表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/31

暴走

遠音(とおね)ミサなんだケド」

 橋口も腕を上げ、指を差した。

「何!? 何なんなの?」

 私服の女性警官は、三人の顔を代る代る見ている。

 突然、女性警官は突き飛ばされ、膝をついてしまった。

「痛っ!」

 突き飛ばした男は、謝りもせず四人の真ん中を抜け、走っていく。

「ちょっと、今の!」

 冴島は気づいた様子だった。

 橋口は、突き飛ばされた警官の背後からの気配を感じた。

「麗子! それより、こっちなんだケド!」

 二人は向かってくる女性を見た。

 隙のない、左右対称の顔。

 現代的な美人とされる女性の姿を実体化したようだった。

 走って、何かを追いかけている。

 近付いてきた瞬間に、絶世の美女(それ)が霊体であることに気づいた。

 二人の視線が逸れたことに乗じ、遠音が逃げる。

「あっ、待てっ!」

「麗子、霊体(こっち)が優先なんだケド!」

 橋口はバラ鞭を構えた。

「そうね」

 冴島は右手をまっすぐ伸ばし、人差し指を伸ばして狙いをつけた。

「九字を切る時間はなさそうね」

 指先に光が集まってくる。

「麗子、こんな場所で霊弾撃って、大丈夫?」

「外さなければ問題ない」

「いや、外した時のこと言ってんだケド」

「その時はその時。……じゃない?」

 橋口は冴島の顔を見る。

 真剣な表情の中、口元だけが微かに笑っている。

 この状況は『ギリギリ』なのだ、と橋口は感じ取った。

 走っていた美女は立ち止まった。

「除霊士か。邪魔するな」

 女性警官は何も言わず、道の端に避けてしまう。

「完全霊体の声、命令(オーダー)が混じってるんだケド」

「これが上下(かみしも)が作り上げた完全霊体なのね」

「聞こえんのか!」

 ただ声を発しているだけなのに、かかる霊圧(プレッシャー)が高い。

 冴島は負けじと強気に発言する。

「あんただって、これを受けてまともに立っていられるかしら?」

「相手にならん」

「かんな!」

 冴島は橋口の胸に、左手を当てた。

 すると、指先に集まる光が、急激に速く、そして、大きくなった。

「いけっ!」

 冴島の指を離れた光の弾は、一直線の軌跡を描き、絶世の美女へと向かう。

 一瞬、美女の表情が鬼のように歪んだ。

 辺りに強い光が広がり、何もかも光の中に消えて見えなくなっていく。

「麗子、外したの!?」

「当たってる、当たってるんだけど……」

 空気が振動し始めている。

 大地も揺れている。

 広がる光は、ラブホ街を包み込んだ。

 空気と大地の振動で、周辺一帯の建造物が、弱い部分から崩れていく。

 建物の壁が砕けた音を聞くと、冴島は橋口を庇うように覆い被さった。

「危ない!」




 光が消え去り、振動が収まった。

 霊弾の影響があったこの一帯は、停電しており、闇が包み込んでいた。

 倒れていた橋口は立ち上がった。

「麗子! ねぇ、ここ真っ暗なんだケド」

 声が返ってこない。

 橋口はスマフォのライトをつける。

 光で照らすと、風景が一変していた。

 建物を囲っていた塀が崩れ、建物は崩壊はしていないものの、外壁が削れてコンクリート片が広がっていた。

 まだ細かい粉塵が空間に舞っている。

 美女の霊体がいない。

 いや、そうじゃない。それより優先するべきことがある。

 橋口は改めて状況を思い出した。

「麗子!」

 思わず大きく息を吸ってしまい、咳き込む。

「麗子、どこ!」

 すぐ近くの瓦礫の膨らみが、反応したように動く。

 橋口は動く場所見つけると、砕けたコンクリートや木の切れ端などを退けた。

「麗子! 麗子!」

 橋口を庇って瓦礫の下敷きになったのだ。

 スマフォを動かして、全体を確認する。

 照らし出された冴島の姿は、埃まみれだったが、怪我はないようだった。

「!?」

 橋口が気配を感じ、見上げると建物の非常階段の上に、キツネの姿をした霊が見えた。

「麗子の曼荼羅に入ったキツネなんだケド」

『この()を守ることも、俺の使命だからな』

「麗子は無事なの?」

 キツネは頷いた。

 橋口は涙が込み上げてきた。

「ありがとう。本当にありがとうなんだケド」

『礼などはいい。ただ、ちょっと厄介なことになったぞ』

「なんのことなんだケド」

 狐は、空を見上げる。

『ほら、舞い上がった埃の動きを見てみろ。スノードームのそれのように見えるだろう。周辺一帯が球状に隔離されたのさ。さっきの霊体の仕業(しわざ)だ。どうしても、逃したくないヤツがいるんだろうな』

 舞い上がった埃が、何かにぶつかって巻き込むような動きを続けている。

 空に見えない壁があるかのようだ。

真島(まじま)を私たちが先に見つけないと」

 声に驚き、視線を地上に戻すと、冴島が立っていた。

 立ち上がると、手で制服についた埃を払い始めた。

「麗子!? 体、大丈夫なんだケド」

「キツネさんのおかげで、無事だったわ」

『お前の身体を抜け出たついでに、この隔離された空間を破れないか調べてくる』

「お願いするわ」

 非常階段の上にいたキツネは、跳躍して隣の建物の屋上へ、さらにスピードをあげ、さらに遠くの建物への飛ぶように去っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ