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「俺、お前について行くことにしたから」
約束の日。
目を覚ましてすぐの、寝ぼけ眼の瑠璃にそう伝えれば。彼女は暫く呆然とした後、目を丸くさせた。
「えっと、はい」
「なんだよ。あんなこと言っておいて反応が鈍いな」
「寝起きですぐ頭が働くとでも思っているの?とても嬉しいけれど、貴方はいつも唐突」
そんな突飛な行動をいつもしているわけではないと思ったが、瑠璃からはそう映っているのかと思い、開きかけた口を噤む。
「明日、ここを発つわ。持って行くものはどれくらいあるの?」
「俺の持ち物と言えるものは何もない。使っているものは全てこの天文台の備品だ。ここで育ったんだから当然だろ」
「貴方は研究者でしょう?自分が研究した論文とか」
「星詠みの研究は全て天文台ありきだ。外に持って行きたいものはない。身軽で良いだろ」
瑠璃は浅く息を吐く。
「貴方の親友には伝えたの?」
「昨日の夜に。寝てるお前の隣で」
「随分と深く眠っていたみたいね」
じっとりと見つめられる。目は逸らさない。
「あの人、私のことを恨んだでしょう」
「そんなことない」
「命を助けたから?」
「それは、ないとは言えないが。それでも、瑠璃が思っているようなことはない筈だ」
頭をポンポンと撫でると瑠璃は少し顔を赤らめたが、手を払い除けることはしなかった。
「珊瑚を信じてくれ。ずっと二人で生きてきた、兄弟のようなものなんだ」
『俺達が外に出なきゃいけないことを、わかってた』
「あいつのあの言葉は本心だった。だからあいつを信じる俺を、信じてくれ」




