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私が。
蛇紋 天青が生まれたのは下町の小さな羊飼いの家だった。
近くには礼拝堂があり、近所の子供達の憧れの的であったシスターを一眼見るためだけにお祈りに参加するありふれた子供の一人だった。敬虔な父母と違い、神は信じていなかったし祈ったところで救われるとも思っていなかった。
あの日までは。
「誰ですか」
あの日。
町の外れの、オレンジの木の下で一人の少女を見つけた。
「この町の人じゃないですよね」
「どうして、そう思うの?」
「貴方からは硫黄の臭いがします。ここから少し、北に進んだ場所で採集できますが今は立ち入り禁止の筈です」
危ないことをしたがった子供が数人、火薬を作ろうとして実験中に怪我をしたからだ。
治らない傷を顔に負った子供も、転んだ弾みに頭を強く打ちつけ体に麻痺が残った子供もいた。
そんな馬鹿の所為であの場所は立ち入り禁止になっているし、大人も決して近付かない。
私はただ、度胸試しをすると言うから火薬を作る化学式を教えただけだ。
まさか怪我をしない程度の注意もできないだなんて思わなかった。
「賢いのね。坊や」
私は私が他よりも賢いことを知っていた。
それが自慢だったが、表立って自慢はしなかった。
「母は、僕のことを天才と言うよ」
その日。私は初めて人に自慢した。
否、彼女はきっと人ではなかった。
魔女。
彼女はきっと、そう呼ばれる存在だったのだろう。
「星を詠むことができるなら、貴方にもこれからどうするべきかわかるでしょう」
「貴方が町の人に追い立てられるようなことはしません」
それを彼女は、私の意図通りに他言しないという意味で受け取ったのか。それとも、本心を見抜いたのかは今でも定かではない。
「また会えますか」
私がそう聞いて、彼女は返事をしなかった。
彼女と会えたのは後にも先にもあの一度きりだった。




