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保険金殺人

 二ヶ月ほど遡る。

 アリス刑事はある事件を調べていた。

 巨額の保険金殺人だった。

 霊能課のアリスが担当する事件だけあって、普通の保険金殺人ではない。

 容疑者には完璧なアリバイがあり、闇サイトや代理殺人などの気配もない。

 捜査上に浮かんできたのは、保険金をかけた相手を完全霊体によって殺すという手法だった。完全霊体とは、他人の体を霊体が乗っ取るのではなく、霊体がいくつも集まり『実態』を持ったものである。

 完全霊体は、物理的に物に触れられるし、さまざまな形態に変化することも出来る。

 だが法的には人ではない。

 裁判に掛けられないし、法の力が及ばない存在なのだ。

 もし自然発生的に完全霊体が出来上がり、その霊体が引き起こした事件・事故は犯罪にはならない。

 今回のように、保険金殺人などの罪に問えるのは、この完全霊体を人為的(・・・)に作った場合だ。

 警察は事件と判断した場合、完全霊体を人為的に作ったという証拠を集め、作った人物を割り出す捜査を行う。

 完全霊体には指紋やDNAがない。その代わり、触れたものなどには完全霊体の持つ霊痕が残る。霊痕は、固有の電磁波パターン(スペクトル)を持っていて完全霊体ごとに異なる。ただ、解析には高額なスペクトル解析の機械を使う必要があり、コストの問題から可能性があるものを全て解析することはできない。

 そこで除霊士の力を借りるのである。

 霊痕(れいこん)の残る証拠品を探し出し、それを解析する。

 容疑者が同じ電磁波パターンを持つものを持っていれば、そいつが作り出したことになる。やはりその品物は、コストがなんでもかんでも調べられないから、慎重に、厳選することになる。人の命を金で計ることはできないだろうが、現実問題、犯罪調査のためにコストを無限にかけることはできないのだ。

 捜査する側もそうだが、犯罪を起こす側としても、完全霊体は安いモノではない。

 まずそれなりの知識と霊能が必要だ。

 準備も、素材となる霊を集めるにも危険が伴うし、時間もかかる。

 安易に手は出せないのだ。

 だから一回でモトを取れるほど大きな案件で使うか、モトを取るまで使いまわすことが多い。

 アリスは詐欺事件で見つけたある証拠品を解析に回していた。

 署内のパソコンで、上がってきた解析結果の電磁波パターンを見ていた。

「これは、確か……」

 それは殺人ではなく、三年ほど前の観光バス事故だった。

 押収したドライバーの手袋にあった霊痕だ。

 過去の電磁波パターンと一致を確認するのも、高価なグラフィックカードを積んだPCをぶん回す必要があり、時間がかかる。

 アリスは念のためPCで検索を開始すると同時に、観光バス事故にあたりをつけて調査を開始した。

 アリスはまず、過去の資料を取り出し見直していた。

 観光バスの件は、アリスがドライバーの手袋に霊痕があることに気づいた。

 そしてスペクトル解析に回した。

 そこまでだった。

「なんか思い出した。あの時は自然発生した『完全霊体』が引き起こした、として、これ以上、捜査が進まなかったのよね」

 誰に言う訳でもなく、そう口にしていた。

 観光バスは山岳の観光道路を走っており、下り坂の中、スピードを落とさぬまま走り続け、路肩に乗り上げ横転。

 一人死亡、二名が全治二ヶ月ほどの重症で、十二名が軽症だった。

 バス会社は小さい会社であり、そのまま潰れ会社は清算してしまっている。

 県警側である程度捜査が進んでしまってから、アリスが呼ばれ、ドライバーの手ぶくろに霊痕を見つけたというものだ。

 亡くなった人物に疑わしいと思えるほどの保険金があったわけでもない。

 経緯などを読み、リストを追っていく。

「……」

 重症の二名も命に関わるものではなかったようだ。

 とすると、やはり亡くなった一人に関わる何かだ。

 お金ではない何かのために、この事故が仕組まれたのだとしたら。

 アリバイの為、邪魔な人物を殺す為、バス会社を潰す為……

 乗客名簿をあたっていく。

 生きて残った者には、問題を起こしそうな人物はいない。

 気になるのは死亡した女性の夫が、国会議員だったことだ。

 一般人に比較して、調べやすいということもある。

 死亡した妻の名は、真島(まじま)香織(かおり)と言う。

 夫は真島光彦(みつひこ)といい、下院の最大勢力である保守党の議員だった。

「保守党……」

 アリスがそう呟いたのは理由があった。

 とにかく、票を集めるために様々な宗教団体の支援を受けている。宗教団体が悪い訳ではないが、支援団体にカルトに相当するものが含まれるからだ。

 保守党のマニフェストにはアリスのいる霊能課、つまり霊能警察局そのものを廃止しようと言う内容が含まれている。表向き、霊能課が支払っている民間の除霊事務所やスペクトル解析などの支出を問題視しているようだが、実際は、カルト側が霊能課の捜査を恐れて支援の見返りにその事を求めているのだ。

 保守党の議員が全てカルトと関係している訳ではないが、引っかかるポイントだった。

「……」

 真島に関する、小さい記事を見つけた。

 記事は公費で女性と旅行していると言うものだった。

 妻である香織さんが亡くなってさほど経っていない時期のものだ。

 記事の日付と、実際に写真に収めた時間がずれている可能性もある。

 もしそうなら『不倫』と言うことになる。

 だがネット上では『不倫』だったかどうかまでははっきりわからなかった。

 妻と別れる為、真島が霊能者に観光バスの事故を依頼したのだとしたら……

 いや、流石にないか。やっていることが割に合わなさすぎる。

 アリスは、別の方向からも調べることにした。




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