第一話
鍵師である親父は常日頃から言っていた。
その気になればこの世に開けられない金庫なんて存在しない、と。
小さい頃、俺は親父の仕事によくついて行った。
依頼主の家あるいは施設に赴き話を聞く。
そのうち例の金庫が登場して親父は作業に取り掛かる。普段はおちゃらけている親父も金庫の前では真剣で場合によっては数分、最長でも3日程度でその金庫の中身は顔を出す。
大抵の場合その中身は豪華な金銀財宝の類いであることは少なく、まったく価値のない先代の隠し物であったりする。
しかしどんなものであれ依頼主は金庫が開いたその事実に歓喜して何度も御礼を言い依頼料を支払う。
鍵師にとって金庫は金庫でしかないが依頼主たちは違う。皆それぞれの期待や思い入れがある。
金庫の中に入っているというただそれだけの「謎」が彼らの好奇心を煽り、そうして開かれたものは例え何であれ「謎」が解明されたことに喜びを感じるのだ。
いつからか親父の仕事を後ろから眺めているうちに俺もある程度なら自分で鍵を開けられるようになっていた。褒めて貰いたくて親父に見せに行ったこともあったが、まだまだだと言って興味も示さない。そんな態度をされたもんだから俺は悔しくてさらに実力をつけるために努力した。
内緒で依頼を受けることもあったし、それがバレて大目玉を食らったこともあった。
とにかく自分の力だけで親父を超えたい、その一心だった。
そんな日々を過ごしていたある日、高校二年になった俺の元にある依頼が届く。
それは「生徒会室に突如届けられた開かずの金庫を開けてほしい」というもの。
なかなかお目にかかれない大層な金庫。
一体誰がなんの目的で送ってきたのか。
その「謎」を解明するため、俺は生徒会の臨時メンバーとなり、仕事の傍らこの金庫を任された。
生徒会の仕事を兼任しなければならないというのは実に面倒だが、俺は突如舞い降りたこの「役得」に打ち震えた。
ここではっきりと言っておくが、「役得」とは決して金庫のことではない。確かに俺は鍵師を目指しているしその努力を惜しむつもりもないが、しかしそれと同じくらい高校生活という青春を謳歌することも努力を惜しむつもりはない。
つまり俺には「彼女」がいないのだった。
今年の生徒会メンバーはこの学校でも折り紙付きの美人と評される三人の美少女で構成されており有識者はこれを「三色兼美の生徒会」などと呼んでいるらしい。
そんなスクールカースト最上位の女神たちと幸せの空間を味わうことを一体誰が責められよう。
俺はいつもの足取りで生徒会室という名の楽園へと向かいその荘厳たる門扉を開ける。
「あ!はるくんだ!」
ここで「三色兼備の生徒会」の紹介でもしておこう。
まず一人目は生徒会会長を務める「山岡やまおかもも」。
俺と同じ二年だがその愛くるしい顔から一年と見間違う者も多く低身長で童顔、薄いピンクのセミロング。すこしドジで緊張しいだが頑張り屋さんのいい子である。
本人は子供っぽく見られることを気にしているようだが俺に言わせれば出るとこはきちんと出ているし控えめに言って最高だ。
「遅かったですねー先輩。」
そしてもう一人は生徒会副会長の「有谷ありたにみかん」。
彼女は一年で俺の後輩にあたる。少し生意気だが元気で明るい活発な女の子だ。
ウェーブのかかった明るいオレンジの短髪が特徴的。
こちらは胸が小さいことを気にしているようだが、お尻のラインなんかは群を抜いて素晴らしく、非の打ち所のない完璧美少女だ。
「遅刻とはあなたも随分偉くなったものね」
そして最後に3人目、生徒会書記の「敦賀つるがりん」。
彼女は俺の先輩にあたる三年生。
毒舌でいつも俺を苦しめては不適に笑う謎めいたお姉さんって感じだ。赤色のロングヘアで2人よりも背が高く、スタイルが抜群。
本人は太ってみられるから嫌だと気にしているようだが、そんなことなどどうでもよくなるほどの巨乳。セクシーとはこの人のためにある言葉なんじゃないだろうか。
とにかく俺が言いたいのはこの女神たちは三者三様、それぞれの個性が出ていてとても素晴らしいということだ。
「すいません、掃除当番だったんでちょっと遅れました」
俺は彼女たちと何気ない会話をしながら、時にふざけて時に真面目に、そんなたわいもない毎日を送っている。
鍵師としての腕前はまだまだなのかもしれないがそれが高じてこんな「役得」にありつけたのだから努力は実るということだろう。
だから、決して責めないでほしい。
彼女たちと出逢ったことで不本意にも生み出してしまった俺の悪しき「計画」ーー。
そしてその計画を遂行せんと動くあまり、前述した鍵師としてのやる気やら何やらが放課後の掃除当番並みに低下してしまったこの俺を。