表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/31

ラブホ街へ

 絶世(ぜっせい)の美女、と言うのは一体どういう人を想定しているのだろう。

 そもそも『絶世』と言う言葉自体、美男や美女にしか使われないように思う。

 都内のラブホ街に、そんな美女がいたとしたら、どうだろう。

 注目を浴びるだろうか。それとも、連れと見比べないよう、目を背けてしまうだろうか。

 ここに『絶世の美女』が一人、立っていた。

 左右対照で、一切、ホクロもシミもない、滑らかな肌をしている。

 頭自体が小さいからか、背が高いせいか、九頭身はある。

 顔も、スタイルも、AIが生成したような、隙のない現代的な女性の姿。

 左右対称でありながらも、不気味の谷を乗り越え、違和感のないフォルム。

 髪は長く、前髪は垂らしていて、適当に風で乱れている。

 陽は落ちていて、あたりは暗いが、その女だけまるでスポットライトを当てられるかのように錯覚する。

 それほど容姿が、ずば抜けているのだ。

 男は、その女性を見ていて声をかけようと考えた。

 近づいた男は「よお」と声をかけた。

 視線が合うなり、男は次の言葉を告げた。

「いくら?」

「お前は『真島(まじま)』か?」

 男は少し首を傾げてから、言う。

「……なんだ、もう客取ってんのか」

 男は女から離れると、しばらく辺りを彷徨いていた。

 戻ってきた男は、まだ女が立ち続けているのに気づく。

「おい、すっぽかされたんじゃねぇのか? そいつとはいくらでやるつもりだったんだ? 金額言ってみろよ。場合によっちゃ金追加してもいいぜ」

 男は、女が『売り』をしていると勝手に判断していた。

 一瞬、女の目が、猫の目のように光って見えた。

「真島じゃないなら、うせろ」

 女の声が、特に低いと言うわけでもない。

 脅かすような、大きな声を出している訳でもなかった。

 ただ、伝わってくる。

 純粋な殺意、もしくは、恐怖が。

 男は意図せず震えてしまった。

 慌てて女に背を向けると、男はその瞬間に失禁していた。

 顔と股間を見られないよう、体を縮こめながら去っていく。

 誰かを待つように、女は腕を組んで目を伏せた。




 冴島と橋口は、柴田に送ってもらってあるラブホ街の前にいた。

「俺は車を駐車場に回してくる。もし、完全霊体いても何もしないで、まず僕に連絡して」

「今まで見つかってないのに、いきなり出会うわけないんだケド」

「そうかもしれないけど、とにかく油断は禁物だよ」

 柴田は、そう言うと窓を閉め、車を駐車場に向けて走らせた。

 二人は通りを歩きながら、張り込みすることになるラブホ街へ向かう。

 冴島はスマフォで地図を見ている。

「あっ!」

「いきなり脅かさないでほしいんだケド」

「この地名、というか地図、どこかで確認した覚えが」

 場所はラブホ街だ。

 女子高校生が、こんな場所に覚えがあるというのは、どうなのだろう。

「麗子の個人的な行動に口出しするつもりはないケド……」

「何、誤解しているのよ、そうじゃないわ」

 冴島はフォトスタのアプリを立ち上げ、画像を送り、何かを見つけた。

 その撮影場所の情報を表示させて、橋口に見せた。

「ほら、この場所」

「確かに、ここらへんなんだケド」

「ほら、これ『遠音(とおね)ミサ』のフォトスタの写真」

 位置情報を閉じると、遠音ミサの姿が映っている。

「ほら、あの時、フォトスタを調べて、位置情報の話をしてたじゃない?」

「思い出したんだケド」

「あの時、R木の交差点付近と、ここら辺がよく表示されてたんだよね」

 橋口は冴島のスマフォを操作し、遠音ミサの画像を拡大(ピンチアウト)して何かを見ている。

「どうしたの?」

「ここに男の人が映ってんだケド」

 遠音はエンコーの斡旋をしていたと言う。

 自らもエンコーしていたのかまでは、はっきりしていない。

 冴島が画面を覗き込む。

「あれ、この男の人……」

 自らのスマフォは橋口に使われている為、橋口のポケットから彼女のスマフォを取り出し、強制的に顔認証して操作を始める。

「他人のスマフォを勝手に操作しないで欲しいんだケド」

 しばらく操作していると、冴島は橋口に真島(まじま)選挙ポスターの画像を見せてきた。

「ほら!」

 選挙ポスター画像はガッツポーズをしているバストアップ写真で、服装はスーツだった。

 だが、フォトスタにアップされた画像ではバスローブを羽織っている。

「資料写真も、選挙ポスターも、髪を後ろに撫でつけているのに、こっちでは下ろしてる。こんなの良く分かったんだケド」

「かんなも、良くこんな小さい人の顔に気づいたよ、私この映り込みは見逃してた」

 二人はそれぞれのスマフォを交換した。

「これで坂神(さかがみ)上下(かみしも)、二人が真島と繋がった」

 橋口は頷いた。

「君たち、こんなところで二人して何やってるの? よかったらおじさんも混ぜてよ?」

 二人は声のする方に振り返った。

 ニヤけたヒゲの男が立っている。

「女の子同士でするとこ(・・・・)見せてくれるだけでもいいからさ」

 冴島は目を細め、軽蔑した目で言う。

「バカじゃないの?」

「いいねぇ。そっちの()に言葉責めされるのも」

「口を閉じて、今すぐここから立ち去るんだケド」

 橋口が制服の内ポケットから、バラ鞭を取り出す。

「道具もあるの? 理想系だな」

「……」

「あなたたち!」

 どこからか女性が三人に近づいてきた。

「その制服、宝仙院女子よね」

 ニヤけた男は何かに勘付いた様子で、走って逃げていく。

「……そうですけど。それが何か?」

「女子学生さんが、こんな時間、こんなところで何やってるの?」

「大声じゃ言えないことなんだケド」

 と言って、橋口は永江除霊事務所の仮ライセンスを取り出して見せる。

「!?」

「お姉さん、様子からすると警察の方ですよね? 私たちは霊能課から捜査依頼を受けて、これから張り込みを始めるところなんです」

「麗子、今の誰かに聞かれたらまずいんだケド」

 三人が話し合っているところに、さらに一人の女性が通りかかった。

 顔を伏せたまま、通りすぎようとしていた。

 が、その女性は冴島の制服に気づいて、顔を上げた。

「!」

 冴島も、視野の隅でその反応を捉え、相手を確認した。

遠音(とおね)!」

「麗子!!」

 ラブホ街の通りで、二人は互いに指を差し合っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ