7.
沈黙が落ちていた。
レンはソファから立ち上がるでもなく、じっと私を見ていた。視線は、まるでなぞるように私の身体を這っている。
けれど、その目には下卑た欲も、品定めの愉悦もなかった。それが、何よりも怖かった。彼にとって、これは欲望でも興奮でもない。もっと冷たい衝動――収集や所有の目だった。
足音もなく、レンが立ち上がる。
無意識に一歩、私は後ろへ下がった。けれど背後には、もう扉はない。布で仕切られた空間の向こうは、壊れた筐体と無音の空白だけ。
レンが一歩、近づいた。また一歩。ゆっくりと。急がず、けれど確実に、境界線を越えてくる。
私は動けなかった。逃げなかったのではない――逃げることが選べなかった。
レンの目はずっと私を見ていた。それも、肌でも髪でもなく――瞳の奥を、のぞきこむように。
「君の色……透明じゃないのに、透けて見えるね」
そう呟いた声は、やはり感情の起伏がなかった。ただ、感じたままの事実を言語にしただけのような無邪気さ。
「色って、ふつう混ざると濁るはずなのに、君は……混ざらない。どこまでも、混ざらない」
もう、目の前にいた。
細い指が、空中で止まる。触れるでもなく、掴むでもなく――ただ、触れられる距離にあることだけを示すように。
「……触れたい?」
気がつけば、私はそう言っていた。それが拒絶だったのか、受け入れだったのか、自分でもわからない。
レンは答えなかった。
けれど、口元にほんのわずか、笑みにも似た動きが浮かんだ気がした。
「怖い?」
そう尋ねる声も、やはり無機質だった。
「私は……」
言いかけたとき、レンが一歩だけ距離を詰めた。
そして――指先が、私の頬の空気をなぞった。ほんのわずか。皮膚と皮膚は触れていない。でも、触れる寸前で止められることの方が、触れられるよりも残酷だということを、私はそのとき初めて知った。
そしてそのとき、レンの口元が、ふいに歪んだ。今までの無表情から一転、それはあまりに異質な、愉悦と嘲りを孕んだ、歪んだ笑み。
「――僕を、楽しませてくれよ」
その言葉が落ちた瞬間、背中を氷でなぞられたような感覚が走った。彼の目が、確かに笑っていた。だがそれは、快楽でも愛でもない――壊すことへの期待に近いものだった。
レンとサラ