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ツクヨミの交信

 翌朝、冴島と橋口の二人は飛行機で地方都市に向かった。

 その都市で、ガールスカウトの全国大会が開かれるということだった。

 空港を降り、タクシーで会場に向かう途中、永江所長の言葉を思い出していた。

『二人は要人警護の為に増員された、という形で派遣されます。警護をするのだから、本当に何かあった時は大変なことになるから、十分注意して』

 若い娘とはいえ、皇嗣(こうし)の子供なのだ。警戒は必要だろう。

『言葉使いは…… そうね。かんなちゃんには喋らせない方がいいかも』

 丁寧に喋っても橋口の語尾には『ケド』がつくに決まっている。

「かんな、今日(きょう)は……」

「喋るなって事!? 今日、それ何度目なんだケド!?」

「ごめん」

 橋口は久しぶりに着たスーツが小さくなっていたと言って、あまり体を動かせない。

「言わせてもらえば、麗子だって正しい敬語、使えるとは思わないケド」

「うん、私もそう思う」

 タクシーが県の施設の前で止まった。

 二人は降りると、施設に向かう。

 入口を警護している警察に会釈した。

「警護の方?」

 冴島と橋口は、発行してもらった身分証を警察へ提示する。

「はい。内親王殿下はどちらに()られるのでしょうか」

「入って右奥を通路を進んだ先に部屋がありまして、そこを控え室としています。警備が厳しいので分かると思います」

「ありがとうございます」

 二人は内部を歩いていく。

 視線を感じるたび、その視線の先を確かめる。

 制服の警官以外にも、私服警官あるいはSPと呼ばれる人間が施設内に沢山配置されてるようだ。

 いくつかチェックを受けながら、右奥の通路を奥に進むと、内親王殿下の控え室についた。

「あまり時間がありませんので、手短にお願いします」

「わかりました」

 冴島はそう言うと、宮内庁の人間に連れられて殿下の前に通される。

「こちらが冴島麗子、こちらが橋口かんなと申す者です」

 華奢な女性が立ち上がると、宮内庁の人間に言う。

「お前は、下がってよい」

「しかし、規則では……」

「規則というなら、お前に『儀式』を見せるわけにはいかぬぞ」

 宮内庁の男は出ていく。

 その間も、二人は頭を下げたままじっとしていた。

「顔を上げなさい」

 冴島は頭を上げて、まっすぐ前をみた。

 橋口ががっつり内親王の顔を見ようと、見上げるので、慌ててやめさせる。

「要件を、今一度確認したい」

 冴島が頭を下げてから説明する。

「警視庁霊能課のアリス刑事が、時のループの中を彷徨っています。彼女がそのループを終わらせないと、やがて世界(うちゅう)のエネルギーが使い果たされてしまいます」

「ツクヨミの力を使えば、その『時のループの中』で彷徨っている『アリス』という者と会話できるはず。そういうことだな?」

「はい」

 内親王殿下が大きな『ため息』をついた。

「……ほら。気楽にしていいよ。この言い方は疲れるから」

「は、はい」

 内親王殿下が椅子に座る。

 机には紫の絹布で包まれた物があった。

「ほら、立ち上がって、反対側(そっち)に座りなよ」

「よろしいのですか」

「時間がないんでしょ」

「申し訳ございません」

 橋口は、すでに椅子に座っていた。

 両手を大きく伸ばすと、あくびをした。

「堅苦しいと眠くなっちゃうんだケド」

 冴島が口を開くなと、合図を送る。

「いいのよ。本当に」

 そう言いながら内親王殿下は絹布を開いていく。

 冴島と橋口は、息を呑む。

 絹布で包まれているものから強い霊力を感じているからだ。

「あんまり緊張しなくていいのよ。これ、大したものじゃないから」

「こちらから受ける霊力が強すぎます」

「ああ、発せられる霊力で緊張しているのね」

 まさかこれが三種の神器(じんき)ではあるまいか。だとしたらそれこそ盗難されたら大変なことに……

「これ例の『三種の神器』なんだケド?」

「まさか。違うよ、そんなの私じゃ触れない」

 冴島は自分の胸を抑えた。

 内親王殿下に対しても、軽く質問をしてくれる橋口に助けられた。

「まあ、古い鏡ではあるけどね。ツクヨミの力を使う訳だからそれなりに霊力の高いものを選んでもらっている」

「ありがとうございます」

「早速始めるよ。鏡を通して、時のループにいる人に呼びかける。あなた達はこの鏡に、目的の人が映ったら伝えたいことを言うの」

「わかりました」

 内親王は十センチほどの円形の鏡を持って、目を閉じると何かを念じ始めた。

 血の力が、鏡の持つ霊力と反応する。

 何も映っていないガサついた金属の鏡面を冴島、橋口の側に向けた。

「えっ!?」

 鏡面が突然、静かな水面のように滑らかに変わった。

 そして、遠く離れた世界の様子を映し出した。

 金髪の髪に、黒いリボン。

 水色のワンピースに白いエプロン。

 鏡に映るその人物は、アリスだった。

「アリス刑事!」

 鏡はどこか薄暗い部屋の中にあるようだった。

 アリスは通りにいる。

 冴島の声が聞こえたのか、アリスはゆっくり、こちらの方へやってくる。

 鏡側、上の方から声が聞こえてきた。

『選挙戦は大詰めを迎えており、N県N市にも元首相であるX氏の応援演説が……』

「テレビのニュース!? なんでそんな音声が……」

「麗子、アリスとの会話を続けて。気になるから私は、N県N市のニュースを検索するんだケド」

「アリス刑事!」

 もう一度、呼びかけるとアリスはさらに近づいてきた。

 解放指定ある店の戸口まで来ているが、視線は鏡の上にあるのだろうテレビの方に向けられている。

「こっち!」

 冴島が小さい古代の鏡に顔近づけ、そう呼びかけた。

『麗子ちゃん?』

 どこから聞こえているかわからないようだったが、アリスに声が届いたようだった。

「アリスさん、時のループを脱出してください」

『麗子ちゃんなのね? 私、ここから脱出できないの。何度も同じことを繰り返してて…… 上下が降霊した『陰鬼』のせいなのかも』

「違うんです。『陰鬼』には時を操る力は……」

 言いながら冴島は祈る。

 あくまでアリスが自分の意識で考えることが必要だ。

 今、この状態でアリスに原因を言ったら、拒否されてしまうだろう。

 事実を受け入れることを拒否し、タイムリープしたらまた繰り返してしまう。

 お願い、今ここで時間跳躍(タイムリープ)しないで。

『……無い訳ないよね。私、そう言う話、聞いたことがあるわよ』

 まだ大丈夫だと判断し、冴島は言葉を続けた。

「そういう話は無いんです。私たち、陰鬼を封印していたお寺に行って話を聞いてきました。古文書(こもんじょ)に、陰鬼が時を操る記述は一切ないと」

『……』

 小さな鏡に映るアリスの映像が歪んだり、色が失われたりと、乱れ始めた。

 殿下は鏡の力を引き出すために、精神集中しているせいか、汗が垂れてくる。

 冴島はアリスが言葉を理解してくれる時間を待つ間、殿下の汗をハンカチで拭った。

「麗子、ちょっとこっちも見るんだケド」

 橋口がスマフォの画面を見せてくる。

 N県、N市での選挙演説の記事だった。

 演説に対しテロが予告され、警視庁からも応援の警官が多数動員されると言う記事だった。

 冴島はアリスに聞こえないよう、橋口に言う。

「警視庁の応援て、まさか、アリス……」

 橋口は別のサイトの情報を見せてくる。

 冴島はそれを見た後、事実を受け止めるように瞼をそっと閉じた。

 そして、鏡に向き合った。

「アリスさん。お願いです。そのままその時の中に居続けることは出来ないんです。もう、そっち宇宙(せかい)が縮小し始めている」

『陰鬼の本当の力は何?』

「人の持つ暗い気持ちや記憶を読み取り、思い出させるそうです。アリスさんなら、きっと未来のことも含まれ……」

 ヒントになると思って選んだ言葉『未来』は失敗だったか、と思って冴島は口を手で押さえる。

 アリスが拒否反応を示して、ここで時をループされたら、また初めからになってしまう。

『……』

「陰鬼の存在には気づいているんですよね? この後、出会うと思うんです。その時」

『わかった。心を落ち着けて、冷静に判断する』

 時をループしている本当の原因は……

「お願いします」

 鏡の映像が安定していることから、アリスの精神が落ち着いてきたと判断した。

「殿下」

 冴島が、内親王殿下へ呼びかけると『古代の鏡』は、ガサついた表面を持つ金属に戻った。

 ゆっくりと鏡を箱に戻し、絹布で包んでいく。

 箱や絹布に守られ、発していた強い霊力が感じられなくなっていく。

 二人は椅子から下り、床に跪いた。

「ありがとうございました」

「もう大丈夫? 宇宙(せかい)の危機は回避できた?」

「アリス刑事の気持ち次第ではありますが、手がかりは渡せました」

「そう。よかったわね」

 殿下のその優しい笑顔で、自然と二人の緊張が解けた。




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