色々な恨みがあるんだ。
ちょっとくらい嫌味を言っても許されるだろう。
「ごみくさ?うわーそれいいね!いい感じ!」
(こいつに嫌味は通じねーか...)
渾身の嫌味ギャグだったが、どうやらこいつは嫌味を言われていることにすら気がついていないようだ。
ゴミと呼ばれたにも関わらず、こいつが嬉しそうな時にいつも踊る「茎音頭」(命名:俺)という、茎を上下にゆらゆら揺らしながら「えいさ〜ほいさ〜」と言う、不可解な踊りをにこやかにしていやがる。
「あ、待って!やっぱり、僕、名前はたけがいい!」
「たけ!?いやいや、俺と同じだと分かりにくいだろ...」
「えー?同じほうが良いかなって思ったのにー!
たけっていう名前が駄目ならね、僕、“まるお”がいい!」
突然、なんの前触れもなく出てきた「まるお」
そういや、友人が飼っていた、あの人懐っこい芝犬も同じ名前が付いていたな...なんてことを思い出す。
「その...なんで急に、まるお、なんだよ?」
「こないだ行ったお花屋さん、“まんまるおはなてん”って名前なんだよね!たけ言ってたもんね!
だからね、そこから一部取って、僕の名前をまるおにするの!」
「花屋の名前でいいのか?」
「うん!だって初めておでかけした、思い出の場所だもん!」
「...だははっ!!花が花屋を思い出の場所って言ってるの良いな。よし、じゃあお前は今日からまるおだな」
まるおは茎を大きく広げ、鉢からピョーンとジャンプし大喜びしている。
...飛び跳ねた土は誰が片付けるとも知らずに、何度も嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねている。
「わーい!わーい!僕の名前はまるお!まるおだよ〜。よろしくね、たけお!」
「俺の名前もまるお風に変えるんじゃねえよ!」




