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91〜狂想曲の強襲〜

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――BATANN――


「やっと判りましたよ」


 細井がキャンプ場で帰り際に受け取った監視カメラのコピー映像から、男の身元を突き止めた。


「ノック位しろ!」


 怒る二瓶の前に、何の因果か来客中の藤を見付けて迂闊だった自身の軽率な行動を反省する。

 注意の理由は明らかに男の身元判明の情報を藤に聞かれてしまった事だが、管理者に映像のコピーを取らせていたのは藤の機転だった事を踏まえて二瓶も何れ伝える予定ではあった。


 が、それを考えるまでも無く伝わるとは思ってもみなかったのだろう。

 藤がサンキューとばかりに笑顔を見せ、手に持つ男の資料がテーブルに置かれるのを待つ姿に、二瓶が項垂れ溜め息を吐いている。


 やっちまった感が細井を襲う。


「もういいから出せ!」


 躊躇(ためら)っていた細井の出し渋りを、二瓶が先に折れ提出を促した。

 平謝りでテーブルにそっと置く細井の資料を、我先にと藤が手を出すと二瓶が叩き落として奪い読み出した。

 細井が言いたい何かを待っていたのを見て藤が資料に何かがある事を気取り、男の素性に何が? と、二瓶が読み終えるのを、いや反応するのを待っていた。



「おい、細井これ……」

「そうです……」


 反応したが二人のやりとりの意味を理解出来ずに藤がしわを寄せ睨むが、黙り込む二人の埒が明かないもどかしさに待つのをヤメた。


「何だ? 何だよ! あの男の素性に何があった?」


 深く息を吐いた二瓶が仕方無さ気に藤を見る。

 目が合って尚、藤が前のめりになるのも睨みつけ、怪訝そうに声を絞って吐き出た一言。



「お前の引きの強さは何なんだ?」


「ああ?」


 二瓶の腹立たしい言い回しに立腹するよりも、何を当てたのかと当てた者の正体を待つ藤に。


「とんでもねえの見付けてくれたな!」

「何?」


「そうか、ひょっとするとあの栃来ナンバーの刑事……」


 話は前に進まずに、二瓶が後悔からかあの日の事を思い出していた。

 細井も頷き悔しがる。

 一人蚊帳の外で苛つく藤が会話の面倒臭さにテーブルの資料を手に取っていた。


「……え、これって、あの殺人事件のガキか?」

「ああ、これは繋がるかもな。」


「ん? おお! そうか! 勤務先の自動車工場!」



 二瓶と藤が盛り上がる中、細井が言うべき話を切り出せずに唾を飲み、盛り上がりが収まるのを待っていた。

 が、二人の観察眼はあっという間にそれを見付けて凝視する。

 細井が盛り上がりが終えたと思った時には二人に睨まれ……


「おい! 何だ!」

「え?」


 毎度ながらに言い出し辛い状況になっていた。

 先んじて言っておくべきだったと後悔をする細井だが、覚悟を決める。



「その、その栃来ナンバーの刑事と自動車工場が絡んでるものだから、逆に開示が出来なくなる可能性が高くて……」


「ああ?」


 二瓶がその可能性に思いつく所に至る前に、藤が自身のオーナー契約からヒントを得て裁判制度に基く何かだと睨み考えた疑問をぶつける。


「ひょっとして、あの殺人事件の裁判は終わってないのか?」



 二瓶が藤の質問が答えと気付き、チャンスと思い手にした鍵を取り上げられて、相手にしている者の汚さと運の良さに無情な悔しさを爆発させ、拳をデスクに振り下ろした。



――DOGUBAAANN!!――


――KONKONN――

「失礼します、どうかされま……ああ、」



 衝撃音に慌てて入って来た野上だが、確認するまでもない無惨に割れたデスクと、割って尚怒りの収まらない二瓶の姿を見て凡その見当は付いた。

 細井が自身の身代わりになったデスクの惨状に、知ってはいながらも肝を冷やしチラチラと目で追っている。


「おお、野上さん悪いね」


 二瓶の怒りも意に介さずマイペースに事を進める藤が、野上に気を遣う素振りを見せる。


「あ、その節は大変お世話になりました。おかげさまで透子も……」


 逃げ道を見付けた訳では無いが、透子の名前に細井が忘れていた感謝を思い出して話に入る。


「いや、ウチの麻友子も透子ちゃんのおかげで明るさを取り戻して、こっちの方こそ……」



 子供の話で盛り上がる三人の笑い声に、二瓶は怒りの腰を折られ意思とは別に理性を取り戻すが、割ったデスクの惨状に自身の行為を反省していた。


 しかし、自分の部屋で自身を除いて談笑している三人に注意もしたくなるのは当然だが、透子の事に触れ野上に強く言えない借りがある。

 どうしたものかに答えを出す。



「透子ちゃん、新しい学校で上手くやれてんのかい?」


 唐突に入って来た二瓶の心配そうな顔に野上が笑う。

 頷く藤と細井の様子に観察眼も意味をなさない。野上が笑いを収めて開口一番



「上手くも何もおかげさまで……」

「ウチのバカと争って学校のヒーローだよ」

「それで今、三人に剣道をやらせてるんですよ」



 三人の流れる様な話に、親も子も息があってる事が見て取れる。

 剣道の話に透子の身のこなしを思い出し、鬼に金棒の様な印象を受けた二瓶が透子の将来に身をあんじて聞き返す。


「剣道まで覚えたら、次はライフルか?」


 皆思わず笑うが、想像するに笑いが止まる。

 野上は心配事に顔色を変えていた。



「そうなったら……やはり、自衛隊ですかね?」


 静かに頷く三人はそのまま下を向き、キャンプに行った日の透子の服装を思い出し、そのまま大人に成長した姿を想像して違和感無く……


 その想像に怖さを覚えて野上が振り払う様に二瓶に尋ねる。


「あゝもう、では、このデスクの請求……調べておきます」

「あ、ああスマン」



 野上が出て行くと二瓶が口にする前に、細井は自ら率先して手を挙げて見せる。


「この件もう少し探ってみます。沢抹(さわまつ)に繋がる何かがあるかもしれないんで」


 栃来の殺人事件に繋がる思う所に不安が過る。

 二瓶が真剣な面持ちで細井を見やり注意を促す。


「注意しろ。相当にだぞ!」


 頷く細井に心配が融けず、その理由も明確に注意する。



「それと、名前を出すな! 何度言ってる」


 あっ! とばかりの細井の顔に不安顔を見せる二瓶。藤が先の思いやられそうな二人のやりとりに自身の手伝いの必要性を感じていた。

 二瓶が手本がてらに指示を出す。


「先ずは男の弁護士の繋がりと、あの刑事だな」

「はい」


「刑事が噂の父親って線は?」



 卑怯な相手を捕らえようと、男達がまた動き出していた。


 


 何が英気を養えた


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