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80〜狂想曲の強襲〜

 若きお局様



 二瓶が珍しく資料室にいるのを見た者達は出世レースにのれるかもと話しかけようと近付くが、その異様な雰囲気に圧倒されると同時に、資料を持つ二瓶の腫れ上がった拳が見えると静かに方向転換して行った。


 二瓶の部屋では二人の秘書が修理箇所の確認をしている。

 二瓶が資料室へ向かう際に秘書室に顔を出し、片眉を上げ謝罪とは判り兼ねる顔で


「すまん修理代の請求は俺で」


 と、言い残し消えて行った。

 またかと秘書室のお局寄りの数名が溜め息を吐く中で若い秘書は何の事かも判らない様子に、部屋の惨状確認へと連れられていた。



「どうやったらこんな分厚い机が割れるんですか?」

「さっき皆で外見て探してた花火」



「……え? アレ、コレ?」


 頷く二回り程上の先輩秘書の反応に割れた机を怪訝そうに、いや、化け物を見るように……


「前よりはマシよ。歳かもね」

「老いてコレって……」


「それだけ悔しい何かが今起きてるのよ」



 二瓶が相手にしているのがどういう者なのかを直接は見ていないが、部屋の惨状から推測される憎々しい相手に立ち向かう二瓶を秘書としてどう支えるかを教えるには最高のシチュエーションだった。


 が、若者とは常にすれ違う感性にあるのかもしれない。



「スポーツジムで発散すれば良いのに」



「……ぁぁまぁ、そういう事では無くて」

「修理代より安く済むし筋トレにもなるしで一石二鳥ですよ」



「……そうね、スケジューリングでスポーツジムも入れときましょうか」


「はい」



 若い考えを摂り入れる柔軟性が有ればこそお局にまで上り詰めたのだと。

 しかし、前回の修理代確認はいつだったかと思い返すに自身も若かった事を思い出す。


 それは今正に資料室で二瓶が読んでいる資料の作成時の頃だった。




……十数年前……



「二瓶さんコレ、また消えてますよ」

「あの野郎、汚ぇ真似しやがって、絶対追い詰めてやるぞ」


 山積みの資料をあれやこれやと漁っては確認する二瓶と細井が、部下の連絡で変更された内容を確認していた。


――KONKONN――

「失礼します。藤様が来られてますが」


「ああ、またか。執けえなあ」

――BATANN――

「悪かったな執こくて」


 秘書の制止を押し退け藤が勝手に入って来るなり喧嘩腰で山積みの資料の上に封筒を叩き付けた。

 二瓶も細井も中身は凡その見当はついているが立場上それを開封するのは憚れる物だった。



「いや、お前も判ってるだろ」


 二瓶もソレを開けたい気持ちがある事は細井も藤も、そしてその立場上の都合に配慮して速やかに部屋から出て行った秘書も理解していた。

 しかし、その日の藤はその煮え切らない態度を一変させる話を持って来ていた。



「解らんで良かったわ、騙されたと思って開けてみろ」

「あ? 騙されたで済まないから……」


 藤の不敵な笑みに二瓶と細井が怪しんで顔を合わせると、思い出した記憶から封筒を退かし、山積みの資料の中を探し始めた。

 それを見て藤は棚にあった葉巻ケースから一本取り出し口に咥えるとマッチを探して思い出したように話を付け加える。


「そおそお、確か細井が調べてたよな」


 そう言って見つけたマッチで火を点けると美味しそうに燻らせていた。


 二瓶は細井が調べていたと聞き思い出したか細井を指差し山積みの資料から外れた別の枠に置いていた資料に指を差し、取りに行った細井が開いた資料に頷いてみせた。


「これ、そうか、これならソッチと繋がってても可怪しくない」


 目を煌めかせて資料に目を通す細井に二瓶が悔しそうに顔をしかめて藤を見ると、藤は煙で輪っかを作り(おどけ)けてみせた。


「くっそ、やってくれる」


 二瓶がこぼすと藤が葉巻で封筒を指し開封を促す。

 封筒の巻を解くと中から出て来たのは金皮県議連と癒着する企業と共に税金の流れを紐解くのに必要なNPO団体の皮を被った利権団体の実態と職員の経歴等の中に、藤が追っていた問題に関わるNPO団体と職員の経歴が、二瓶の追う議員の癒着企業に繋がっていた。



「お、おい、これ」

「な!」


 藤が前のめりになり、二瓶に葉巻を向けた。


「火のない所に煙は……」


 藤のソレを聞いて細井が資料に目を戻し何かを考えると質問するように続ける。



「でもコイツは煙が悪いと言って……」


 それに答えを出したのは藤では無く、藤の資料を読んでいた二瓶だった。


「なるほどな、煙草叩きの本当の理由は嫌煙じゃなく、テメーが隠し持ってた火種を隠す為か」



 正解とばかりに煙を吐いた藤が真剣な顔を向け、二瓶と細井を見やっていた。


「何だ? まだ何かあんのか?」



 不穏気に二瓶が藤の顔と資料を確認すると、細井が何かを思い付いたように焦り口にする。


「まさか、売り捌く気じゃ……」


 細井の言葉に二瓶も焦り顔を見合わせると藤が落ち着かせるように冷静に語る。


「いや、既に売り捌いてる、問題なのは誰の手でかだ」

「んあ?」



 憤怒の顔で思考を巡らす二瓶より先に、細井が藤に近付き葉巻を奪い一口吸って落ち着き直すと何かに気付いた顔を伺わせたのを見て、今度は二瓶が葉巻を奪う。



「ふぅぅぅぅ、ん? 誰が……」



 奪い返した藤が燻らせ二瓶に吹きかけると、払い除ける仕草で思い出した。


「ああ! あ? でもアイツは別の所に……」



 藤と細井の顔を見るが首を横に振っている。


「だって、寄稿までしてるんだぞ」



 縦に振る二人に信じられないとばかりに何で繋がるのかを顔で問うと、細井が別の資料から出した調査中の計画を指した。

 それを見た二瓶が、まさかといった顔になる。




「嘘だろ、それが本当になったら国が終わるぞ」



 真剣な表情の二人に深く溜め息を吐く二瓶が葉巻を奪い考えるのを嫌い宙を見ていた。



――PUFUUUUUU――


 


 燻製は時を駆けて


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