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[第十一話]遊びたい花

「はあ...またお祈りメールか...」


インフルエンザが治り、俺はおよそ3年ぶりとなる就職活動を始めた。

3年間、働きもせずだらだらと過ごしていたため、当然どこも通らない...面接どころか、書類選考すら通っていない。


それでも諦めず、何度も何度も求人に応募している。

職種にこだわりはないが、在宅勤務が可能な会社がいい。まるおを1人家に残すわけにはいかない。


朝から晩までずっと求人を探して、空いている時間に面接対策の練習をして...最近は、一日中就職のことばかり考えている。


「疲れた...」


俺は、いまさら、なぜこんなに頑張っているんだろうか。

頑張ることはもう3年前に辞めたはずなのに。


まるおの花びらは残り3枚。

つまり、まるおがこの世からいなくなるまであと3ヶ月。たったの、3ヶ月しかないんだ。


せめてあいつが行きたい場所にたくさん行かせてやりたい。カラオケ以外にも、あいつがやりたいことをたくさんやらせてあげたい。


それに、あいつはベランダで過ごすよりも部屋の中で遊ぶ方が好きだ。

室内で暮らすなら、日光不足になる。高い植物用ライトを買わなければならない。

土も、まるおが今使っているものは安物だ。もっと高級な土を買ってやろう。

そうしたら...そうしたら、もしかしたら、寿命も伸びるかもしれない。


俺は、まるおとのこの日常を、終わらせたくない。



働かなくとも、貯金はある。が、それは最低限の生活をあと数ヶ月か一年程度できるだけの貯金だ。


金がいる。

まるおの好きな場所にたくさん行くことも、まるおの住処を快適にするにも、とにかく、金がいるんだ。




その決意を胸に、俺は3年ぶりに就職活動を始めた。


すぐにお金が欲しい。


受かれば即日働けるという条件の正社員から、お金は少ないがある程度自由に働けるバイトまで幅広く探している。

しかし、やはり3年のブランクと在宅勤務という条件、かつ給料も安くないところを探しているため、まったく受からない。


頭を抱えていると、スマホからピコンとメールの通知音が聞こえた。

通知の内容を確認すると、一件だけ書類選考が通り面接まで進んだとのこと。正社員ではないが、即日働ける派遣社員の求人で、在宅勤務の事務職、給料も悪くない。


「よっしゃっ!!」


俺は大声を出しながら両手を上げてガッツポーズをした。

その後、派遣の担当者と連絡をし、明日すぐに面接をすることが決まった。


「たけー!!遊んでよー!」

まるおは俺の服を掴んで、ちょいちょいと引っ張っている。


「悪い、俺、今日は忙しいから。急遽明日面接が入ったから、対策を練らないと」


「めんせつってなあに?」


「とにかく大事なことだよ。遊びはまた今度な」

まるおは遊べないことで不満げな顔でこちらを見てくる。

もちろん、俺だってまるおと遊びたくないわけじゃない。だが、このチャンスを逃したくない。

不満げなまるおをよそに、俺は面接対策の動画や面接する会社のホームページを何度も何度も見返した。






「君さ、3年も働かずにさ、何してたの?」


「それは...前の会社やプライベートで、少し落ち込むことがありまして...」


「いやいや、落ち込んで3年も働かないって...子供じゃないんだからさ、社会、なめてるの?」


「......いえ...そんなことは...」


「体型も結構太ってるね〜...まあ、ずっと家にいて運動もしてないんだから、そりゃ太るよね」



面接官は年老いた男性と、若い女性の2人だった。

若い女性はごくたまに質問をするだけで、基本的には手元のメモ用紙に何かをずっとメモしている。

対して男性は、口を開けば俺を否定する言葉ばかりを投げかけてきた。


傷つくな。笑顔で。笑顔でいろ。


面接の30分間、たとえどんな言葉を言われても、俺はずっと笑顔で、耐えていた。


しかし、結果は、不合格。面接には受からなかった。


スマホを見ると、別の会社の書類選考のお祈りメールが何件か来ていた。そもそもお祈りメールすら、こない会社もたくさんある。


俺は多くの会社から、社会から「NO」を突きつけられている。


それは俺が3年働いていないからなのか。

...いや、俺は前の職場でも、「NO」を突きつけられることが多かった。

働いてる、働いていないの問題じゃないのかもしれない。

俺自身が、社会から必要とされてない、「NO」の存在なのかもしれない。


それなのに、俺はなぜ、頑張ろうとしているのだろうか。


「たけ!遊ぼうよ!」

まるおがトランプを掲げながら近寄ってきた。


「...今日はちょっと...忙しいから」


「えー!!最近遊んでくれないのやだよー!」


「でも...求人もまた探さないと、それに面接の対策以外にも、試験対策も勉強しないと...」


俺は机に転がっているシャーペンを、虚な顔で握りしめた。


すると、まるおは茎を俺の手まで伸ばして、シャーペンを取り上げた。

「べんきょー?そんなの後でいいよー!!遊ぼうよー!」


「...そんなの?」

勉強が“そんなの”だと?

俺が頑張って新しい仕事を探そうとしていることが“そんなの”だと?

否定されても、何度も何度も頑張ろうとしていることが“そんなの”だと?


「誰のために苦労して頑張ってると思ってんだよ...。誰のせいで嫌な思いしながら、否定されても必死に働こうとしてると思ってるんだよ!!!

お前が行きたい場所もお前が長生きするにも金がいるんだよ!!

お前がいなければ働く必要なんてないんだよ!!お前がいなければ!!」


心の中で呟いたはずの言葉は、気がついたら口から溢れ出ていた。


まるおは驚いたような表情で俺を見上げている。

握っていたシャーペンを落としてしまい、ころころと音を立てて転がっている。


2人の空間に、その音だけが、響いている。


「どうして、そんな、酷いこと言うの...?僕は別に、働いて欲しいなんて言ってないのに...」


「それを言うならまるお、お前が、先に酷いこと言っただろ...」


「何のことか分からないよ!!」

まるおは、俺が聞いたことのないような大声をあげた。


「そんなに僕にいなくなって欲しいなら、出て行くもん!!」



「はあ!?お前が1人で生きていけるわけねーだろ!!」


「やってみなきゃ分からないよ!!」

反抗的な目で見上げてくるまるおに対して、俺はカチンときた。


「あっそ!!じゃあ勝手にしろ!!」

俺の言葉を聞いて、まるおは一瞬とても悲しそうな顔をしたが、そのあとすぐに怒った表情になり、俺に背を向け走るようにして家を出ていった。







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