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甲斐甲斐しくお世話してくれるナクレイスさん。
メイド服姿もお似合いの、たおやか感満開な癒し系お姉さま、なのです。
でも、見た目で判断しちゃ駄目。
ブっ倒れていた俺をここまで運べるほどの力持ちさんなのですよ。
この地下水路でのひとり暮らしだそうですが、
少なくとも俺より強いこと、間違い無し。
それはそれとして、
美味しいお茶をいただきながら、お互い自己紹介。
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故郷を離れ、ニルシェ王都でメイドとして働いているナクレイスさん。
ご主人様も、共にお屋敷で働く皆さんも、本当に良い人たちばかり。
困ったイベントごととは全く無縁の平穏な毎日だったのに、
生活が一変したのは、つい最近のこと。
ニルシェ王都で働いている魔族領内各国代表の皆さん、
その調整役を務めているニルシェ王国評議会の若き重鎮が、
ナクレイスさんのご主人様。
いわゆるお貴族さま。
真面目で人柄も良い仕事の出来るイケメン。
本人の実力も周囲の評価も並ぶ者無しのハイスペック貴族様。
私生活ではお屋敷の使用人にも優しく接してくれる人格者。
どんな人とも程良い距離感を大切にしてくれる、本当に素晴らしいご主人様。
そんなご主人様は、未だ独身。
ちょっと不躾な言い方ですが、いわゆる超優良物件。
もちろん引くてあまたの引っ張りだこ。
国内のみならず国外からも、ぜひうちの娘を、という声がひっきりなし。
当のご本人は、その手の話しは全て華麗にスルー。
お断りの際の振る舞いも真摯に紳士。
お屋敷のメイドさんたちは、ただただやきもきするばかり。
噂話しに華を咲かせ過ぎて、恐いメイド長さんから叱られるほど。
そんな文字通りの独身貴族なご主人様に、ようやく春が訪れました。
お相手は、魔族の娘さん。
名家のご出身、とかでは無く、一般の方。
生まれはニルシェ王国ですが、
ニルシェ王都から遠く離れた小村が故郷。
いろいろあって天涯孤独となり、
心機一転、職を求めて王都に来たばかり。
物書き志望の文学乙女、
事務仕事を探す傍ら、図書館と本屋さん巡り。
とある日、とある古書店で、同じ本を探していた紳士とばったり。
それが、ご主人様と娘さんの出会い。
それから何度も逢瀬を重ねるふたり、
いえ、お茶とかお食事とかの、健全なお付き合い。
そうこうしてるうちに、お互いが運命を感じちゃったそうで。
えーと、何すかね、
俺なんかが聞くと背中がムズムズしちゃうような、出来過ぎた話しなのですが。
当のご主人様、一途に一直線。
突然のリアル玉の輿ちっくラブストーリーに、
お屋敷のメイドさんたち、大はしゃぎ。
唯一難色を示したのが、先代様から勤め上げてきたメイド長さん。
そしてナクレイスさんに、こっそりと相談。
あの娘さん、人柄も経歴も非の打ちどころ無し。
ただ、あまりにも隙が無さすぎます……
実は、メイド長さんがこっそりナクレイスさんに相談したのは、理由あり。
ナクレイスさんがメイド長さんだけに打ち明けていた、
秘密の能力。