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.5 「マナ、そんで朝ごはん」

 

 翌朝。目が覚める。気分は小学生、クリスマスの日の朝に枕元を見る時のような高揚感を覚えた。


 マナ、果たして見えるんだろうか。確認しようにも方法が分からない。逸る気持ちを抑えきれず、辺りをキョロキョロと見回した。――すると、気づく。


 一面に広がる自然。草の色、川の匂い、空のコントラスト。そのどれもを、いっそう鮮やかに、際立って感じた。それだけならば、気のせいと片付けることもできる。しかしそうではない。明確に、差異を見つけた。


「……これが、マナ」


 思わず言葉が溢れ出るほどの感激。大自然の中に、それはあった。

 仄かな光を放つ、色とりどりの球体。ふわふわと空気中に浮かんでいる。RPGやファンタジーラノベで、精霊だとかなんだとか表現されていたような、視覚化されたエネルギー体だ。

 王城で読んだ本には挿絵なんかはなかったし、前もって教えられていた訳でもない。それでも――確かにそれがマナ。魔術の根源であると、直感的に認識出来た。


 ……この世界に召喚されてから、今日で三日目。ゲームのようなこの世界で、様々なものを見た。その全てが俺にとって新鮮で、非日常的だった。けれど、その中でも1番だ。この世界を、異世界であるとこうもはっきり理解したのは。

 嬉しすぎて、思わず感嘆のため息をついて、仰向けになって倒れ込んだ。


「はー……」


「……随分、その、打ちひしがれていますね……?」


「うぉあぁっ!?」


 その時、唐突に、視界に影がかかった。驚いて、反射的に起き上がる。ごつんと、何かとてつもなく固いものと額が触れた。ぎゃあと叫び声を上げる。魔獣の襲撃か隕石か。そう思って、額を抑えながら、きゃあと声のした方向に視線を向けると――


「……うぇあ、あ、ユズリさん……」


 護衛の白髪美少女、ユズリさんがいた。不寝の番はキースさんのはずだったが……そう思って振り向くと、運転手さんを枕に大の字で寝こけているキースがいた。どうやら、彼に代わって夜の監視を行っていたらしい。


「あ、えっ、あっ、ご、ごめんなさい! 勇者様、私、その、私のツノにおでこが……」


 彼女の方に向き直すと、ぺこぺこと頭を下げながら、必死の様子で謝っていた。言われてツノのところを見てみると、若干量の血が付着していた。


「あ、なるほど……いや、驚きすぎた俺が悪いので。……えー、その、気にしなくて大丈夫です……」


 ……沈黙。倉庫での気まずい時間を思い出し、同じ過ちを繰り返してはならないと、咄嗟に口を開いた。この異世界で、俺は確実に成長していた。――が、話題が出てこない。大口を開いたまま固まってしまう。


「あー……」


 死にそう。それを気遣ってか、ユズリさんはまた口を開く。


「えと……勇者様、その、本当にすみません。私がきっちり躱していれば……精進、精進します」


「いやその、もう十分強いので……これ以上強くなったらいよいよ俺の出番が無くなっちゃいますね、はは」


 謝られてばかりで申し訳ない、とジョークで和ませようとしたら失敗した。もういい、殺してくれ。


「……うぅ。本当ごめんなさい」


 いやいやいやと、手をぶんぶん降ってそれを否定する。そういうつもりじゃないんだと。否定したところで、さてどうしようか。考えると、ふと思いついた。


「そういえば、朝ご飯。まだじゃないですか? ……えーっと、俺、作りますよ」


 言って、余計なお世話じゃなかっただろうかと。が、


「あっ、ほんとですか! 勇者様、お料理できるんですね!」


 思っていた数倍の好反応に、調子に乗って続ける。


「ああ、ええはい。凄いできます。実は元プロだったんです。嘘ですが。でも人並み以上には出来ると思いますよ」


「すごい! で、でしたら、お願いしてもいい、ですか……?」


 俺の意味不明な冗談にも、ぱちりと手を合わせ、目を輝かせて答えてくれた。いや冗談には反応してないか。涙ぐむ。が、どうあれ間違いなく、この人は天使だ。通り越して女神とも言える。どちらにせよ下界より天界寄りの人格を持っていることは確かなようで、彼女は正座をして、期待満点な視線をこちらに向けてくる。俺は腕まくりをして、うし、と気合を入れた。


 昨日食べきらなかった魚や、その他王都から持ってきた日持ちしない方の食材を幾らか準備する。せっかくだし、パーティ全員分だ。朝の目覚めを万全のものとする絶品モーニングをこしらえてやろうじゃないか。


 というわけで、料理が始まった。ユズリさんに火を起こしてもらう。


「……てか、炎魔術も使えるんですね。なんか昨日の技とか湿ってたぽかったんで、てっきり水属性なのかと」


「あ、はいそうですね。私は、一通り全属性の魔術を使うことができます。その、魔族なので」


「なるほど……そういえば聞いてくださいよ、俺、さっき起きたらマナ見えるようになってたんですよ! いや、ほんとにマナかどうかは分かんないんですけど、それっぽいものが、昨日言ってた通りに!」


 薪の上に鍋を乗せ、調理を進めながら、世間話だ。つい、ハイテンションでマナ(?)が見えるようになったことを報告してしまう。なんとなく恥ずかしがっていると、ユズリさんは喜ぶように言った。


「え、そっ、そうなんですね! 良かった、嘘にならなくて……ええと、どんな風にですか?」


 どんな風に? 予想外の質問が飛んできて、首を傾げる。分からないなら大丈夫と慌てて補足を入れてきてかわいいが、さておいて。ぼんやりとだが答えが思い浮かんだので、それを伝えてみよう。


「んー、なんというか……色んな色のやつが見えました。その、草の近くなら緑で、川の近くなら青で、今、このたき火には赤」


 すると、彼女はその綺麗で大きなおめ目を丸くしたようだった。あれ、なんか変なこと言っちゃった? と、お約束みたいな気分になる。恐る恐る聞いてみると、こんな答えが返ってきた。


「いえ、その……流石は勇者様だな、と」


 マジでお約束じゃん。そう思っていたら、細かい説明をしてくれた。

 なんでもマナというものは、本来1人につき1、2種類しか見えないものらしい。俺のように何種類も見えるものの大抵は魔族で、純人間の殆どは自分に特に適正のあるマナしか視認することが出来ない。マナの見える種類、色の数が、そのまま魔術の適正に繋がっている、だそうだ。


 俺は今、文字通り()()()()()にそのマナを見ている。自然物、人工物、生物にもだ。空に空色マナ、鍋に灰色マナ。パーティ全員にピンクがかった肌色マナと、それぞれ使用する魔術に対応した色のマナ。そしてユズリさんにのみ、黒のマナも。


「赤や、青や、緑は、そのままその色に対応した自然物、人工物です。そこから派生するように、光には黄色だったり、氷には水色だったり……おおよそ、それらが持つ色のイメージに対応した色が着きます。生物には命を司る肌色。魔族には……」


 と、そこで口を閉ざす。今更ながら俺はそこで、彼女の語り口や、文献の情報から、彼女は自身が魔族であることを気にしているのではないかと思い当たった。咄嗟に言葉を遮る。


「なるほど、色々あるんっすね! えーっと、そしたらそれでどうやって魔術を……?」


「あっ、は、はいそうですね、魔術です。マナを使うと魔術が使えます。……と言っても、私はかなり直感で魔法を使ってしまっているので、あんまり具体的なアドバイスをして差し上げられないのですが……」


 またか。皆感覚で魔法使いすぎじゃない? 少し不満を抱くが、そこは美少女。ひとつ、参考になることを教えてくれた。キースさんとは大違いだ。


 城でみた魔術師たち。彼らが手に取り振り回していた杖や宝石には、ちゃんとした意味があるらしい。あれらには、マナを1箇所に集めるような効力があるらしいのだ。


「ってことは魔術ってのはマナを1箇所に集めれば使えて……」


「集めるには意思、欲の力、魔術を使いたいという強い思いが必要なんですが、道具はそれを補ってくれる。です。宝石は何故かマナを呼び寄せます。杖は細長いので、マナを集める想像がしやすいんですね」


 なるほど。だんだんとイメージが湧いてきた。魔術、凄く楽しそうだ。難しそうでためらいもあるけど、ワクワクとした気持ちがそれを塗りつぶす。勢いが出てきた。


「じゃ、例えばこの菜ばしでも――」


 と、具材をかき混ぜていた細長い棒を軽く振り上げ、冗談交じりに祈ってみた。炎よ出ろ。


 ぽーん。じゅわ。「あぢゃぢゃぢゃっ!! なんだ!? 敵襲!!?」


 ……出た。爆睡中のキースさんにぶつかり、飛び起きて火を擦り消す。ユズリさんと目を合わせ、その後同時に跳ねる男の方へ視線を。


『きっ、キースさーん!!』



 二人、揃って叫んだ。



3話の出だしを改稿しました。ギルインという名前の魔王城は、主人公が召喚された街の、大陸を横断した向こう端にあります。という内容です。

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