09〜出会いと別れ〜
動き出す。
「……あれ?」
覗き込むが透子の目に生気を感じない。燃え尽きていた。自分の脳の限界に到達した……
ぃゃ、腸女を理解する事が出来なくなって脳と腸のバランスが崩れたのかもしれない。その影響は目に見える箇所にも現れだしていた。
「……はっ!?」
意識が飛んでいた透子が目を覚ます。
〈あぁ、デジャブね……目の前にはまた私の理想体型の女の裸体か〉
そして今度こそ本当に聞きたい、知りたい
「あんた誰よ!」
女が首を傾げ口を開いた。
「私はあなた」
〈会話の流れが変わらん……やっぱコイツはアホね。異世界でもSFファンタジーでもない、何なのよコイツは……乗れるお決まりの流れすら無いじゃない〉
と、再びアニオタ思考を巡らせてみたが類似する系統が思いつかず傾向と対策の予習も出来ず、何から手を付ければ良いのかと頭が喘いでいた。
〈まぁアニメやラノベから答えを出そうってのは無理があるわね。かと言って専門知識がある訳無いし……ていうか何の専門よ! そもそもコイツが何なのかも判ってないのに対策なんて出来る訳無いじゃない。ああもう……こんなの〉
「わかるかぁああっ!」
――BAGOONN!――
突然の大声に固まる腸女。と、同時に壁から突破られた青と赤の金属製の何か……バール?
「えっ!?」
〈ちょ、何? まさかさっき怒ってた隣の部屋の女が怒り狂ってドアじゃなく壁から来ようっての? でもこの力、男? 彼氏か何か? だとしたら…ヤバい、ヤバい何てもんじゃないわ。あっ!〉
「あんた、とりあえずコレ着なさい!」
――BASSA!――
出しっ放しの服からとりあえず着れそうな物を掴み腸女に投げ渡した。が、デザインが気に入らないのか不満そうにコチラへ向かい、選り好みしようと服の山に手を突っ込んだ。
「ぃゃあんた、今そんな場合じゃないから! アレが見えないの?」
と、透子が指差す方へ振り返る腸女の目には二人の男が映っていた。
固まる腸女の異変に透子も振り返った。
「あ、」
「え、」
「あ、」
「あ、」
「ぃ、い、い、い、ぃいぃやぁあああああ!」
透子の叫び声が鼠野良猫烏にGまで驚き飛び出す程に路地裏界隈に響き渡った。
「や、これはそのすいません……いやその野郎が隠れてたもんで、つい」
「馬鹿!」
「あ、いやその」
「リフォーム屋です」
「え?」
「私等リフォームを頼まれたんですけど、まさか隣の部屋にまだ住んでる人が居るなんて聞いてなかったモノですから」
「あ、そぉそぉそうなんですよ」
「ですからコチラも驚いてる次第で……」
「へへへへへ」
スーツの上着とシャツを脱いだ肌着姿の、中年とは言い難い位の男が何か取り繕うと必死になって言い訳をしているが、ダラダラと近所の悪口大会を聞かされている様な苛々が襲い、透子はスッカリ冷静さを取り戻してしまっていた。
「で、!?」
「え?」
「あんたらいつまで女の裸を堂々と覗いてる訳!?」
二人の男が顔を見合わせニヤけて戻す。
「ぃゃぁ、お嬢さんが綺麗なんでついつい見惚れちゃってね。なぁ」
「あぁ本当に綺麗な身体で……」
〈なっ! ヤバい、コイツら女だけと気付いて私達を押し倒して有耶無耶にする気だ。クソ、この糞女の事すら片付かないってのに今度は糞野郎まで……ああもう!〉
透子は得意の張り手で何とかならないかと拳を握り締めるが体重が載る感覚が全くない!?
〈そういや痩せてたんだった。これじゃ駄目だ、クソ。コイツの事すら守れそうも無い。こんな……私の分身か、私の理想体型がこんな奴等に……〉
「糞野郎ぉがぁあああっ!!」
――BATAANN!――
「って、あれ? 居ない。何処行った?」
「それそれっ!」
腸女が満面の笑みで指差す私の掌にはデブるの悪魔の羽が……
「あ、」
ウンウンと頷き賛辞を寄こせとばかりにまとわりつく腸女の顔が近付いて来るより先に胸が当たる……
「解ったから、とりあえず服着なさいよ! あんたも女なんだからお腹冷やさない様に気を付けなさいよね」
離れても尚こちらを覗きこむ腸女の顔が明らかに賛辞を待っている。
「あぁ、解ったわょ……凄いです」
「でしょーーーっ! ねっ! ねっ! ねぇーーーっ? これで透子もデブるーね!」
「はいはい、良いから服着なさいって……」
〈ん?〉
「デブるー?」
「……あ、」
「ちょっと、デブるはこれじゃなかったの?」
「ぁあ、ぃゃ、その、デブるを使うから使う人をデブるーって、ね!」
「あぁ、なるほどね」
〈何か怪しいなぁ……〉
「まぁ、良いわ。とりあえず…あいつ等は逃げ出したのよね?」
「うん、何かデッカイ箱とか色々持って逃げてった」
隣の部屋との壁が板一枚分扉みたいに剥がされ壁紙はズタボロに……
〈こんな破壊して、大家さん知ってるのかしら……って多分リフォーム屋なんて嘘よね。だとしたら……?〉
腸女が服を着たのを確認し隣の部屋を覗き込む。
「お邪魔しま〜す」
壁の向こうはクローゼットの板間だった。部屋まで入ったが誰も居そうもない。
かなり暴れたのか荒れた状態の床に落ちている割れた写真立ての中で、旅先の彼氏彼女が楽しそうにイチャついている。
〈やっぱり、さっきの奴等とは違う……〉
更に散らばる床から二人の免許証を拾い上げた。と、同時に散らばるお札や紙の下から噴き出したのであろう鮮血痕が点々と……
僅かな点を辿って壁を見ると、つい今しがた拭われたと思われる様に濡れていた。
〈これ、間違いなくヤバい事件だわ……確か入居手続きの時に大家さんが『隣の部屋も同年代の女の子だから安心でしょ!』って言ってたけど、入ってスグにアレな声がしてたし勝手に同居してたっぽい事は知ってたけど……こんな優しそうな彼氏だったんだ……〉
「って、何で私が感傷に浸ってんのよ。あぁ、もう!」
そう弱気を吐き嫌な予感よ去れとばかりに覇気を出しシャワールームへと歩み出した。
一部屋……
ダンジョン探索で1マス増えた位ですけど、ホームドラマが事件で動き出す……か?