表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

9.

「ねぇ、スノウ」


不意に名前を呼ばれて、私は小さく肩をすくめた。呼ばれ慣れていないその偽名が、今では皮膚に貼り付いたタグのように感じられる。


「このモールではね、誰もが何かしら役割を持ってるんだよ」


レンは、まるで子どもにルールを教えるような声音で言った。その笑みは柔らかく、穏やかで――それでいて、息苦しいほどの圧を孕んでいた。


「働かない人は、いらない。ここはそういう場所だから」


レンはソファの縁に腰を下ろし、足を組みながら私を見上げる。その視線は、おもちゃを選別する子どものような無邪気さを湛えていた。


「でも、スノウは外に出るのは向いてないし、誰かと話すのも、きっと苦手だよね?」


レンは、勝手なスノウ像を作り上げているようだった。なぜなら、疑問系をとっているものの、自分の意思が、あたかも私の意思であるかのように押し付けているからだ。この問いに、私の意思は一切汲まれていない


笑顔で、しかも親切そうに語ることで、選択肢を与えるフリをして、実際には選択肢そのものを潰してる。


言いながら、レンの指先がふわりと宙をなぞる。

また、触れない距離から、私を撫でる真似をする。


「だから……スノウには、僕の身の回りのことをお願いしようと思って。掃除とか、水の補充とか、着替えとか。ご飯を並べたり、薬の整理も」


優しく語られるそれらの言葉は、どれも当たり障りのない内容だった。けれどその実、僕のそばにいろ。僕以外の誰とも関わるなという無言の強制が潜んでいた。


「ねぇ、いいでしょ? 僕の役に立てるよ、スノウは」


断れる空気ではなかった。そして、タクミのことを考えれば、選択肢など初めから存在しない。私は、ただ小さくうなずいた。


レンの笑みが、わずかに深くなる。

それは満足と支配の証。


「よかった。スノウがここにいてくれるだけで、僕はちょっと楽しいから」


何が“楽しい”のか、それは語られない。けれど、私にはそれが――ただの快楽ではないことだけは、はっきりとわかった。


「じゃあ、これで君の居場所ができたね。うん、いいね。ようこそ、“僕の世界”へ」


優しく告げられたその言葉に、胸がじわりと痛んだ。

そこには歓迎も祝福もない。ただ一方的な宣告だけが残った。


私は、レンの世界に組み込まれた。


それはまるで、檻の内側に新たに貼られた札のように。





















レンが腕広げてるよ
























挿絵(By みてみん)

僕の世界へ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ