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96〜勇気の一歩〜

 光と縄



――PURURURURURURURURU――


 藤の元に一本の電話が入る。

 それが誰なのかを知り、焦る姿は尋常ではなかった。

 話を聞いて藤は更に驚き、話の整理が追い付かずに困惑へと変わっていく。


「いや、信じる。信じる他にない。だが、その話が本当なら、あの子は誰なんだ……」


 藤が電話を片手に、昔行ったキャンプで皆と川で撮った写真を眺めている。


「分かった。後はこっちでやるから動かずじっとしてろ」


 電話を切ると何かを思い出したのか、設計図を手に取り考えていた。








――CHIRINCHIRINN――


 先程のスーパーに一人戻って来た透子が駐輪場へ向かっていたが、奥に在る記憶に近いシルエットに立ち止まる。


 見ればいつからそうして居たのか、スマホ片手に店の裏口への階段に寄り掛かっている藤真。


 夕方の買い物客で混み合う時間の前とはいえ、道から一番遠いからか、怪しい立居振舞の藤真のせいか、奥へと向かう客は少ない。

 透子が奥へと進むと、藤真が近付く足に気付き顔を向け微笑んだ。


「よ!」


 藤真の挙げた手と笑みに、意味を解せず透子の眉が寄り、睨みを強める。


「何のつもり?」


「お前が此処に来た理由はこれだろ?」


 藤真がポケットからUSBメモリーを取り出すと、それに何が入っているのかを理解し奪おうと手を出す透子を、交わすように引っ込め戯ける藤真。


「おっとぉ、その前に話が……」



 が、手を見ると物が無い。


「え?」



 透子の手にはUSBメモリー。

 上着のポケットにしまうと構える姿に、もう間に合わない事を悟る藤真の口と目は開いたまま……


 一応までにと言ってみる。


「待て、話を聞……」


 聞く気も無く差し迫る透子の掌を見つめ、思う処に後悔をしていた。


 何故先に話をしなかったのかと。

 そして、毎度の如くにきっと起き上がった頃には消え去っているだろう予感。

 事の説明をする事も出来ず、今から一部の記憶と共に吹っ飛ばされる覚悟……



〈あぁ、これ顎に向かって一直線じゃねえか! さ・す・が……〉


「どすこぉおおおいっ!」



――DOTTEEEEENN――








「おぉい真、大丈夫か?」


 目を開けると知った顔に安堵と共に事故時の走馬灯のような予想が当たった事を理解したが、確認する藤真。


「マサさん、ファットは?」


 親指を道の方へと向ける男は藤真の無事が判り立ち上がると、意地悪に尋ねる。


「なんなら今のも持ってくか?」


「……」


 黙り考える藤真の頭を叩き笑って店の裏口へと戻って行く男の後ろ姿に、立ち上がり頭を下げると服を払い溜め息一つに気合いを入れ直す。


 透子のお影で見えた一筋の光に藤真は急ぎ社へと足を向けた。








 割ったデスクの代用に会議室から持って来た長机に肘を置き、二瓶が室内で携帯電話を使い話しているのを久し振りに見た野上。

 電話を切った後に起こるだろう惨事を予想し、花瓶やグラス等の硝子や陶器を遠避けていく。


 そして、効くか否かは知らないが若手の秘書が取り敢えずに用意していた宅配の緩衝材を束で二瓶の肘の脇に置いていた。




 それは、今朝この長机を部屋に運び入れる際の野上と若手の会話からだった……



 分厚いデスクを割る程の力は、CMで見た卵を落としても割れないマットみたいな物で防げないのか? という若手の質問から始まった。


 しかし、それを野上は既に使用していて、ドンと座ると椅子の調整部に衝撃が流れる事から無理だと言う。


 それなら洗濯機に敷く振動吸収剤等はどうかと聞けば、サイズ的に叩くのにもピンポイント過ぎじゃないのかと。


 それを聞いて若手が連想したのはドラマや映画の裁判官。

 叩く姿を想像してか、思わず笑って調度いいんじゃないかと調子に乗った悪ノリに、野上は素直に考えていた。



「……それ、想像したら余計な事まで思い出して尚更頭に来ちゃうじゃない」



「あぁぁ、ならプチプチはどうです?」


「あ、それならこの前の発注品で大量に……」




 そうして用意していた緩衝材の束だ。


――PIPU――


 電話を切った二瓶は野上の予想を裏切り相手の話に困惑していた。



「……ん、何だコレ」


 肘脇の緩衝材の束に気付いた二瓶は困惑を深める。


「すいません。てっきり彼かと思いまして……」


「ん?……あ! いや、なるほど」


 試すようにポンポンと軽く叩く二瓶が、野上に確認するように目で物を言っているのを、微妙な顔で首を傾げて返す野上。




――DOGUBAAANN!!――



 秘書室の若手はその花火の音を聞き理解した。


 今日の花火玉の尺は少し小さいようにも思えたが、土台の質が物を言ったと考えると納得もいく。


 頭に過るは会議室の長机をまた運ぶ事になる面倒と、受け入れる他にない闘将に就いた自身の立場。

 淡々とこなす野上の姿勢こそが秘書の解と理解して、席を立った。



――KONKONN――

「失礼します、新しい長机貰いに行きますよね!」


 野上は若手の成長の速さに笑みを浮かべ、二瓶はまた余計な理解をされた自身の拳をじっと見つめ反省していた。



 その反省により思い返す当時の一件に、電話で聞いた事の確認を野上に向けた。



「野上さん、何か厄介事とか問題は無いか?」


 何を言っているのか解らない話をする上で、タイミングを図り間違えている事にも気付かずにした質問は、秘書の二人が片付ける長机を前に空を切る。


 成長過程の若手にも、付き合い長く感のいい野上にも、目の前の厄介事にも気付けないのかと呆れる顔は、二瓶の心に隙間風を通す程に二人は冷たい視線で返事となした。


「あ、ぃゃ、これ以外なんだが……」


「これ以上は御免です」

「それでは、失礼します」

「先輩、私何処までもついて行きます」


――KATYANN――



 秘書の若手の成長を促したのは闘将の手解きとも云え……


 自身の部下の育成を考える二瓶だが、野上への確認はまた追々として困惑する話の根幹に頭を悩ませ、件の繋がりが有るのか無いのかも解らぬままに何から手を着ければいいのかと、頭と資料の整理に棚の葉巻が目に入る。


 消えては現れる光は一筋縄ではいかない相手を前に、揺らめく難破船で星を見ているようにも思え。



「そうだ、天測航法も昔は……」


 


 アルクトゥールスからポラリスに……


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