25.
その夜。私は、タクミを強く抱きしめながら眠っていた。
いつもなら、レンの部屋。いつもなら、レンの腕の中。けれど今夜だけは、どうしてもレンのそばにいたくなかった。いや——正確に言えば、タクミをレンの視線から遠ざけたかった。
「ごめんね、タクミ。怖かったよね」
「うん、でも…母さんが守ってくれるって、思った」
タクミの小さな手が、ぎゅっと私の服の端を握った。
「でも……レン、ちょっとこわい。わかんないこと言うし……急に笑うし」
私は何も言えずに、ただタクミの髪を撫でる。レンが、タクミを連れて出た本当の理由は、わかっている。
それは、独占欲。
レンの執着は、今や依存のような形をとりつつあると、私は感じていた。レンにとって、タクミは受け入れられない。タクミが、私の中の特別な存在だから。
——邪魔な存在。
——でも壊せない。
——だから試した。
そういうやり方しか、レンは知らない。
私は、タクミを抱いて眠るふりをしながら、涙を流した。
(逃げられない。もう、どこにも……)
だけどそれでも、母として、この子だけは守り抜くと、何度でも誓う。
そのとき、タクミがふと、眠ったまま口を動かした。
「……こわい……おにいちゃん……こわい……」
それを聞いた私の胸が、バキリと音を立てて割れたようだった。
(……ごめん)
(母親なのに、ごめん)
⸻
同じ時間。レンは、誰もいない部屋の中、ベッドの端に腰掛けていた。
無表情で、指を絡めるようにして手を組む。その瞳は、相変わらず縦に割れた金色の光を湛えていた。
「スノウは、タクミのところに行った」
ひとりごとのように呟く声は、異様に静かだった。
「…子どもって、そんなに特別なの?」
理解できない。けれど、怒りや憎しみではない。ただ、不安だった。何かが失われていくような、そんな感覚が、胸を締めつける。
「家族って、なんだろう」
その言葉に、誰も答えてくれない。
「僕が守ってる。全部、守ってる。あの子ーータクミも、スノウも……誰にも奪わせてない。それなのに、どうして」
どうして、スノウは僕を選ばない?
そう呟く声は、苦しげだった。それでも、その感情を言葉に変える術を、レンはまだ持っていなかった。
愛も、執着も、家族も。すべてが未定義で、曖昧で、曇っていた。
ただ一つ確かなのは——
君が他の誰かに向けた笑顔が、僕を狂わせるということ。




