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[第十三話]雨の中の花

まるおと初めて会ったごみ置き場。

近所のスーパー、コンビニ。

公園や、近所の植物が多い場所。


酷い雨の中、必死に探したけれども見つからない。


俺は、まるおの行きそうな場所を考え、ふと、思い出した。駅から少し離れているが、一本道に“あの店”がある。


俺は急いで、まるおと一緒に行った、寂れたカラオケ屋に向かった。

傘をさしながら走ると、前がよく見れない。うまく走れない。

俺は傘を閉じて、濡れながら全力で手を振り走り出した。

強い雨音が顔のところどころにぶつかって痛い。衣服が濡れて重く感じる。それでも俺はただひたすらあの店に向かうことだけを考え走り続ける。




カラオケ屋に着いて、すぐに店内に駆け込んだ。

びしょびしょの俺を、受付にいるカラオケ屋のオーナーが怪訝そうな顔で見ている。


「あの...ここに変な花が歩いて来ませんでしたか!?」


オーナーはさらに怪訝そうな顔になり、訳がわからないと言った表情で首を横に振った。


俺はまるおに常々、人には見つかるなよ、と伝えていた。もしかしたら、人目を避けてカラオケ屋には入っていないのかもしれない。


カラオケ屋を出て、付近を調べていく。

すると、カラオケ屋の裏の屋根の下に、小さくなって俯いているまるおがいた。


「まるお!!!」


俺はまるおの元まで走り出した。


「たけ...」


振り向いたまるおの花びらは、3枚あったものが2枚に減っていた。

取れてしまった1枚の花びらは、まるおが握っている。


「強いお水と風が急に降ってきてね、花びら、1つ取れちゃったんだ」


俺の目からは大雨に負けないくらいの大粒の涙がボロボロと流れ出した。


「ごめん、ごめんな、まるお。俺のせいだよ。本当に、ごめん」

俺は、まるおの体を、優しく、傷つかないように、そっと抱きしめた。

まるおの取れてしまった花びらを見ながら、俺はわんわんと泣き喚く。

俺があんなに酷いこと言わなければ。

俺がすぐに追いかけて家に連れ帰っていれば。

まるおの花びらは、まだ3枚あったはずなのに。


「僕ね、歌が歌いたかったんだ。だから、またこのカラオケ屋さんに来たの。でもお金を支払ってからじゃないと、部屋の中で歌えないんだよって、前にたけが教えてくれたよね。


このお店ね、外にいても少し音が聞こえてくるんだ。

たまに僕の知ってる歌が流れてきたから、僕もここで歌っていたの。


でもね、あんまり、楽しくなかったんだ。歌は部屋の中で歌うのが楽しくて、お外で歌うと楽しくないのかなって最初は思ったの。でも、違ったんだ!


隣にね、たけがいないから、楽しくないんだって気がついたの!

1人で歌うよりも、たけと一緒に歌うのが、楽しいんだって!


だからね、たけ、ごめん...僕のこと、もう嫌いかもしれないけど、また一緒に遊んだり、暮らしてくれる?」


俺はまるおの茎をそっと、壊れないように優しく、優しく握った。


「そんなの、当たり前だよ...」


涙でぐちゃぐちゃな顔で、まるおに笑顔を向けながら俺は答えた。


「まるお、ごめんな。俺が悪かった。俺も、お前と一緒じゃないと楽しくない」


「そうなの!?よかった」


「ほら、コンビニでタオルを買ってくるから、もう少しここで待ってて」


「うん!わかったー!」



-------------------------------


コンビニで買ったタオルで、俺はまずまるおの体を拭いた。人間の俺よりも細くて、強く触ると千切れてしまいそうな体をしている。

赤子を扱うように、まるおの体を優しくタオルで包み込んだ。


俺も自分の体を拭き、家に帰ろうとしたが、雨は少しマシになったがまだまだ強い風が吹いている。


俺はともかく、まるおにとっては危ない状況だ。

もうしばらくこの屋根の下にいることにしよう。


そう決意し、壁に持たれかかると、カラオケ屋から、俺とまるおの知っている曲が流れ始めた。

まるおはその曲を聴いて、楽しそう歌を歌い始めた。

つられて俺も歌い出す。

カラオケ屋はすぐそこにあるのに、中には入らず、マイクも持たずに2人で歌った。

相変わらずまるおは歌は上手くない。でも、俺はこの瞬間、この時間だけは、世界の誰よりも「今」を楽しんでいる自信がある。


曲が終わり、まるおは満足そうな顔をしている。


その後も何曲か知っている歌が流れるたびに一緒に歌っていたら、気がついたら強風はすっかり止んでいた。


先程まで暗い色だった空は少しずつ明るさを取り戻している。俺は空を眺めながらまるおに語りかけた。


「まるお、俺は、本当はな、今の貯金がなくなったら、もう、終わりにしようと思ってたんだ。


俺はこう見えてな、昔は結構真面目だったんだ。大人の言うことちゃんと聞いて、真面目に勉強して、ルールを守って。“いい子”にしてたんだよ。ずっと。


でも、大人の世界になったら“いい子”はただの“都合のいい子”でしかないんだって気づいたんだ。

バカ正直者でうまい嘘もつけねーやつは嫌われるし、

なんでも言うこと聞いて必死にやってても、それは仕事ができるやつ、じゃなくてなんでも言うことを聞いてくれる都合のいいやつ、なんだ。


仕事でどん底の時に両親が事故でなくなって、遺産はたんまり入ってきたよ。こんな金いらないから、両親が帰ってくる方がよっぽど良かったけどな。

でも、そのお金で夢だった店を開こうと思って。

友人と一緒に店を始める予定だったが、まあ俺がバカだった。人を疑うことをろくに学んでこなかったんだ。

資金のほとんどをその友人に持ち逃げされちゃったよ。


それでも働いてた頃の貯金と親の遺産がまだ少し残っていたから、なんとか節約しながら暮らすことが出来たけどな。

でも、もしこの貯金が底を尽きたら、別にもう、俺は俺を、終わらせてもいいかなって、思ってたんだ。


けど、俺、今はお前とこうして歌って、すごく、すごく楽しかったよ。

明日明後日、もっと先の未来、明るい気持ちでずっと生きていけるかなんて分からないけれども、少なくても今はお前とこうしてまた会えて、歌えてよかった。


何か人生に意味や大義が、見つけたわけじゃないんだ。生きる目標とか、そんなものが見つかったわけでもない。

ただこの日常が、また明日も続いて欲しい。そう思ったから、俺はまた頑張ろうかなって、思えたんだ。


まるお、ありがとう」


まるおはキョトンとした顔をしている。

俺の言葉はまるおにとっては少し難しかったのだろう。

きっと、全てを理解したわけじゃない。


それでもまるおは、まるでキラキラ輝く宝石のような、眩しいほどの満面の笑みをして答えた。


「僕も!!僕もまた、今日みたいな明日が続いたら嬉しいよ!!だから、たけ!!いつもありがとう!!」


そうして俺たちは、2人で家に帰った。

空はもう、雲ひとつない、青空が広がっていた。




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