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幾星霜の標  作者: 櫻城 琥珀
ブルーステラ天文台
4/16

4

全体がスクリーンになっている丸い天井に、夜空が映し出されている。

外を見た事がない俺達が天文台で仕事をできるのは、この最上階のプラネタリウムがあるからだ。

大図書館には望遠鏡もあるけれど、星詠みは望遠鏡を介しては行わない。ここにある映写機は特別なもので、望遠鏡なんかより余程広く細かく星を見ることができる。


俺達は天文台の最上階のこの部屋に着いて、まっすぐある人のところに向かった。俺達の神様の場所へと。


「おはようございます。柘榴様」

「うん。おはよう、翡翠。珊瑚は、もう体調は良いのかい?」

「はい。お心遣いに感謝致します」


蛇紋(じゃもん) 柘榴。この天文台の長であり、聖ステラ教会の教祖。

俺達はこの人の亡きお父上、先代に拾われてこの日まで生きてきた。

珊瑚が裏切りたくないと言ったのは先代だ。本当によくできた人だった。そして、目の前のこの人も。


「星詠みの力は、使うことを怠れば朽ちてしまうものだ。今日のお勤めはより心を込めて行いなさい」


柘榴様は善人だった。

俺が言っていたような監獄という言葉とも、瑠璃が言っていたような監禁という言葉とも接点がないような人間だ。


「はい」


殺人鬼だって昔は赤子だったし、普通に暮らしている者だって少なくない。動物だって穏やかに見えて、平気で他の生き物を食い殺す。瑠璃に強い語調でそう言われたことを思い出す。けれど俺にはどうしても、目の前の尊い人が俺達に悪いことをしているようには見えなかったのだ。

俺にこの場所が監獄と呼ばれていることを教えた珊瑚だって、先代を裏切ることはできないと言っていたし、きっと外に出るだなんてとんでもないと言うだろう。


「そろそろお時間です故、我々は失礼致します」


凡人と天才の、時間の価値は違う。俺達の一時間は柘榴様の一分だ。

これは天文台の職員の共通の認識だろう。

何も考えずに時間を奪って良い人ではない。

柘榴様は善人で天才で、俺達にとっての神様で。俺達よりもずっと高尚な存在なのだと。そう信じてやまなかった。


「あぁは言ったけれど、無理をしてはいけないよ」

「はい。心得ました」


だから信じたくなかった。

先先代が、先代が、柘榴様が、俺達を監禁しているだなんて。

外の世界では犯罪者と呼ばれる人だなんて。

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