99〜勇気の一歩〜
レンブラントならどう描くか。
茶尾は余程疲れていたのか、スマホの着信ランプが点いていたと知ったのは帰りがけ、苦手としていた他社の担当者との気不味い状況を打破する為に手にした時だった。
何時鳴っていたのかも判らないのは、午後と共に住宅展示場へやって来た普段に類を見ない程に大勢の来客対応に追われていたからだ。
その集団は子供を連れ、犬を連れ、息抜きに花を抜き、迷子の子供にゴミを置き捨てと……
ようやく帰った後に芝庭を見れば、糞尿を落とされていた事実に肩を落とし、展示場内は疲弊していた。
プレゼント企画で子供の玩具目当てに来る客等を一部の営業マンは【物貰い】と詰り馬鹿にした目で無下に扱っているが、
そのプレゼント無くして来る事も無い来訪客の数に、実状を考えれば目的関係なく来てくれた客を大事に営業をしなければ見向きもされない現状すらも解らない者といえる。
それは釣りをテレビや管理釣り場やで知った気になっている恰も論者のそれと同意。
実際には撒き餌で寄せて紛らせた針付きの餌に食い付くのを待ち、餌だけ取られても尚静かに繰り返す。
ルアーや毛針だって何度も何度も手を変え品を変え繰り返す疑似餌による誘惑に。
茶尾は釣り好きではないが、川や海を眺めてボケぇっとしているのが好きで休みに用が無ければ竿を垂らしに行く程度。
竿からもその欲の無い感覚が伝わるのか、撒き餌での釣果は高いが、忙しない疑似餌での釣果は惨憺たるモノだった。
しかし、この日の釣りは、撒き餌でも疑似餌でも無く、河口から河川に迷い遡上して来たボラやアザラシでも無く。
突然、誰が放ったのか川に現れた人をも襲う外来種。
嵐のような一時は二時間程で過ぎ去った。
その間に取れた契約は何処も無く、釣果はゼロの坊主と判り
各社、何が起きたのかと話は尽きず、その来訪客が何の集団なのかに注力していた。
何故か、それは破壊された建造物そのものに家具インテリアにと、プレゼントでは無い盗まれた物の数々に、警察案件にするかしないか各社との確認にと……
それは警察が来てからも防犯カメラの映像にも映る顧客の数々にと、配慮したい者と暴挙の混ざるデータの提出に本社との確認にと……
幸い茶尾の新河林業は木材の無垢なデザインを基調としている故か他社のようなインテリア小物を使った演出は少なく盗難は無かったが、
無垢材に付いた傷の数々に、器物損壊とするかの確認に追われた。
そうして気付けば帰宅時間に。
茶尾は偶に帰りの重なるやたらとプロ意識が高い他社の担当者があまり好きでは無かったが、この日の帰りも重なり話を聞いたが初めて笑っていた。
「え、プレゼント企画の商品まだ残ってたんですか?」
「出し惜しみって訳じゃ無いけどタダでやったら物貰いはまた来るから迷惑でしょ。でも、物盗りにヤられるくらいなら物貰いにあげとけば良かった気がして来ましたね」
「プレゼントだけでまた来るお客さんなんて凄い上客ですよ」
「え?」
「逃がした魚は大きいものですよ」
「……私は逃して無いし、これからも逃すようなミスはしません」
「あ、釣りの例えで」
「私は釣りなんて無駄な時間は使わない、だからここでも人の居ない時間は常にネットを使って模索してるんです。確か新河さんのホームページは……」
「ああ、すいません今日は友人の店に行く予定があって連絡しないと、すいません今日は、ええ」
そう言ってスマホ片手に急ぎ道を変え見えなくなるまで普段使わない駅へと向かっていたが、スマホの着信ランプに覚え無く、急ぎロックを解除し確認すれば先輩からだった。
営業故か着信時間を確認して、遅ければ謝罪を付けるつもりだったが今の今。
スグにかけ直すが繋がらない。
不安が過るが、駅に入るとタイミングが良いのか悪いのか列車が入る。
帰宅ラッシュに電話は出来ず、メッセージを打っていた。
――PIIIII!GAKKONN!――
――MUUUUUUUUUUU――
茶尾の乗った列車の下を議員車両が反対方面へ走っていた。
沢抹参議は、自身が金皮県知事時代に作った借金の返済の補填に都の予算を奪おうと知事選への出馬も、敗色濃厚と見るや参議院へと掌を返し
都のオリンピックの開催が決まると格好の餌場と見て集る蝿のように関連施設や道路建設を金皮県に跨がらせ、建設予算を割り当てる。
そのオリンピックに自身が影響力を持っている事を示す為、別の県に決まっていたゴルフ会場を金皮県に寄せようと画策し、
ゴルフに関する政治連盟の名の元に女性蔑視を訴えた狙いは、都知事の後援団体のフェミ団体に対してどちらに着くのかの圧力とした。
これに揺らいだのは都知事の方。
オリンピック関連予算として都の予算を垂れ流し、その隠蔽工作の手助けに弁護士上がりの丘元都議が就く。
丘元都議の人体実験好きのサイコな性格は沢抹参議と馬が合い、金皮県の縦巾市内を活動拠点にしていた中で。
沢抹の煙草叩きの箔付けにと始めた魔女狩り裁判に、丘元都議は被害者の診療カルテをとある医者に提出させて煙草の副流煙を原因としていたが……
丘元都議は弁護士のする事とは到底思えない違法行為に手を付けていた。
診療カルテの偽証工作。
診療すらもしていない被害者の、裁判の弁護の都合に合わせた診療カルテを依頼して、裁判に提出した挙げ句に焦点として法外な金額を請求していた。
裁判記録を確認すれば、それが如何に非道く悪質な裁判軽視の噓吐きかが判る。
偽証罪で訴え弁護士資格を剥奪すべき案件にも、何故か金皮県警所轄に委ねられたその捜査時期に容疑者は、迎えた都議選に再選を希み何事も無い顔で出馬していた。
その選挙区こそが、透子達の住む街だ。
絶対に当選させてはならない容疑者の出馬に、怒りを顕にする藤達だったが……
誰の力か、その事実を伝えるメディアは何処にも無く……
「で、彼は当確にあるのか?」
「先生がメディアを押さえたお影で例の影響はないでしょうが……」
「都知事か?」
「ええ、あの化け狸の動き次第では」
「音岳、任せたぞ」
議員車両で向かっていたのは自身の選挙活動とは別に、都議の支援者確認だった。
コウモリ議員にとって重要なのは比例の順位付けだが、落ちて闇に光が射すような政局になれば確実に逮捕されると理解しているからこその参議。
悪質な犯罪の数々に不安は尽きず落ち着かない。
「高足、例の床鍋からの偽情報の落とし所はどうなった?」
「どうやらアチラさんも噓を本当にしようと画策し出してるみたいなんで様子見です」
明けない答えに沢抹は窓向こうの看板の明かりに、自身が潰した人の数々と捉えて尚も光る看板を憎々そうに眺めていた。
暗躍する悪行の大きさ故に、その他の影も揺らぎ出している。
大気の揺らぎが星の瞬きを引き起こし、キラキラ光るお星様。
闇夜に浮かぶは光か影か……
――PIPO――
天扉岩の山の中で、スマホの明かりが虚しく灯っていた。
大気の揺らぎに気圧も変わり、頭の痛い話に嵐が吹いた……




