6.(レンside)
布が滑り落ちる音がした。
目の前の男――いや、タツミと呼ばれていた人物が、淡々と、まるで感情をどこかに置き去りにしたように、衣服を脱いでいく。
レンはその様子を、無表情のまま見つめていた。何の感情も宿していない、飢えも欲も――そう、自分ではそう思っていた。
けれど、その中から出てきたものを目にした瞬間、何かが、頭の奥で――震えた。
目の前のその存在は、女だった。
今この世界に、ほとんど残っていないはずの女。もっと言えば――二十代にも満たない、若く、しなやかで、言葉もないほどに異様な美しさを持った、女。
肌の色。それは透けるような白さで、室内の仄暗い明かりの中でも、影を拒むように輝いていた。
髪は色素を持たず、瞳もまた、色を失っている。だが、どこか偽物のような色素欠乏ではなかった。それは、完成された欠落――創られた純白だった。
数日以上、いやそれ以上風呂に入っていないはずなのに、その肌には埃も汗も、汚れさえ付着していないかのように見えた。
――異常だ、とレンは思った。
そして、次の瞬間、その異常さに、心が震えた。
何だ、これは。
女か男か――そんなことは、最初からどうでもよかった。
自分は、性別に執着したことがない。
今まで、女という存在に対してレンが抱くのは、その場限りの欲求の処理でしかなかった。欲しくなったら使い、潤滑油のように消費して、壊れれば捨て、忘れるだけ。
けれど――いま目の前に立つこの存在には、何かが違った。彼女を見ていると、脳が痺れるような感覚を覚える。
焦点が合っていないのに、どこかに焦点が吸い込まれるような……そんな奇妙な眩暈。
匂いが、ある。
匂いだけではない、音のようなものさえ感じる。
その女の立ち姿に、レンは、生理的な反応以上の飢えに似た感情を覚えていた。
「君って、本当に……」
レンは声を出した。けれど、それ以上の言葉が、喉に絡んで出てこなかった。
“おもしろい”では足りない。
“興味深い”でも足りない。
“美しい”などという、表層的な語ではまるで追いつかない。
これは――なんだ?
――欲しい。
レンはそう思った。けれど、それがどういう意味の欲しいなのか、まだ自分でも分からなかった。喉が渇くような感覚。胸の奥が、温度を持ってしまったようなざわつき。それは、レンにとって、初めて抱く感情だった。
そして同時に、それは確かに――脅威だった。
なぜなら、その感情は、自分では制御できないかもしれないと、どこかで理解していたからだ。
「……名前、本当は何?」
ふと、レンがそう問いかけたとき、タツミは、何も言わずに、ただ目を逸らした。レンは、それを拒絶ではなく恐れと受け取った。そして、より強く思った。
この女は、僕のものにするしかない。
壊れる前に。
逃げる前に。
他の誰かが気づく前に――
サラ 素顔




