03
「大丈夫ですか? お兄さん」
……どこだ、ここ。
どうやら、果てしないどん底気分に引っ張られて気を失ったようだけど、
気付けば硬いベンチの上ではなく、
後頭部があったか柔らか良い匂い、まさに局所的幸せパラダイス。
「あまりすりすり動かさないでほしいです」
これは失礼、あまりの気持ち良さにおつむが勝手に暴走状態。
って、ひざまくらだ、コレ!
「目が覚めました?」
そりゃあもう一瞬でパッチリと。
慌てて身を起こしたら、目の前にいるのは……どなた?
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ひざまくらの主は、ナクレイスさん。
お買い物の帰り道、たまたま通りかかった公園で、
ベンチでひっくり返っていた俺があまりにも具合が悪そうだったので、
ここに連れて来て介抱してくれたそうです。
ありがとうございます。
我が生涯で初めてのひざまくらのご恩は決して忘れません。
そりゃあもう大切な思い出として死ぬまで感触を反芻させていただく所存。
「大げさですよぅ」
まあそれはそれとして、どこでしょ、ここ。
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ここは地下水路。
ニルシェ王都の地下に張り巡らされた水路のどこか。
訳あってここで暮らしているナクレイスさん。
何だか隠遁生活の盟友って感じがして、俺の好感度爆上げ。
「……訳は聞かないのですねぇ」
こう見えてぼっち歴は相当なもんだと自負しております。
その人の領域に踏み込む覚悟、誰よりも分かっているつもりです。
「本当に不思議な人ですねぇ」