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[第五話]おでかけの花

「うーん、どの土が良いか分からないな〜」


「お前が来たいって言ったからわざわざ大きな園芸店に来てやったんだろ...」


今日は喋る花と一緒に、少し遠くの園芸店に来ている。


こないだの「カマゾン爆買い事件」があってから、こいつに勝手にスマホを触らせるのは危険だと判断して、それ以降は一才、触らせていない。


この花に、どんな土が欲しい?と聞いても、具体性のあるものを言わない上に、「実際に見て決めたい」だなんて生意気なことを言うもんだから、仕方なく、今日は有名な園芸店[まんまるお花店]まで来ている。


大きな園芸店ではあるが、今日は平日、水曜日の午前11時。ここが東京のような大都市ならまだしも、幸い、俺の地域ではこの時間には客はほとんどいないようだ。


周りの人にバレないようにショルダーバッグに詰めた花が、隙間からこちらをのぞいている。



「ほら、この土でいいだろ。値段もこの中だと高いから、質も悪くないと思う。」


「うん!なんかよく分からないけど、それでいいよ!」


(...よく分からないなら、俺が適当にオンラインで買ってもよかっただろ...)



「あ!ねえねえ!この鉢かっこいいね!鉢はこれがいい!」


花は興奮気味に、園芸用土売り場の隣にあった鉢を指さしている。


そこには白色のプラスチックの鉢に、緑のドラゴンの模様が描かれた鉢が置いてある。


鉢の下には[龍]という一文字の漢字が刻まれている。


...かなり、イケてる。

俺はこの花をただの馬鹿でうざいやつだと思っていたが、どうやら美的センスだけは恵まれていたようだ。


俺はさっそくこの鉢を取って買い物カゴに入れようとしたところ、後ろから...男子高校生くらいだろうか、少年たちの声が聞こえた。


咄嗟に花をショルダーバッグの奥に詰め込んだ。

花は「ぐぇ!」と変な声を出して中でモゾモゾ動いている。


少年たちは俺が先ほど見ていたドラゴンの鉢を指さしている。


「おい!この鉢見ろよ!」


「だっさーw何これ、ドラゴン柄の鉢じゃん!こんなの買うの中学生までだよなぁ」


「だよなー!しかも鉢の下に安いフォントで「龍」って書いてあるのマジでウケるよな」


「うけるうける〜wこんなダセーの誰が買うんだよw」


そう言って少年たちはさっていった。


鉢を取ろうとしていた、俺の右手は汗だくになっていた。


(...嘘だろ!?これは世間一般的にはかっこよくないのか?『ダサい』物なのか!?

男子中学生しか買わないものなのか?男子中学生専用鉢なのか!?


俺の年齢は27歳。名前は華原たける。この鉢をレジに持って行ったら鼻で笑われる...のか...?『ドラゴンたける』というあだ名を地元でつけられて一生の笑い物にされるのか...?)


俺は汗だくになる体を押さえ、冷静を装いにこやかに笑った。


「あー...まあ、一応、他の店の鉢も見る?もっと良いのあるかもしれないし...」


「えー?やだよ!この鉢が良い!」


「いやぁ、でも...これより、もっとこう、ちゃんとしたデザインのやつあるからさ、このデザインは世間ではダサくて笑われるから...」


「笑われる?」


「だから、これは世間では「ダサい」デザインで、カッコよくないんだよ。買うにしても子供とかが買うもので、俺みたいな大人が買ったら笑われるの」


花は不思議そうな顔で俺を見つめている。


「僕、よく分かんないよ。笑われるとしたら、好きなのものでも買っちゃいけないの?」


「そ、それは...」


“それ、女が好きになるキャラクターじゃん。男のくせになんでつけてんの?”


ふと、昔言われた言葉が頭によぎった。


小学生の頃、とあるアニメに登場するハムスターのキャラクターが好きだった。

別に特段ハムスターという動物が好きだったわけでもないし、可愛いものが好きだったわけでもない。

ただ、なんとなくアニメを見ていて、そのキャラに魅力を感じたからだ。


そのキャラはいわゆる“可愛い”キャラで、基本的には女の子が好きになるようなキャラクターだった。


“男のくせになんで”

“ダッサ”

“男のお前が持つとキモいよ”


ただ好きなキャラクターのキーホルダーをつけているだけなのに、なぜか俺は批判された。

俺は自然と、そのキャラクターが登場するアニメを見なくなった。


周りに否定されて、俺は、大好きだった物を、なぜか好きでいてはいけないような気がした。

嫌いにならなければいけない、そう、思った。


他人と...みんなと、同じにならなければならない、そう...強く、思った。


でも、違うんだ。本当は、大好きだったんだ、あのアニメ。

本当は続きが見たかったし、近くのスーパーで売っていた、あのハムスターの新しいグッズ、本当は、また、買いたかったんだ。




「ごめん。俺が変なこと言った。どうでもいいよな。周りの評価とか。自分の好きなもの買おうぜ」




本当は誰かに、こんな風に、俺の“好き”を認めて欲しかったんだ。



「わーい!!嬉しいな!」


花は茎をふりふりとさせて嬉しそうにしている。

あまりバックから身を出すとバレるからやめてほしい、と思いつつも、

あまりにも嬉しそうに、楽しそうに小躍りするもんだから、少しおかしくて、もっと見ていたくなってしまった。


俺はレジに鉢と土を持っていった。店員さんは手際良く仕事をして、会計を終えた。

俺がドラゴンの鉢を買っても、店員さんは俺を馬鹿にして笑うようなことはしなかった。


「ねえねえ、店員さん、笑ってなかったよー?」


「...あぁ、そうだな」


世間は、俺が思っているほど、俺の行動一つ一つに興味なんてないし、案外どうでもいいのかもしれない...

だったら、別に、俺が好きなものを、好きでいて、いいんだよな。


「なあ...帰りに、ちょっと買いたいキーホルダーあるから、別の店寄ってもいい?」


「わー!楽しそう!!いいよいいよ!ところでキーホルダーってなあに?」



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