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幾星霜の標  作者: 櫻城 琥珀
天使と悪魔
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「天使様に会いました」


この町の歴史でも一、二を争う頭を持つ、周囲からすれば毎週お祈りに来る敬虔な子供がそんなことを言い出せば、周りはすぐにその言葉を信じた。

私の両親でさえ。


「子供を集めてください」


天使様に会ったと言った。

それはいつからか、神様の声を聞けると伝わっていた。

私が言うことは神様のお言葉に等しいと捉えられるようになった。


「星を詠むことで、私達は対話をします」


それは、魔女だと言わなかった理由だった。

言葉を深く考えようとしない人間ばかりだったあの町で、魔女だなんて言葉を使えば彼女は追い立てられてしまう。あれだけ清らかな人なのだから、天使と言い換えても相違(ちがい)ないだろうと思った。

私の思う魔女は天使だった。


「子供の時から対話を続ければ、その祈りは報われます」


だから子供を集めた。

身寄りのない、子供を。

私のことを坊やと言う、未だあどけない少女の容貌(すがた)をした彼女のような存在にもしかしたら会えるかもしれないと一抹の期待を抱いて。


「ここは貧窮院(ワークハウス)ではありませんが、祈りを捧げる子供を受け入れます。ただ一つ、守るべきものがあるとすれば」


あんな馬鹿なことをしないよう、教育を施そうと思った。

私の子供達には賢く在って欲しいと思った。私と、対等に話ができる程度の人間が現れれば尚良いと思っていた。

いつしかそれは、正反対の思惑に挿げ替わっていた。私を超えない程度に賢い人間でなければ、いつかはこの場所を出て行くと。


「この天文台から、決して出ないことです」


礼拝堂から教会に。そして、天文台という名前さえつけたこの場所はいつしか監獄と呼ばれるようになった。

私はあの時、完全に治ることのない怪我をして帰って来た彼等を見て、そうならないようにと思っただけだったのに。いつしかそれは危険な外の世界には出ないようにと。私の庇護下にあれば良いと思うようになっていた。天使様を求めて集めた子供達に独占欲を抱いていた。

たった一度、あの天使様を見ただけで心を奪われ、どこか歯車がズレてしまった。あの人は天使ではなく魔女だったのだと、今になってその違いがようやっとわかったのだ。

自らの、血の繋がった孫にさえ手をかけた今。遅ればせながら、ようやっと。気がついた頃にはもう遅かった。

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