08〜出会いと別れ〜
もう少し二人のホームドラマにお付き合い下さいね。
「ちょっ、あんたソレ大事にしないとイケないんじゃなかったの?」
「ふへっ?」
「ぃゃぃゃ、穴開けちゃってるじゃん!」
指をさされ、デブるに通したネックレスチェーンを持ち上げ見つめ直し、振り返ると満面の笑顔で応える。
「良くないコレっ!」
「……いやっ、そうじゃなくて! 穴よ穴っ! あんたが開けたその穴は良いわけ? 中心部に穴なんてヤバイんじゃないの?」
「……ぇ、あぁ……」
確認しただけで固まりまた汗を薄っすらかき出した腸女の様子を見て嫌な予感しかしない。
〈コイツ、マジか……〉
透子は頼れぬ不安を拭い自信を奮い立たせようと一点を見つめこれから起こり得る厄災を恐れるものかと、より恐ろしい悪魔にも成ろうかと悪魔の羽に目を向けていた……
「うぅん、あぁうん、多分……大丈夫!」
マヌケな声が気合を入れ対抗策を考え始めていた透子の耳に届く迄に十五秒程を要した。
ゆっくりと大丈夫の意味を思考するも理解に苦しみ眉を歪め首を傾げた。
「……何が? 何をどう大丈夫って言うつもり? きっちりかっちり説明しなさいよ!」
と、不安が怒りに変化しつつあった透子の目に更なる衝撃の光景が飛び込んでしまった。
〈んな、何なのそれは……〉
「ほら! ね! ね! ねぇっ!」
――BUCHUBUCHABUTYABUCho…――
腸女がデブるの球体にブスブスと指を刺しまくると、その都度指された場所に穴の位置を修正していて、その修正を腸女が大丈夫の根拠としているのは解かったが……
修正した穴の周りが流血したように爛れていてとても大丈夫とは思えない造形美に、自身のソレに対しても気味の悪さが指に伝わり出したのを感じ始めていた。
〈コレ絶対大丈夫じゃないわ! あぁ……ヤバいヤバいヤバい、ヤバい……絶対ヤバいやつよね……〉
腸女は刺すのが楽しくなってきたのか、無邪気な子供がハマってる時の目がマジなのに笑みを浮かべて残酷非道な虫遊びや生き物イジメを想起させるアレ状態。
透子の目には昔観た映画の人を襲うサイコパス人形の【チャッビー】にしか見えなくなっていた。
「て言うか、音……」
――BUCHUBUCHABUTYABUCho…――
「あはっ。気持ちいいよコレ!」
ぶちっ#
「……あ、……」
脇見して突き刺した指が球体を引き裂き、まるで握り潰したトマトの様な流体になって羽がしな垂れていた……
見た目は完全にアウトだ。
「ぃゃぁあああっ!!」
透子の叫び声でチャッビーは呪いが解けた様に己の手の中の惨状に傍観し明ら様な戸惑いを見せ始めた。
「あれ? あれあれ? あれれれれぇ〜? ぉお〜ぃデブるく〜ん? ……で、デブるちゃん? デブるさん! デブる様ぁ! ちょ、ちょっとぉ、お願い戻って来て……下さいまし……」
デブるを縦に横にと振りかざし神頼み状態の腸女の姿を見させられて透子も流石に不安が冷めた。
「そんなんで治る訳ないでしょ。もう新しいの作れば良いんじゃないの? 何すれば出るのかは知らないけど……」
「無理! マジ無理だから! 帰って来て下さいよぉおデブる様ぁあああ!!」
「えぇぇぇえ、無理なのかよ……」
「デブる様ぁあああ!」
腸女の神頼みは土下座に至り天に届けとばかりに振り上げ下ろし、雨乞いの様になって来て遂には拝み出したかパンっと両手を合わせた!?
――BUGUTYA!――
……つまり、掌で……潰した。……なぁむぅ……
「で、で、でデ、ブる……様?」
合わせた掌を開き見る事も出来ず、自らの行いに恐怖した。
オロオロと涙を流しすすり泣く腸女を困惑の目で見ていた透子だが、少し安堵している自分に戸惑っていた。
〈ぃゃ、まぁ、とりあえず無くても問題無い……というか私にとっては問題が無くなった訳で、これで良かったのよね……多分……〉
そう自分に言い聞かせ腸女を悲しみの果てから拐って励ましてあげようと近付き肩にそっと手を当てた。
「まぁアレよ、所詮この世では形ある物皆壊……れ、えっ?」
腸女の掌の隙間から赤みがかった雷光が漏れ出し、垂れていた羽やよく解からない中心部の流体が雷鳴の様な音と共に吸い込まれて行く。
神秘的と表現するには偲びないまでに祟りや呪い的な類いの光景に二人とも言葉は失われ見入っていた。
――BUCHUBUCHABUCHUBUCHABUCHUBUCHA………GUCHURURURUNN!――
――DODODODO! DOBBaAAAANN!!――
「おかえりなさぁい、デェエブる様ぁあああ!」
――ZUBBU!――
神話の如き見事な復活を遂げたデブるの悪魔の羽側から勢い良く掌から飛び出して来て、爪らしき羽の先っぽが喜び勇んで迎える腸女の眉間に刺さった。
「やっぱコレ意思あるわよね……恐っ!!」
透子の心の声が口から堂々漏れる中、腸女の悲痛の叫びも響き渡る。
「フギャぁあああ……」
〈あれ? そういえば……〉
「あんた! 痛みを感じるのね」
「当たり前でしょぉお!」
「でも、私のヘソ作った時も痛みは無かったじゃない……妙な感度は有ったけど……」
――SUPPOONN!――
デブるを眉間から抜き垂れる血を拭きもせずコチラを見やると次成る驚愕の光景を見させられた。
「うぅん、それは……こんな感じかなぁ?」
腸女が眉間に指を差しあて、くるりとなぞる……
「こうしてぇ……あら不思議! ほら!」
血が消え……ぃゃ傷痕すらなくなった。透子の質問に答えたつもりなのだろうが更成る疑問の追加情報が付随されてしまった。
「ぁあうん、ぇえっと……あぁら不思議、じゃないわっ! 何なのよ! アンタの身体は? 何が何なのかさっぱりよ! 訳解らな過ぎて質問してんのに斜め上を行くとか、もうウンザリ! お願いだからひとつひとつ優しく教えてよぉおおもおぉ」
不安から怒り、怒りから不安へと崩壊寸前だった透子の精神が情緒不安定になり出して、参っているのは理解しているが応える答えが解からない腸女だったが、人差し指を透子に突き出し答えを出した。
「この指、便利でしょ!」
〈……マジもう、ギブアァァァァップ……〉
ホームドラマ、コメディー要素が強めでしたか? 分類的には一応、SFパニックで合っているのです(笑)