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寺の調査

 冴島と橋口は、学校の制服のまま大きな荷物を抱え、特急に乗っていた。

 二人は国内最大の半島に向かっていた。

「本当にこの『寺』で良いのね?」

「ここまで来て、そんな確認をする意味は何か、聞き返したいんだケド?」

 冴島は橋口の調査が信じきれなかった。

 橋口の調べによると、向かっている寺には、陰鬼を封じ込めていた仏塔があるという。

「その寺って、総本山なのよ?」

「もうアポ取ってんだから、覚悟決めて欲しいんだケド」

「そうよね……」

 やるだけやって、分かった事実を伝えるしかない。

 電車を降りると、今度はケーブルカーに乗り換える。

「本当に山なんだね」

 橋口は景色を見ているのか、反応がない。

 その時、ケーブルカーが止まった。

 下りの車両とすれ違う場所だった。

「!」

 車両が激しく揺れる。

 凄まじい音と共に、車両のガラスが割れた。

 割れたのは冴島たちとは反対側、下り車両に面した方だ。

「何! 何が起こったの?」

 乗客は割れていない二人の側の方へ逃げてくる。

 下り車両の窓から、小さい男が乗り移ってきた。

 小さいながら、体にピッタリとあった黒いスーツを着ていた。

 怯える乗客に注目される中、男は言った。

冴島(さえじま)麗子(れいこ)! 橋口(はしぐち)かんな!」

 橋口が立ち上がる。

「お前は……」

「かんな、あいつの事、知ってるの?」

「……ド忘れしたんだケド」

男の側(むこう)は覚えてるのかしら?」

 男はキョロキョロと見回しているが、二人を見ても何も言い出してこない。

「もう一人いたはずなんだケド」

 橋口がそう言うと、下り車両からもう一人の男が、窓枠を力ずくで広げ、乗り移ってきた。

 後から乗り移ってきた男は、極端に体が大きい。

 彼にとってケーブルカーの天井は低すぎて、背中を丸めて立っている。

「思い出した! こっちがビック」

 大きい男を指差した後、橋口は先に入ってきた小さい男を指差し、

「……で、こっちがスモールなんだケド」

 と言い切った。

 小さい方の男が怒りを露わにした。

「違う! 俺たちは(ダイ)(ショー)だ。言っとくが、ショーと言っても飛翔の『翔』だからな!」

 橋口は肩をすくめ、手を広げると言った。

「バカね。大小(ダイショー)と言ったらショーは『小さい』という(しょう)に決まってるんだケド」

「あっ、お前。思い出したぞ! 鞭女!」

「あん時のガムで使えなくなった携帯、弁償させてやるんだケド」

「とにかく、お前たちを寺には入れさせん」

 大と翔。

 この二人には『何か』が()いている。

 橋口が初見で感じたと同じように、冴島もそう感じていた。

 ただ、除霊する悪霊、というよりは、何か、彼らの生まれに強く関係していて、切り離せないようなものだ。もし本当にそうなら、それは『守護霊』と言っても良いのかもしれない。

「『寺に入れさせない?』ということは、やっぱり寺には何かあるってことね」

「気付いたところでもう遅い。俺たちがいるからな」

「ショーのくせに、偉そう何だケド」

 鞭を握って前に出ようとする橋口を、麗子は制した。

「かんな、乗客がいるのよ。私が九字を切って動きを封じるから」

 橋口は、無言で頷き、ばら鞭を構える。

「臨、兵、闘……」

 唱えながら、冴島は指を組み変えていく。

「やれ!」

 翔が言うと、大は窮屈そうな車内でも体をしなやかに動かし、頭を振った。

 すると、弾丸のようなものが、大の口先から飛び出した。

 橋口は、瞼を閉じ、鞭を振るった。

 鞭の先は、最短距離を通ってその弾丸のようなものを弾いた。

 車両の天井についたそれは、以前、橋口のガラケーを動作不能にした『ガム弾』だった。

「!」

 ドヤ顔をキメようとした橋口の顔に、遅れて飛んできた液体がかかった。

 『その液体が何か』ということを、橋口は気持ち悪くて考えたくなかった。

「もう一度!」

 翔がそう指示する。

「者、皆、陣……」

 再び大が体をくねらせ始める。

 橋口は気持ち悪さと悪臭で体を震わせている。

「麗子、早くして!」

 再び発射される『ガム弾』、速度は増していたが、橋口の鞭は簡単にそれを弾いた。

 車両の壁に弾かれるガム。

「くそぉ!」

「……烈、在、前」

 最後の印を結び、そのまま両手を前に突き出す。

 見えない『力』のフィールドが広がる。

 翔の体がフィールドに入ると、眠るように膝が落ち、体が前に倒れた。

 さらに広がるフィールドが、後ろの大を包み込むと、大の体は拒絶するように震えたが、最後には仰向けに倒れてしまった。

 乗客の一人が怯えたように言った。

「こ、殺したんですか?」

 冴島は落ち着いて乗客に説明した。

「眠っていただいただけです」

 乗客がいたため、まず最低限の簡単な検証が行われた。

 ケーブルカーの安全が確認されると、窓ガラスが割れたままだったが互いの終点まで車両は移動した。

 大と翔は警察に引き渡され、橋口はお手洗いを借りて何度も顔と服を拭いた。

「ああ!! 匂い取れないんだケド!!」




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