26.
夜が明けた。私は、頭がまったく纏まらないままだった。
タクミの心の為には、本来ならこの環境は絶対良くない。でもタクミの安全の為には、外に出るよりここにいる方がいい。
(本当に?)
今回の誘拐・監禁事件は、私に衝撃を与えた。さすがにレンもそこまではしないだろう、そんな甘い考えが私にあったのだ。
だが実際、事件は起きた。
もう私は、何を信じればいいのかわからない。レンは、ゆっくりだが変わってきていると思う。その変化は、良いものなのか悪いものなのか、今はまだ判断できる時期ではない。
私がタクミの寝顔に口づけを落としてから部屋を出ると、廊下の角にレンが立っていた。待っていたのだろう。寝ていない顔をしていた。
「おはよう、スノウ」
その声には、いつものような甘さはなかった。代わりに、どこかぎこちない優しさが混じっていた。
「タクミ、よく眠れた?」
「うん。ありがと、レン」
私はゆっくりと頭を下げる。それは、心からの礼だった。
けれど、レンは一瞬だけその表情を曇らせる。
「……それ、すごく、他人行儀だね」
「え?」
「スノウは……僕の家族なんだよ。お願いだから、よそよそしくしないで」
その言葉に、私は答えられなかった。
家族。また、その言葉だ。レンは、それを楯にする。枷のように、結びつけるために。
けれど——。
(それを、本当に家族って呼んでいいの……?)
自分でも、答えが出せなかった。
ーーー
そんなことを鬱々と考えていると、夕暮れとなった。
私はレンの部屋に戻ることにした。レンはそこに、ちゃんといた。ベッドに座って、ただ、黙って待っていた。
「……帰ってきてくれたんだね」
「ええ」
「僕は、怒ってないよ。でも、寂しかった」
その言葉に、私は答えられなかった。レンの笑顔は美しく、でも壊れていて。その温度が、ぬるくて怖い。
——愛のような、地獄のような。
レンは、まるで何事もなかったかのように、私の隣に座り、指先で白い髪を撫でていた。
「ねえ、スノウ」
「……なに?」
「家族って、どこまでが家族なの?」
その問いに、私は答えられなかった。
(わからない……私自身、何が正しい家族なのかなんて)
見上げると、レンは微笑んでいた。
「僕たちも、もう少ししたら家族になれるかな」
その言葉が、まるで契約のように、私の胸に突き刺さった。彼はまるで、希望を囁くように言う。
でもそれは——
血と破壊にまみれた、歪んだ愛情の上に築かれるものだった。そんな夜が、またひとつ、深く沈んでいった。




