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82〜狂想曲の強襲〜

 釣りは太刀魚



 細井は奥さんと娘、藤は娘夫婦と孫、そして二瓶は奥さんを乗せそれぞれの車で六日市のキャンプ場まで来ていた。


 最後に来た藤の車に二瓶や野上の分のテントも積んでいた。


「何でそんなに持ってるんですか?」


 細井が藤に聞くと商工会系のイベントに使う事もあるとかで、ほれ! と指されたバンの後部座席を覗くとテント以外にもトランクに入り切らず座席にまで積まれたBBQのセットから釣り竿まで取り揃えられていて遅れた原因も理解出来た。


 久し振りに会う主婦同士の社交事例の挨拶が馴れ合い旦那の悪口大会に変わる頃に、勘付いた藤が場所取りをさせていた下に居る婿(むこ)と子供達を指差し荷物を皆で運ぼうと声をかけると、主婦達が二瓶の奥さんを労い場所取りに一緒に行った子供達の見張りを頼み車にやって来た。



「何であの人が場所取りしてんのよ」

「あ? いや、居辛いかと思って」


「そうじゃなくてあの人に荷物持たせりゃ良いじゃない」

「お前、そりゃ、酷えな……」


 娘の夫に対する残酷な提言に、藤は呆れ普段の婿の生活を心配していた。




「ヤンキー、釣りを教えてやるよ」

「え、うん、でも私魚は」


「大丈夫だよ俺に任せな」

「うん、わかった」


 藤真(九歳)が細井の娘に自分の凄さを見せようと偉ぶる姿を父親はその傍らで心配していた。


 藤真は未だに餌の付け方もいい加減で、釣れたのは入れ食いの観光地の釣り堀のみだからだ。

 そんな心配も強気な息子はお構いなしに教えたばかりの知識を必死に繰り出し女の子をグイグイ引っ張りエスコートしていた。

 婿入り前の過去を思い返すにいつまでエスコート役だったのか、そしていつからレッドカーペットになったのかと考え、誰がカーペットか!? と、自身に問いかけ気が付くと藤が荷を持ち心配そうに見ていた。


 気不味そうに立ち上がり、まだ他に運ぶ荷はないかと確認するが、その後ろから荷を持ち怪訝な顔を向け迫りくる妻の姿に、子供達に逃げ場を求めるが、既に二瓶の奥さんと楽しそうに笹舟を作っている。


 婿の刹那の溜め息は藤の心に切なく響いていた。






――KANKANN!BAH――


 これまで商工会等で何となくでやっていた藤の間違っていたテント張りの知識も、細井の指南で無事張り終わり、食事の準備にかかり出した所で、二瓶が野上を迎えに行くと言って逃げ出した。


「ヤンキーと釣り行って来る」

「ヤンキーじゃないでしょ! 麻友子ちゃんて言いなさい!」


 藤真のはやる気持ちに藤の娘が頭を叩き注意し細井の妻に謝罪する。

 それを見て藤がチャンスとばかりに子供達を連れて釣りを見ててやると言って逃げ出した。

 下ごしらえ中に気付いた細井が悔しがる。


「くっそ、またかよジジイ共が」

「ちょっと、何その汚い言葉は」


 妻に注意され行き場の無い思いは藤の婿と目が合い同期した。

 互いの泣きっ面を見せ合い頷くと、互いの妻に頭を叩かれ哀愁も許されぬキャンプの始まりにボーイスカウト活動のキャンプと重なり子供達を羨んでいた。


「これで何を作るの?」


 唯一の救いか二瓶の奥さんが洗い場に顔を出す。

 子供達を藤が連れ立って行き、手持ち無沙汰に手伝いに来た。

 遠慮も失礼に思え妻からの圧力から逃げる手立てと男二人が目を合わせると二瓶の奥さんも頷いていた。



「麻友子ちゃんは今、学級委員なんだって? ごめんなウチの馬鹿が迷惑かけてるだろ」

「うん、いっぱい」

「おい、ヤンキー嘘つくなよ俺も手伝ってるだろ」


「え?」

「え? だってプリント運んだり……ウサギに餌やったり」



 我が孫ながらに残念な主張に顔を燻らせ釣具を持つと川に向かって促した。


「さ、いっぱい釣ろうな」

「おう! 皆の夕飯にしよう」

「私、魚はちょっと……」


「何だ、麻友子ちゃん魚苦手か? 釣りたては美味いぞお」

「俺がヤンキーの分も釣ってやるよ」


――GATYAAANN――



 麻友子に振り返った藤真の釣り竿が他のキャンプ客の手に当たり缶ビールが散乱すると、イキった二十代後半位の男が藤真の胸ぐらを掴み持ち上げる。


「おぉ、すいません」

「ごめんなさい」



 藤と麻友子が謝る。藤真は首が締まっているのか恐怖からか声が出ない。


「何してんだこの野郎! ビールが転がっちまったじゃねえかよ」



 既に拾い始めている麻友子に蹴りを入れようとする連れの女を見て、藤が機敏に間へ入り脹脛に蹴りをくらうが、女に顔を向けると目をあてる


「お姉さん、子供のした事に謝罪はするが、暴力は見過ごせねえなあ! お兄さんも手を離してくれねえか?」



 藤の争い馴れた風貌も意に介さず平然と子供に手を出し、尚も揉め事を深みに引き摺り込もうとする性質の悪さには何かしらの後ろ盾があると理解できる。

 藤が子供を前に手うちをと、財布に手をかけた。



「これで、酒のツマミも良い物に出来るだろ、すまなかったな」

「おう、今度から釣り竿はお前が持てよ! 子供に持たせちゃ可哀相だろ、な!」


 男が乱暴に札を受け取り女を連れ立って行くと藤が子供達を抱き寄せ、大丈夫大丈夫と背中をさすり落ち着かせてながら男達の車の車種とナンバーを確認していた。



「栃来ナンバーか……」


 遠方から来て、旅の恥はかき捨てとも思えぬ因縁をつけ慣れた性質の悪さに何処か知った感じがしていた。

 恐らくはわざとぶつかりに来ていたとも思えるが、子供には周りへの注意をして、怖い思いは捨て去るように落ち着いた所で釣りへと促した。




「ほら、皆の分釣るんだろ。時間なくなっちゃうぞ」

「うん、行こう麻友子」

「うん真君教えて」

「任せろ」


「周り見て」

「はああい」



 注意する麻友子と不貞腐れる真の姿に藤は安堵し笑っていた。







――PUFUUUUUU――


 駅前の喫煙所で待つ二瓶が、改札を抜けてロータリーに出て来た野上を見つけると、予想外の連れに呆けた顔で声をかけるタイミングを失い、野上の方が気付き声をかけ近付いて来た。


「すいませんわざわざ迎えまで、今日は色々よろしくお願いします。あ、あとこれが連れでして……」


 普段着とはいえキャンプと聞いてアクティブに対応出来るようにして来た私服は、普段見ているスーツ姿とはかけ離れ、何か久々に女性を相手にした気がして妙な恥じらいを感じたのか、二瓶は挨拶もまませぬ内に煙草も半分程に消し車へと連れ立っていた。



――BURORORORO――


 


 逃亡にもルールのルート


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