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序章  作者: 一樹
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第四話

ももと2人、生徒会室に残った。


思えば生徒会メンバーと2人きりになる機会などこれまでなかったから少し緊張する。




去り際にみかんが「もも先輩に変なことしたら怒りますからね」と言っていたのが気がかりだが俺は一体どんな男だと思われているのだろうか。




「ごめんね、はるくん。作業の邪魔しちゃって」




ももが上目遣いでこちらを見上げる。


うるうるした瞳に吸い込まれそうだ。


吸い込まれたい。




「作業って言ってもほとんど片付けみたいなもんだから気にしないでいいよ。それより話って?」




とぼけてみたものの正直俺にはおおよその検討がついていた。




きっとこれはデートのお誘いだ。間違いない。


特別フラグを立てた覚えはないが、考えてみれば初対面の時から他2人と比べて明らかに初期好感度が高かった。


2人が俺のことを「加護野くん」「加護野先輩」と呼ぶのに対して、ももだけは俺を下の名前、ひいては愛称のように「はるくん」と呼んでいた。








「うん…あの、さ、ちょっと相談があって…」




「相談?」




「うん…私ね、いざって時に緊張して言葉が出ない事があるんだ…」




確かにももはあまり人付き合いが得意な方ではない。


人見知りというか遠慮しがちというか…そういう側面がある事は俺も知っていた。




「昔からそうなんだよ。言いたい事があっても寸前になってやっぱやめとこうって思っちゃう。これを言ったら相手を困らせるかもしれない、怒らせるかもしれない、私に失望するかもしれないって。そんな自分が昔から嫌いだった。だからね、高校生になった時そんな自分を変えてやろうって思って、それで生徒会に入ったんだ。生徒会長になったのはだいぶ計算外だったけど、私にとっては大きな一歩を踏み出したつもり。おかげで前よりは人と話せるようになったし、あまり緊張しなくなった。たぶん前の私だったらこんな風にはるくんと喋ることもできてなかったと思う」




知らなかった。


ももが生徒会に入ったのにはそんな背景があったなんて。




「でもね、そんな生活の中で私にも大切な人ができた。お互い信じ合えて気を許せる存在。何でも言い合える関係になりたいのに、気付けば昔の私に逆戻りしてた。言葉にすることってこんなに怖い事だったんだっけって。でも、考えてみたらそうなんだよね、いくら生徒会長になったって私は私、肩書きが変わったくらいで人間は変われないんだって思い知ったよ。ああ、きっと私はこの性格のまま大人になっていくんだなって、半分諦めようともした」




ももの苦悩は俺の想像を遥かに超えるものだった。


彼女にとって大切な生徒会は彼女を強くする一方で弱くすることもあったのだ。


一見みかんやりん先輩と気兼ねなく話しているように見えるけど、だからこそ言えないことっていうのもやっぱりあるんだろうな。




「でも私、やっぱり変えたい。変えたいよ…。りん先輩やみかんちゃんにも申し訳ないし…もうはるくんしか頼れる人がいなくて」




ももは今にも泣き出してしまいそうなほど声を震わせながら自らの悩みを吐露してくれた。デートのお誘いに違いないと浮かれていた自分を少し嫌いになりそうだ。




「…わかった。ももの悩みを解決するためなら何だって協力する。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」




本心からそう思った。


ももに気に入られたいとか好かれたいという気持ちじゃない、見返りなどいらず心の底から何かしてやりたいと思った。




「うん…ありがとう。それで、あの…」




「…?」


















「はるくんって明日空いてたりする、かな?」




「ん?まあ別に空いてるけど…」




何をそんな照れ臭そうに…


っていや待て待て待て!!


明日って休日じゃん!土曜日じゃん!!


え?そういうこと?まさかそういうことなのか!?






「ほんとう?よかったあ!あ、あのさ、もしよかったらちょっと買い物に付き合って欲しいんだけど…だめかな?」




きた!!デートだ!やはりデートだ!


まさかの逆転サヨナラ満塁ホームラン!!


ひゃっほーーう!!






っと、危ない危ない。


冷静さを失うところだった。


彼女なりに勇気を振り絞って誘ってくれたんだ、こちらも紳士的に対応せねば。






「え、うん、いいけど。待ち合わせは?」




「じゃあ…駅前に10時でどうかな?」




「わかった」




こんなにも理想的に事が進むとは。


もう既にももとの好感度はMAXなのかもしれないな。場合によっては金庫の解錠を早めてもいいのかもしれない、とも思ったがまだ2人の好感度を稼いでいない、焦るな俺。


理想の未来へ到達するためここは耐える時だ。




「あ、あとさ!」




「ん?」




「明後日の予定はどうかな?さすがに2日ともっていうのは厳しいよね?」




おいおい、なんということだ。


勇気を出してデートに誘ってくれたのは嬉しいが、噂の人見知りっぷりはどこへ行ってしまったんだ、お留守か?


いや違う、2日とも俺と過ごしたいと思わせるほどに彼女の想いは昂ってしまっているのだ。なんて罪深いことをしてしまったんだ俺は。




「え?まあ、大丈夫だけど…」




「ほんと!?じゃあ2日ともお休み貰っちゃお!えへへ」




天使かな?


俺は冷静を装いつつ、心臓がバクバクいっているのを感じた。


こんな可愛い子に休日を2日献上することなど最早ご褒美と言っていい。俺のしょうもない自堕落な2日間が有意義なものへと昇華した。




「じゃあとりあえず明日は駅前に10時な。明後日のことはまた明日決めよう」




「わかった!相談乗ってくれてありがとね!


じゃあ…また明日…ね」




そう言ってももは足早に生徒会室を退室した。


照れているのだろうか。




「ふう、ももとデートか…」




残された俺は一人、遠足前のような高揚感を抱えながらひとしきり余韻を味わった。

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