第七話
俺は自室のベッドに派手にダイブをした。
干したてのお日様の匂いが全身を包み込む。
ああ、お前はなんてふかふかなんだ。
俺は思い出したくもない今日の出来事を振り返っていた。
「お守り?」
俺はアイスコーヒーを飲みながらそう問いかけた。
「そう、お守りを作って渡したい人がいるの」
「渡したい人っていうのは?」
ももはピーチティーを両手にもってストローでちゅーちゅー吸っている。
なんだかハムスターみたいだ。
「私ね、付き合ってる人がいるの。昨日話した大切な人。その人はバスケ部で明日大事な試合を控えてるんだけどね、私はそこでお守りを渡したいんだ。」
え?
「私ね、付き合ってからその人に何もしてあげられてないんだ。向こうは私が困ってたら助けてくれるし話も聞いてくれる、失敗しちゃっても優しく慰めてくれる。でも私は何もできてなくて…。一緒に帰っているときも話をしてくれるのは彼の方で私は緊張しちゃってうんうんって聞いてるだけ。」
……え?
「向こうは私のこと、ももって名前で呼んでくれてるのに私は名字で呼ぶのが精一杯。はるくんのことははるくんって呼べたのに…」
おい待て。
なんだそのまるで俺が練習台みたいな言い方は。
いやそんな事今はどうでもいい。
ももに彼氏?
って事は昨日ももが言っていた大切な人ってのはその彼氏のことだったのか。
てっきり俺は生徒会メンバーのみかんやりん先輩の事かと…
俺の計画は早くも頓挫してしまったが、とりあえず今はももの話を聞いてやろう。
「せめて彼が1番頑張ってるバスケの試合はちゃんと応援しようって思ってたんだけど…やっぱり私は遠くから見ることしかできなくて。まわりの可愛い女の子たちが声援を送ってそれに笑顔で手を振ってるのを見て逃げ出しちゃったりなんかして…。私一体何してるんだろうって何回も後悔して…それでも声をかけることができなくて。だからもう最後にしたいの。明日の試合で私は彼にお守りを渡して、頑張ってって声をかける」
「なるほど。明日の約束ってのはその試合の応援に付き添ってほしいってことだったのか」
「うん、ちゃんと説明してなくてごめん。最初はみかんちゃんやりん先輩に声をかけてたんだけど2人とも用事があるって言ってたし、無理に誘うこともできなくて。1人だったらきっとお守りも渡せないと思う。だからこれで最後。勝手なお願いだっていうのはわかってるけど、改めて明日、一緒に市民体育館に行ってくれないかな?」
彼女はごめんなさいと何度も頭を下げた。
何も悪いことなどしていないのに。
考えてみれば今日俺がデートだと勝手に勘違いしていたこの御同行もただ男方の意見が欲しかっただけだったのかもしれない。
何も知らなかった俺はただただ浮かれて彼女の可愛さに釘付けになっていた。
色んな思いがごちゃまぜになって何とも言えない脱力感が体を支配する。
単純に彼女に彼氏がいた事がショックなのか?
彼女がこんなに悩んで俺を頼ってくれたのにそんなことなど知らず浮かれていた俺が惨めなのか?
それとも、それを知ってなお何の役にも立っていない自分に嫌気がさしているのだろうか。
「ももの頼みだ、もちろん付き合うよ」
結局気の利いた言葉もかけてやれず、俺たちは解散したのだった。
「あれー?お兄ちゃん帰ってたんだ。どうだったの今日は」
ノックもせずお洒落な格好をした妹が俺の部屋を開けて話しかけてくる。
バッグも持っているからこれから何処かに出かけるのだろうか。
「この姿を見てわからないのかよ。」
「まあ大体察しはつくけどね。でもお兄ちゃんにしてはよく頑張ったと思うしまた次がんばればいいよ。あ!これ大天使コトリエルのありがたいお言葉その1ね!」
大天使というのはあながち間違っていないのかもしれない。そんな風に思えてしまうほど眩しい笑顔だった。
「もうそんな元気はないけどな。それよりお前これから出掛けるのか?もう外もだいぶ暗くなってるぞ」
「そんなに遅くはならないから大丈夫だよ。今日のこと、また今度聞かせてね。じゃあいってくる」
俺は気をつけてと声をかけ、彼女はうきうきと飛び出していった。
「ふう…」
まだ日が落ちたばかりだが何をする気にもなれず、俺はうとうとし始めた。だんだんと意識が遠のいていく。
今日はなんだか疲れた。
今頃彼女は想いの込めたお手製のお守りを不器用ながら丹精込めて作っているに違いない。
夢破れた俺は皮肉な事に夢の世界へと誘われ、眠りについた。