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95〜勇気の一歩〜

 ミイラ取りがミイラに魅入られる……



「あれ?」


 藤真がライバル会社の土金不動産社長息子である駿輔の寄り付き先を数件廻ると店に本人がやって来た。


「おい、俺に何か用か?」


 何処から伝わるのか等と考えるまでもない統制された連絡網には感心する。


「ああ、お前ん所のがウチの客に手を出してるもんでな」


「……あ、ぇと、何の話だ?」


 思い当たる節があるのを隠す素振りが痛々しい程に判り易い。

 知ってて放置せざるを得ない状況も何年続いていたのか、我慢していた鬱憤を晴らしたい気持ちが口より手足を動かしたくてもどかしい。


「あれは土金不動産の仕事か? それとも」

「それ以上近付けばタダじゃ済まないのは判った上での話か?」


 それが持ち場の境界線だと言っているとも気付かないアホで助かる。

 しかし、もう一歩踏み込めば近付く処では無くなるなら、どう近付くべきか……


「お前のその口ぶりは俺が誰の事を言っているのか知ってるって事か?」

「ん? あ、いや、ん? ……知らねえよ!」


 アホが可哀相に思える。いや、可哀相なのはその配下の連中か……


 強気なアホ程扱い易い相手はいない。少し下手に出れば調子に乗って聞いてもない事まで勝手に話す。

 お立て上手ならその先の話まで聞き出せるのかも知れないが、藤真にそこまでの器用さは無い。


 この会話だけでも土金不動産と寄り付き先数件の関与が浮き彫りになった訳だが、何処まで繋がっているのか……


 そして、それが何に繋がっているのかが問題なのだが、いくらアホでも流石にそこまで話を引っ張れるとは思えない。



「なら、何に近付いたらイケないってんだ?」

「そりゃお前……」






 思っていた以上にアホ過ぎた。

 思考回路が停止したのか動かなくなった駿輔は、話して良い事と駄目な事の判別なのか


 それとも知らない下っ端か、言える訳が無い実行犯か……


 答えを待っていたが、何も言わずに目が向くとキレるでもなく去って行く。



「え?」


 追うのも憚れる駿輔の行動には、無い頭を使い捲ってショートでもしたかと思わせるが、寧ろショートする程に使って出した答えなのだろう。


 ただ一つ判った事として、駿輔自身がソレを怖れているという事だった。


 間違いなく組織的なものの中にあり、駿輔の自由を塞ぐなら土金不動産を覆い尽くす程の組織だろう事が判る。



 それは寄り付き先の店も同じ。

 なら、駿輔ではなく店主に聞いても……

 いや、聞ける筈がない。



 せめて次に繋がる何かは欲しかった。


 そんな悔しさが滲む顔をそのままに、藤真は店を出てから次に何を、次は何処へ、と考えながら道なりに歩いていた。



 どれ程歩いていたのかそれが何処なのか、通りの向かいに見覚えのある……ような、無いような。


「ん? ファット? あの自転車、間違いない! 何やってんだアイツ」



 声をかけようとした瞬間。


 その後ろを追う異様な連中の存在に気付く。


「な!? 嘘だろ? 何でファットが?」



 透子が誰かを連れてスーパーから出て来たが、明らかに数人の輩に追尾されながら……


 藤真が不思議に思えたのは、この程度の追尾くらい振り切れるだろう事と同時に、吹っ飛ばせる筈の腕力を隠している透子に対する違和感だ。

 無論、隣に居る連れの女性への配慮とも取れるが、先日吹っ飛ばされたばかりの藤真には納得のいかない思いが募る。


 が、それこそが透子が奴等の素性を認識しつつ動いている事の証明だった。



「くそっ! ファットのくせに……また俺は先を越されてたってのか!?」



 そこは隣町のスーパーではなく、駅から少し離れたスーパー。

 大泉を連れ出し誘ったのは、この店の安くて大きなメンチカツを薦めた話の流れから。



 駐輪場から歩道の切れ目まではと自転車を押し歩き、楽しそうに会話を弾ませていた透子の視線の端に……


「え、嘘でしょ……」


 向かいの歩道から怪訝そうにコチラをアホ面で堂々と見ている藤真。



 その姿に目尻が引き攣く透子。

 スマホを取り出し画面を確認するが、特筆は無い。

 あるにはあるが、この状況についてではない。


 想定外の事としてとりあえず藤真に背を向ける透子。




――PERONN――



 と、スマホにはまた通知。零からだ。


【何で居んの?】



「コッチの台詞だ!」

「え? 何が?」


「ぇ、ぁ、ぃゃ、これ! この看板」


 不思議そうに透子を見る大泉に〈自転車はルールを守りましょう〉の看板を指し、自転車専用レーンに堂々路駐し捲くる車の列に顔を向け見せてみせる。



「ああ、確かにそうよね。こんな看板出す前にって話でしょ?」

「そうですよ! 特にあんな高級車に乗って偉ぶってる奴にかぎって駐車料金ケチって路駐とか、見栄っ張りの貧乏性そのものでダッサいったらない!」


「不破ちゃん、それ、人乗ってる……」



 透子の指した高級車の中で窓全開に藤真を見張ろうと踏ん反り返っていた駿輔が気不味そうに窓を閉めるのを見て、笑っていたのは藤真だ。


 当然、自身の声の大きさにヤッちまった感丸出しの透子と苦笑いの大泉が気不味さから、前に見える高級車までの速度を落とす。



 その後ろで追跡者達が止まるも怪しく、抜くか止まるか迫られ妙な緊迫感に差し迫らされているとも知らず。




――BUWOOOOOOOOONN!――


 駿輔の方が居た堪れなくなったのか藤真の見張りもそぞろに走り去って行った。


 安堵に肩を竦め自転車に跨る透子達を、苦虫を噛み潰した顔で追い越す面々に理解が及ばずマヌケ面になる透子を見ていて笑いが止まらない藤真。



――CHIRIRINN!!――


 藤真を尻目に血眼号で走り出した透子達。




 その後ろ姿を見ていた藤真が何かに気付き、追尾されている自転車の透子を追うよりもすべき事と思えて、透子が出て来たスーパーを見返していた。



「ここって……あっ! そういう事か!」


 思い付いた何かにスーパーへ向かって行く藤真は嬉しそうに笑っていた。


 


 取り締まり、順を追わねばただの業……


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