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勇者紀行〜sword of Greedia 〜  作者: 紅柚子葉
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プロローグ

 とある国の地下深く。水滴が落ちる音しか響かない暗闇に、重い扉が開かれた音が染み渡った。それを聞いた少年は、久しぶりに目を開いた。少しずつ近づいてくる足音と話し声。

(また、いつもの時間か……)

 少年は顔を俯かせ、もうすぐ感じるであろう痛みに体を震わせた。

 少しすると、足音は少年の目の前で止まった。顔を上げると、松明を持ったよく見る鎧の騎士と、その隣に長身の男がいた。彼は長い髪を結んでおり、口には葉巻が咥えられていた。

「おいガキ、ここを出たいか?」

 男は高い位置から少年に問いた。その声に対し、少年はゆっくり頷いた。

「そうか。なら、こいつは約束通り俺が貰っていくが、いいな?」

 男は振り向き、後ろで震えている騎士に言った。

「はい。……しっ、しかし! こいつを解放するのはやはり反対です! なぜならこいつは──」

「”魔王の子“だから、か?」

 男の鋭い目線に騎士は思わず一歩引いてしまった。

「は、はい。こいつは化け物です。たとえオルガ様でも……」

 そう騎士は怯えながら言った。オルガは再度、少年の姿をじっくりと見た。手足は鎖で縛られ、体のあちこちに痣があった。

 俯き目線を合わせないようにしている騎士を、オルガは鼻で笑った。

「はっ、その化け物を毎日意味もなくぶん殴ってた野郎はどこのどいつだよ。俺が殺されるレベルなら、とっくにお前は死んでるぞ」

 オルガは葉巻を口から外し、大きく煙を吐いた。

「おいガキ、さっき俺の言葉に反応したってことは、言葉はそれなりに分かるってことでいいんだよな」

 しゃがんだオルガは、少年の顔を見つめた。

「……そいつらが、俺を殴るときに言ってたやつなら、分かる」

 少年は、その傷だらけの口から小さくこぼした。

「へぇ、聞いただけで言葉を覚えたってのか。似てんな」

 男は小さく笑い、立ち上がった。そして、一瞬だけ少年の周りに閃光が走った。

「今日から俺がお前の親父だ。感謝しろよ、ガキ」

 そう言って、オルガは笑った。少年の体を縛っていた鎖は、彼が持っていた剣によって切断されていた。少年はゆっくりと立ち上がり、男の目を見つめた。

「なんだ? 感謝のあまり泣きじゃくるか?」

「その”感謝”って言葉の意味、教えろよ」

「へっ。いいぜ、俺ん家でな。……ところで、ガキに名前はあんのか?」

「名前?」

「お前、なんて呼ばれてたんだよ」

「……魔王の子とか、バケモンとか」

「へぇ、そりゃあ大層な名前だな。……よし、お前の親父であるこの俺が名前を付けてやる。お前の名は、”クリュード・ランス=リヴォルディ”だ」

「クリュード・ランス=リヴォルディ。どうしてその名前にしたんだ?」

「さあな、男の直感だ」

 そう言って、オルガは笑った。大人とは思えない無邪気な笑顔が、クリュードの心を温めた。

「直感か。いいな、それ」

「だろ?」

 男は葉巻を咥え直し、階段に向かって歩き出した。その背中を、クリュードは見つめていた。その時、少年は初めて笑った。

○六大国


この世界に存在する六つの主要な国。

ホノルン王国、工業国キキルリ、獣国ガルラン、サンズ連邦共和国、貿易国レイデン、大公国サクレドの六つを指す。

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